第505話 別荘内覧会。
月が替わったところで、今度は造船所の奥で別荘のひな形が完成した。ひな形と言っても別に模型ではなく正規の仕様だ。
午前中アスカ3号に別荘のひな形が完成したと報告を受けたので、昼食後、みんなで別荘の内覧会に行くことにした。案内役はアスカ3号だ。
玄関ホールに集合して、ヘルメットを持っている者はヘルメットをかぶった。
なぜか大きな黒い手提げかばんを持ったアスカ3号の後ろに付いて、玄関ホールのゆらぎを通り連絡室から連絡通路に入っていき、造船所の中に入った。そこで、造船所備え付けのヘルメットをかぶり、足りなかった二人にヘルメットを作り全員ヘルメットをかぶったところで、別荘のひな形の建っている造船所の奥に進んだ。はるかさんと後藤さんは造船所は初めてだと言っていた。
「悪の秘密結社でもこれほどスゴイ基地は持ってないんじゃないかな?」と、はるかさん。
「悪の秘密結社の模型の規模って、番組制作費次第じゃないの」と、後藤さんが身もふたもない返しをした。
子どもたちははるかさんと後藤さんが後ろの方で話しているのは耳に入らないようで、アスカ3号を追い越して造船所の奥に鎮座する別荘のひな形に向かって駆けていった。
前方に建つ別荘のひな形は思っていたものと比べ、ものすごく大きかった。
正方形の総二階を想定してアスカ3号に話をしたのだが、土台となっている部分は一辺が40メートルはある。その土台の周囲にはおそらくアルミ製で高さが1メートルほどの銀色のフェンスが巡らされていた。土台の高さは50センチ弱。3段の階段が土台の周囲を巡っている。
土台の真ん中に四角錐型で濃い灰色の屋根が乗った白亜の別荘が建っているのだが、別荘の一辺は30メートルある。建平米=900平方メートル。中に吹き抜けもあるハズなので、床面積は単純に2倍にできないが、2倍として1800平方メートル。旧家と言われるお屋敷の2倍以上ある。俺の家も広かったがそれでも100坪=330平米程度だったはずだ。特にZ ダンジョン内なら土地はいくらでも使えるからいくら大きくてもいいのかもしれないが、大きすぎるとそれなりに使い勝手が悪くなるような気もしないではない。
こちら側を向いたフェンスの真ん中は門になって門柱だけは立っていたが門扉は付いていなかった。玄関はその先で、がっしりした両開きの扉が付いている。
アスカ3号が、扉を押し開けたらその先は吹き抜けの玄関ホールで、床は大理石のように見える。ホール正面の左右に上り階段が付いていて、途中の踊り場で折れて2階の通路につながっていた。階段に挟まれたホール正面の真ん中が居間の入り口になっている。
玄関ホールの先の正面の扉を開けるとそこも吹き抜けで10メートル四方の居間だった。俺の要望通りではある。
吹き抜けの天井はそのまま屋根になっていて、大型の明り取りの窓が4カ所。そして照明器具が4カ所に付いていた。
それはいいのだが、100平米もあるフローリングの床の上には家具はおろか何も置いてなくすっからかんだった。
「アスカ3号。家具も何もないのだが?」
「マスターの好みに合わせるため、カタログを用意しています。その中からお好きなものをお選びください」
そう言ってアスカ3号は手提げかばんの中からから薄めのカタログを取り出し、俺に渡した後、二人に一人あてカタログを渡した。
「なーんだ、アスカ3号。気が利くじゃないか」
「はい、マスター」
受け取ったカタログをめくると、テーブル付きのソファー類、カーペット、コタツ、ダイニングテーブル、椅子、飾り棚、書棚など数種類ずつ取り揃えられていた。
「ここは食堂も兼ねてるから食事用のテーブルと椅子は必須だ。みんなどれを選ぶ?」
みんなでああでもないこうでもないと始まったが、こういうのは実に楽しい。で、結局一番無難に見えたこげ茶色の一枚板のテーブルを置くことにした。かなり大きなものだ。そこに12脚、テーブルに似合ったこげ茶色の木の椅子を置くことにした。
「アスカ3号。食堂用のテーブルはこれで、この椅子を12脚に決まったけど、どこに注文するんだ?」
「もちろんコアです」
アスカ3号は俺がカタログで示した場所を確かめた。
「これとこれ。了解しました。それでは注文します」
アスカ3号がコアにどう注文したのか分からないが、気が付いたらテーブルと椅子が床の上から生えていた。
テーブルはかなり大きくしっかりした作りなので、そうとう重量がありそうだ。移動させるためには俺が転送か何かで移動させるか俺とキリアで運ぶ方が無難だろう。
「次はカーペットを敷いて座卓だな。靴を脱いでゆっくりしたいものな」
カーペットは屋敷の居間のカーペットに近いものを選んだら誰からも異論は出なかった。座卓は正方形、長四角から選べたのだが、正方形だと真ん中までの距離があり過ぎて物を乗っけるのに不便だということで長四角になった。
その後壁際に飾り棚や、本棚を適当に選んで注文していった。どんどん家具が増えていくのだが、居間自体が広すぎるので、狭くなったような気は全くしなかった。
「わらわは、超巨大モニターが欲しいのじゃが。ここの壁なら十分大きなものが取り付けられそうなのじゃ」
「ロイヤルアルバトロス号に取り付けたモニターと同じものなら簡単に取り付けられますが、あれ以外のサイズでは注文になります」
「そうなのか。ならば同じでもよい」
「それでは、あちらの壁が空いていますので、そこに取り付けます」
一瞬目を逸らせた隙に壁にモニターが組み込まれていた。
「ほう。これは便利なのじゃ。ダンジョン・コアさまさまなのじゃ」
食堂兼居間のあとは居間に続く台所に。
「ここも広いなー」
台所というより厨房には調理台、流し、業務用大型冷蔵庫、大型フード付きの換気扇、収納棚、食器棚などが最初から並んでいた。
「居間を除き間口5メートル×奥行き8メートルを部屋の基本的広さにしています」
俺の住んでたアパートは40平米あったようななかったような。
「調理器具などは用意していませんから、このカタログからお選びください」
アスカ3号は手提げかばんの中から台所用品のカタログを取り出しマーカーと一緒にリサに渡した。ちょっと見せてもらうと鍋類、フライパン、包丁類、の他トングやフライパン返しといった調理用具と食器類が載っていた」
リサはマーカーでチェックしていたが、みんなが待っていてくれているので、気を利かせて、
「あとでチェックしますから次に行きましょう」と言った。
「ここは洗面所を兼ねた脱衣場とお風呂です。
どちらも男女別になっています。脱衣場は5メートル×3メートル、風呂場が5メートル×5メートルとっています」
洗面所と脱衣所を合わせて40平米。ここも相当広い。たまに親父が入るかもしれないが、男風呂は俺専用か。脱衣場にはマッサージチェアを置けそうだ。
「マスター、どうぞ」
アスカ3号から1枚のパンフレットを渡された。マッサージチェアのパンフレットだった。
「マッサージチェアはどれも注文になります。納品まで1週間見てください」
うちにはないものだし、ダンジョンの中にマッサージチェアを持ち込んだ人間はいなかったようで、さすがのコアのレパートリーに入っていなかったようだ。
「じゃあ、これを頼む」
一番機能が沢山ついているのを選んだのだが、俺の場合おそらくお任せコース以外は使わないだろうな。
風呂場のあとは、男女トイレ。洗濯機置き場。浄水タンク、用水タンクなどの入ったポンプ室。大型浄化槽。発電機室。図書室。物置というか倉庫、それに空き部屋が1階にあった。空き部屋はトレーニングジムにしてもいい。
階段で2階に上がると、要望通り吹き抜けの居間の周りは回廊になっていて、その周りに部屋の扉が並んでいた。便宜的に玄関のある方向を南とすると、北側に2部屋、東西両側に6部屋ずつ、計14部屋全て間口5メートル×奥行き8メートルだった。そして、どの部屋も中身は空だった。
6人で一部屋を使っている子どもたちの部屋ならちょうどいい広さと思うが個人の部屋とするとかなり広い。
こんなに広いと掃除も大変だ。と、一瞬考えたが、ダンジョン内設置前提なのだからロイヤルアルバトロス号と一緒でお掃除ゴーレムを使えば全く問題なかった。
「部屋の中の家具などはこちらのカタログから選んでください」
アスカ3号が全員にカタログとマーカー、付箋のようなものを配った。
「お渡ししたカタログなどに記載がないもので必要なものがありましたら、注文しますので分かるようにカタログに印を付けた上付箋を付けて私までお持ちください」
内覧会はそれで終わった。
歩いても帰れたが全員を連れて屋敷の玄関ホールに転移した。今まで自分のヘルメットを持っていなかった者には、そのまま自分の持ち物にしてくれと言って、そこで解散した。
解散したら、みんなヘルメットをかぶったままアスカ3号にもらったカタログを抱いて急いで自分たちの部屋に戻っていった。




