第506話 楽園の泉の別荘
夕食後、みんなで部屋割りをした。子どもたちは6人で一部屋。残りはそれぞれ一人で一部屋になった。14部屋の内、6部屋使って8部屋余った。空いた部屋を子どもたちの勉強部屋と親父が来たとき用の客間にするくらいしかない。
翌日。
みんなは昨日のうちにカタログに印を付けてアスカ3号に提出したようで、注文した物品は部屋の中に生えてきたようだ。
外注の物品の到着はまだ先なのだが、用水や排水については設置後配管工事が必要だそうなので、今日は別荘を楽園の泉の脇に設置しに行くことにした。
ダンジョン内での作業なので、造船所の作業用ゴーレムが使える。ゆらぎを別荘内に作り、連絡通路に繋げてしまえばコアに資材の製造も頼めるし作業用ゴーレムたちは資材の運搬もできる。
別荘を楽園に設置するにはまず整地だ。以前整地はしているが、土台が40メートル四方もあるとは思わなかったので拡張する必要がある。
整地といえば華ちゃんなので、華ちゃんと一緒にピョンちゃんも久しぶりに楽園に連れていった。
別荘設置予定地を拡張するつもりで跳んでいったのだが、そもそも以前整地したところも下草どころか木も生えて、木にはちゃんと実も生っていた。楽園と言ってもダンジョン内なのでそんなものなのだろう。せっかく造ったプールも周辺が崩れて沼のようになっていた。エサやりはゴーレムに任せてもいいので錦鯉でも飼えばいいかもしれない。
「しばらく見ないうちに、ずいぶん荒れちゃったな」
「そうですね」と、ヘルメットの上にピョンちゃんを乗せた華ちゃんが周りを見回しながら答えた。
「華ちゃん、以前草を払ったところを拡張するような感じで払ってくれ。40メートル四方な」
「はい。
ウィンドカッター」
華ちゃんの放った風の刃が地面をなでるように飛んでいき、40メートル四方に生えていた木が下草もろとも切り倒された。俺はその40メートル四方を20センチくらい削り取るような形で木も草も一緒に収納した。その後、華ちゃんの重力魔法で40メートル四方を突き固めてもらったら30センチ程度へこんだので、アイテムボックスから20センチくらいの厚さでサラサラの砂を敷いてやった。その上を再度重力魔法でつき固めてもらった。10センチほど窪んだままにしている。
「それじゃあ別荘を置いてみる」
家の向きというか玄関の方向は悩むところだが、ピョンちゃんもいることだし、玄関は楽園の真ん中方向に向けることにした。
排出。
きれいに整地した上で土台付き別荘を排出したおかげで、うまく別荘を土台ごと設置できた。
水平を確かめようと、アイテムボックスの中で水準器の類はないかと探したところ、ホームセンターで買っていたらしい。
土台の上に水準器をあてて水平かどうか確かめてみたが、いちおう真ん中の赤丸の中に泡が入っていた。オッケー。
あとは別荘の玄関ホールにゆらぎを作るだけだ。
「コアのところに行って、ここの玄関ホールにゆらぎを作ってもらって屋敷と繋げてくる」
「わたしたちは玄関ホールで待っています」
華ちゃんとピョンちゃんを残して俺はZダンジョンのコアルームに跳び、コアに手を当てて楽園に置いた別荘の玄関ホールにゆらぎを作ってもらった。黒い板は、連絡通路上で連絡小部屋に一番近い壁に取り付けてもらった。
準備ができたところで、黒い板を通って楽園別荘の玄関ホールには華ちゃんがピョンちゃんを肩に乗せて立っていた。
「便利になりましたねー。ピョンちゃんはこっちで暮らした方がいいカモ?
ピョンちゃんどうするー?」
今は華ちゃんの肩に乗っていたピョンちゃんは首を横に振った。どうも屋敷の方がいいらしい。華ちゃんと別れるわけではないのだが、その辺りをイッチョ前に気にしているのかもしれない。
別荘と言っているが、厨房設備などは屋敷に比べてこちらの方が断然使い勝手もいいと思うのだが。
ロイヤルアルバトロス号の厨房も華ちゃんが一度うな重の入れ物を洗ったくらいだから何とも言えないが、建物の内外の掃除をお掃除ゴーレムに任せることができる楽園に引っ越してしまった方がいいかもしれない。
「作業は終わったから屋敷に帰ろうか。俺は楽園に別荘を置いたことと、通路の手前の壁に別荘への出入り口を作ったことをアスカ3号に教えてくる。そうすれば、あとはアスカ3号なりアスカ2号が造船所で使っていた作業ゴーレムを使って作業をするはずだ」
別荘の玄関ホールのゆらぎに入って、華ちゃんとピョンちゃんは屋敷の玄関ホールに出ていき、俺はマンションに出ていった。
「アスカ3号いるか?」
『はい、マスター』
靴を脱ぐのが面倒だったのでマンションの玄関からアスカ3号を呼んだら、すぐにやってきた。日本は連休中だし今日は土曜日なので無敗のトレーダー、アキナちゃんの気配はなかった。
「アスカ3号、……。こういうことだから、後は頼んだ」
「了解です。
マスター以外の人たちのカタログでいただいた要望は部屋の中に反映済みですが、マスターはどうしますか?」
「ベッドとか棚とかタンスは自分で何とかできるから、俺はそのうちでいいや。
待てよ。俺の部屋の隅に四畳半くらいの畳の小部屋みたいなの作ってくれないか? 畳の周りに敷居だけで仕切りの壁はいらないから」
「了解しました。畳は注文になりますのでしばらく時間がかかります」
「いいよ」
「はい」
午後の早い時間にアスカ3号から工事は終わったとの連絡を受けた。
楽園に跳んで様子を見たところ、取水口が泉に取り付けられ、排水口が泉の水が流れ出る楽園の壁に空いた穴に造られた。別荘の取水タンク、排水処理設備に太めのパイプでつながっている。玄関ホールにはWiFiの器械も置いてあった。
その日、湯舟に入って畳の四畳半のことを考えた。
『青畳の匂いはいいよな。
青畳の匂いのする芳香スプレーがあれば飛ぶように売れると思うんだが、コアに創ってもらってイワナガ・コーポレーション印として日本で売り出してみるか』
『イワナガ・コーポレーションのトレードマークというかロゴマークがそろそろ必要かもしれない。普通に考えてIWANAGAをプロのデザイナーに頼んで適当にアレンジすればそれで十分か。それでもロゴマークは商標登録した方がいいんじゃないか?』
『その辺り、エヴァに抜かりはないだろうが、一応言っておこう』
『そういえば、ちょっと見ない間に楽園では木が生えていたけど、植物の成長はどうなっているんだろうか? そもそも農業はどうなっているんだろう? あとでエレギルに聞いてみよう』
夕食時、まずエレギルにハリトの農業というか植物について聞いてみたところ、
「普通に種をまいてからそれなりの時間をかけて大きくなっていき花が咲いて実ができるものは実ができて種ができます。木などは何年もかけて少しずつ大きくなっていきます」
楽園が特別なのか、大空洞が地表仕様なのか。なんとなく後者のような気がする。
そのあとエヴァにロゴのことを話したら、キャッチコピー込みで、こちらでOKを出したものに対して商標登録の出願までしてくれるようデザイン会社に発注済みだった。
デザイン会社が連休明けにロゴ案を何個か送ってくるので俺に選んでほしいと言われた。というか、以前そういう話が合ったラシイ。なので、俺はそれらしく話を合わせておいた。俺って実際のところだいじょうぶなのだろうか?
翌日。
日本では大型連休の中、宮殿に出勤した俺は特に変わったこともなくハンコ仕事を淡々とこなし、日本町でのスタッフの求人状況を聞いて、余った時間にローゼットさんを連れて日本町での工事を視察していたら、その日の仕事は終わってしまった。忙しすぎて目が回る。
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造船所| |キリア訓練場
| |コミック倉庫(仮)
|通|アスカ2号倉庫
宮殿|路|発電室
| |楽園別荘
+―+
RA号 |①|マンション
+―+
屋
敷
①:連絡小部屋
全く関係ないんですが、書いててアーサー・クラークの軌道エレベーター建設を描いた「楽園の泉」を思い出しました。わたしはチャールズ・シェフィールド「星ぼしに架ける橋」の方が好みでした。わたしも作中に軌道エレベーターをよく出しますが、3万6千キロの移動は大変なので、機械的な部分は省略しています。




