第507話 貨物船、鉄甲艦3
一日空けて俺はアスカ2号を連れてマハリトの港に跳んだ。場所は海軍の大型ガレー用桟橋だ。桟橋は岸壁から沖に向かって200メートル近く延びていた。以前は大型ガレーが並んで係留されていたそうだが、先日のミルワとの海戦で全て喪失し今は空になっている。
桟橋の上にスカラム宰相とカフラン軍務卿とディズレー財務卿の他、海軍司令官、そして海軍の兵隊が6名、全部で10名揃っていた。海軍の兵隊についてはさすがにただの兵隊ではなく士官だと思う。
「みなさんおはようございます」
「「おはようございます」」
海軍の司令官以下7名が自己紹介を済ましたところでさっそく貨物船と鉄甲艦を海に浮かべることにした。やっぱり6人は士官だった。
「それじゃあ、船を浮かべます」
「マスター。手前では水深があまりないので、桟橋のもう少し先で降ろしてください」
「了解」
桟橋の中頃、100メートル先の右側に、貨物船をなるべく水面に近いところから水平になるように排出した。俺もだいぶ船の排出には慣れてきたので上下に船が揺れるだけで排出できた。
貨物船の反対側、桟橋の左側に鉄甲艦を排出した。かなり異形な鉄甲艦の全形がみんなの目にも入ったようで、驚きの声が上がった。
「マスター、このままだと船が桟橋から離れていきますから、ロープがあればお願いします。鉄甲艦には7メートル、貨物船には12メートル、各々2本お願いします」
確かに。俺は何も気にせず海に浮かべたロイヤルアルバトロス号に転移で乗り込んでいたから気付かなかったのだが、桟橋にもやわないと桟橋から船が離れていってしまう。
ナイロンの丈夫なロープがアイテムボックスにあったので最初に鉄甲艦用の7メートルのものを渡した。アスカ2号はまず鉄甲艦の艦首近くに飛び乗って船側のでっぱりと桟橋側の出っ張りにロープをかけた。
俺が渡した2本目の7メートルもののロープを手にしたアスカ2号は、艦尾に飛び乗ってそこのクリートにロープをかけて、桟橋のボヤードにロープをかけた。
貨物船の方も同じようにロープが掛けられ、2隻とも桟橋に固定された。
アスカ2号が貨物船に飛び乗った時には宰相以下のハリトの連中から驚きの声が上がった。乾舷の低い鉄甲艦はまだしも乾舷の高い貨物船は一般人では梯子でもないと船に乗ることができない。
俺はアイテムボックスの中から梯子を見つけて貨物船の舷側に立てかけてやった。これで準備完了だ。
「それでは最初に貨物船から試乗してみましょう。
梯子がちょっと不安定だからみんな気を付けるように」
俺が先頭になって貨物船に乗り込んで、俺の後をスカラム宰相以下が続いた。
大型ガレーの長さは40メートルほどなので、全長60メートルの貨物船の大きさにみんな驚いていた。
全員乗り込んだところで梯子を収納し、アスカ2号がロープをボヤードからほどいて自分自身は桟橋からジャンプして貨物船の上甲板に飛び乗った。
10名がぞろぞろとアスカ2号の案内でブリッジのある船上構造物の扉から中に入っていった。1階、2階には食堂なども含めた各船室があり3階がブリッジになっている。
3階のブリッジでアスカ2号がハリト語で口頭操船を始めた。
「それでは、この貨物船を動かして見ます。
貨物船1号、微速後退」
貨物船は後退を始めた。誰も漕いでいるわけでもなくゆっくり船が動き出した。
海軍の士官たちは特に驚いていた。桟橋から十分遠ざかったところで、今度は旋回しながら前進を始め、他の船の邪魔にならないよう沖に船首が向いたところで貨物船はそのまま加速を始めそれ以上速度は上がらなくなった。
貨物船の最大速度は時速15ノット。今は空船なのでもっと出ているのだろう。ガレー船では到底考えられない速度のため、これにも全員驚いていた。
「この舵輪に向かって口頭で指示を出してください。貨物船への指示は、最初に『貨物船』ないし『貨物船1号』と言った後、指示として意味のある言葉ならどういった言葉を使っても構いません」
艦長候補の一人にアスカ2号が声をかけた。
アスカ2号に指名された艦長候補は、しっかりとした声で、「貨物船1号、取舵」と舵輪に向かって指示を出した。
貨物船はゆっくりと左に旋回を始めた。ある程度旋回したところで「貨物船1号、舵中央」の指示。
貨物船の旋回が終わり直進を始めた。
「港に戻り着岸するには『貨物船1号、港に戻り、出発地点の桟橋に着岸せよ』といった指示でも十分です」
艦長候補がその通り舵輪に向かって指示を出したところ、貨物船は進路を変えたあとまっすぐ港に向かい、桟橋の手前で減速してぴったりと桟橋の最初の位置に戻った。
桟橋に戻った貨物船からロープを垂らし、アスカ2号が桟橋のボヤードに括り付け貨物船を桟橋に固定した。
舷側から桟橋に梯子を下し、桟橋に下り立った。
「次は、お待ちかねの鉄甲艦です。それで、貨物船もこの鉄甲艦も鋼でできています。貨物船の船体は薄い鋼板製ですが、鉄甲艦はかなり厚い特殊鋼板で鎧われています。特に衝角とそれにつながるのこぎり状の鋼板は超々高張力鋼製です。敵艦が木製なら簡単に喫水線下に大穴を開けることができますし、万が一敵艦が鋼鉄製であっても、大穴を空けることができます」
テストしたわけではないが、おそらく、きっと俺のいま言ったことは嘘になることはないだろう。
鉄甲艦の全長は50メートルだがその長さには衝角も含めているうえ、船首と船尾は水没している関係で水面に出ている部分の全長は30メートルほどしかない。それでも十分大きいといえば大きい。
鉄甲艦の艦上構造物は艦首のこぎり状の鋼鉄の突起と艦中央に潜水艦のセイルと同じような形をした構造物。その後ろに艦内通気用の煙突形状のパイプが4本並んで立っているだけである。
鉄甲艦の中に入る入り口は艦橋のあるセイル型の構造物の基部にあるハッチしかない。乾舷が低いので荒天時や高速航行時には波が入る恐れがあるので、ハッチはしっかり閉める必要がある。また、手すりなどは付いていないので、航行中船外に出ることは好ましくない。ここの連中は太陽のない大空洞世界の住人だから太陽の光が恋しいということは少なくともないだろう。
ハッチを開けた先は、上下に続く梯子だけのただの踊り場で、天井は網目状の鋼板で上のブリッジの床になっている。最後に中に入った俺がキッチリ扉を閉めた。
「操艦方法は先ほどの貨物船と同じで舵輪に向かって口頭指示になります。ブリッジへはこの梯子で上がることになります。艦内を見て回った最後にご案内します」
一人ずつ梯子を下りて艦内に入っていった。
艦内は結構広い。潜水艦ではないので潜水用のタンクや電池室があるわけでもないし、貨物船ではないので貨物室があるわけでもない。ブリッジに見張り用の窓があるだけでそれ以外には窓はないので、艦内は常に電気照明になる。
アスカ2号が居住区画、機械室、機関室などを案内して回った。艦長以下乗組員が12名なので結構空き空間がある。
機関室では、2軸のスクリューを回す3300kWメタルゴーレムコマエンジン(直径70センチ、タンデム)2基=6600kW=9000馬力。
発電室では、130kWのメタルゴーレム発電機が2基と同期装置などを組み込んだ配電盤。
主機械室では通気用ブロア、注排水ポンプなどのベンチレーター類。そして、造水装置などが並んでいる。清水タンク、用水タンクは艦内数カ所に置かれている。
排水ポンプは、主機械室だけでなく、艦内各所に置かれている。
「艦内はこういった感じになっています」
貨物船内ではこういった機械類を見せていなかったので、ハリトの連中は見たこともないような機械類に圧倒されていた。
「それでは、最後になりますが、ブリッジにご案内します。
ブリッジは少し狭いのでご注意ください」
アスカ2号に案内されて、階段を2階上ってブリッジに上がった。ガラスのはまった見張り窓が前後左右にはめ込まれている。ハリトでもオストランでもガラス窓はあるが大型で歪みのないガラスの製造は難しいため窓などには桟を格子状にして格子の中にガラスをはめ込んでいる。
ブリッジの前方中央にはおなじみの舵輪。
ブリッジの脇には予備発電機として130kWのメタルゴーレム発電機が1基と配電盤が置かれている。
ブリッジ内は確かに狭いのだが、通常艦長ないし副長の他見張り員2名がいるだけなので、それほど狭いわけではない。
「……。
これで、艦内の説明を終わります」
艦内を一通り見て回った後、アスカ2号が説明を締めくくった。
使ってみればかなり使いやすいのだろうが、ハリトの連中にとっては相当ハードルが高いと思う。一目見て簡単な説明を聞いただけで使い方が理解できる者は日本人でも少ないだろう。
これは最低でも2週間くらいアスカ2号を貸し出して教育と訓練を施した方がいいだろう。あとは機器の取説だな。実際に運用を始めれば、不具合も出てくるだろうし、ノウハウ的なものも貯まってくるだろう。
ハードの面で俺の気づいたことは、長い作戦航海が可能になるわけだから、艦体の強度を損なわないのなら、展望窓はあってもいいかもしれない。装備で必要なのは見張り用の双眼鏡。あとは探照灯くらいか。
試乗会が終わりみんな鉄甲艦から下船した。訓練に使用するならまずは貨物船だろう。
鉄甲艦はおそらくこの世界で無敵のためもし盗まれたら大変なので、アスカ2号に係留用のロープを外してもらい収納しておいた。貨物船は置きっぱなしになるので、警備ゴーレムを桟橋に2体残すことにした。
警備ゴーレムがいる以上、賊が船を盗むことは考えられないので、再度鉄甲艦を桟橋に横付けしてアスカ2号にロープで桟橋につないでおいてもらった。
すまんね。




