第492話 オストラン王国国王戴冠式前日
その日の夕食時。
「そういった感じで、食料と寝るところの準備をしてやったんだが、使わずに済んだんだ。
住民からすればいいことだよな。
あと、ハリト政府? 宰相に聞いたらハリトの国はとんでもない借金をしてたんだ」
みんな俺の話を真剣な顔をして聞いて、……。
若干一名を除いてみんな俺の話を真剣な顔をして聞いていた。
「どれくらいの借金あったんですか?」と、華ちゃん。
「ハリトの金貨はオストランの金貨の3分の2くらいの大きさの金貨なんだけど、ハリト金貨で300万枚だった」
「そんなに。それじゃあ、借金会社の社長にされたってことですか?」と、ここでめずらしくリサが大きな声を出した
「まあ、結果的にはそういうことだな。
一国の金だと考えればそこまで大金ではないのかもしれないけれど、直接的な物言いではなかったが、ほとんどその借金は前の王さまの無駄遣いが原因だったようだな。前の王さまがいなくなったら黒字にはなるそうだ」
「それでも借金を返すのは大変じゃないですか?」と、はるかさん。
「国に借金があるようだと、これから先、前向きの仕事ができないと思ってコアに金貨300万枚ちょっと作らせて城の中にあった宝物庫の中に入れてきました」
「300万枚!」
「1枚20グラムほどだったから、300万枚は60トン」
「うわー」
「60トンと言っても比重が高いから意外と小さいんですよ。5000枚ずつ段ボール箱詰めてその段ボール箱を下から10から1になるよう全部で55個の山を11個作って605個の山を作ったんですが、山はホントに小さかったなー」
「ダンジョンマスターとなった岩永さんにとっては、金貨なんかはいくらでも作れるわけですものね」
「うん。自分でも金は創れるんだけど、自分じゃあれだけの量は絶対無理だものな」
「岩永さん、自分で金も創れちゃうんですか?」と、後藤さんが驚いて俺に聞いてきた。
「いちおう、錬金術師ですから」
「錬金術の夢が錬金じゃなかったです?」
「夢をかなえた? のかも?」
「かも? って、なんですかそれー!」
「まあまあ。
話を戻すけど、ハリトのことも金で解決できたわけだから不幸中の幸い。これでハリトもいい国になるんじゃないかな?」
「ゼンちゃんが国王になったことで、ハリトが国民にとっていい国になることは確定したのじゃ」
確かに。俺が見捨てなけば、これからもできる範囲で何かにつけて便宜を図るわけだし、ダンジョンマスターの俺にできる範囲は相当大きいから、ハリトは安泰だ。
「そういえば、俺がハリトの王さまになったということは、エヴァたちみんなハリトの王女さまだな。オストラン王国の王女さまを兼ねているからすごいぞ!」
「「やったー!」」
「えっ!」
子どもたちはみんな喜んでいたが、エレギルだけはびっくりした顔をしていた。俺が王さまになったことはもう話してるんだから今さら驚かなくてもいいだろうに。まあ、そこまで頭が回らなかったのだろうな。
「ゼンちゃん、二つの国の王さまということは、ゼンちゃんは皇帝になるのではないか?
地球でも2つ以上の国や民がくっつくと帝国と言ってなかったか?」
「うわー、お父さんが皇帝になるんだー!」「すっごーい!」「さすがはお父さん」
「お父さんが皇帝だと、わたしたちは何になるのかなあ?」
「皇女さま?」
「きっと皇女なのじゃ。わらわはたちはみんな小皇女なのじゃ!」
「うわーーー!」「ひーーー!」「ひゃーーー!」
『小皇女なのじゃ』と、言った本人まで騒ぎ始め何だか大騒ぎになってしまった。
それから2日経った。
明日はオストラン国王の戴冠式だ。
その日の午後、俺は明日の戴冠式を控えて、自分の部屋で防具を布で磨いていた。
俺の革鎧は漆黒かつテカテカになってしまったのだが、どう見ても革製には見えない。硬いもので叩けば金属音までする。もちろん傷一つ付かない。
ハー! ハー!
息を吹きかけて手入れ用の布で磨いていくのだが、靴墨とかそういった物を使って磨いているわけではないので、布も全く汚れない。拭き取ったホコリだけが布に付くだけだった。
そうやって手入れをしていたらキリアが俺の部屋までやってきて、ローゼットさんが俺に会いに来たので応接室に通したと知らせてくれた。
俺はキリアに礼を言って、磨いていた防具をアイテムボックスにしまってから応接室に下りていった。
「ローゼットさん、何かありましたか?」
「明日の戴冠式ですが、神殿では以前陛下と王女さま方がお使いになられた部屋をご用意しておりますのでそこにお越しください」
そのことはブラウさんからもらった式次第にちゃんと書いてあったので俺も覚えている。
今日ここにローゼットさんがやってきたのは、俺がちゃんと戴冠式に出席するのか心配になったブラウさんに言われて、俺の様子を確かめにきたに違いない。一時はゼンジロウ1号を使おうかとも思ったけど、さすがの俺も一応は社会人なのでちゃんと義務は果たしますヨ。
今回の戴冠式は最初から出るつもりだから当然式に出るが、ハリトでももし戴冠式のようなことをするとか言われたら、ゼンジロウ1号を有効活用してやろう。
「明日のことは大丈夫です。明日のわたしはブラウさんの指示通り動いていればいいんでしょう?」
「はい。明日の式典はブラウさまがオストラン神殿の神官長として式を執り行いますから間違いはありません」
俺だったら間違い大ありだろうから頼もしいよな。ローゼットさんの言いたいことは伝わっているから安心して欲しい。
ローゼットさんを安心させるための追い打ちとして、さっきまで磨いていた漆黒の鎧一式をテーブルの上に置いてローゼットさんに見せてやった。
「明日のためにさっきまで磨いてたんです」
「実に見事な」
「これって元は、バレンの防具屋で買ったものだったんですけどね」
「これほどのものを扱っているとは、バレンの防具屋は相当なものなんですね」
「もとは赤茶けたただの革鎧だったんですが、ダンジョンの中でモンスターを斃していたら、だんだん黒ずんできてここまで黒くなった上にツヤが出てきたんです」
「そんなことがあるんですか?」
「あれっ? みんな知っていることだと思ってたんですが、違うのかな?」
「陛下どういったモンスターと戦っておられるのですか?」
「普通の冒険者たちが、普通に戦っているモンスターから、ダンジョンの最深部でコアを守るモンスターまでです」
「ダンジョンの最深部でコアを守るモンスターとは因みに?」
「金色のドラゴンでした。まだアイテムボックスの中に入っているから出してもいいけど、この部屋だと狭くて頭も出せないな」
「いえ、出していただかなくて結構です」
「そのうちお見せしますよ。
アキナちゃんがアキナ神殿にドラゴンの頭を飾りたいといっていたんですが、わたしが頭を叩き潰してしまったからか、もう欲しいとは言ってこないので、良かったらオストラン神殿に飾りますか?」
「いえ、アキナさまが一度欲しいとおっしゃっていた物をオストラン神殿ではいただけません」
ドラゴンの頭といっても所詮は骨付きカルビのようなものだから錬金工房でコピーできそうだが、何か効用があるなら難しいかもしれない。そもそもZダンジョンのコアが創ったものだし、そろそろDPも十分溜まっているだろうから新しく創ってもいいかもしれない。
『失礼します』
そう言ってアスカ1号がお茶の用意をしたワゴンを押して応接室に入ってきた。普通ならうちの子どもたちの誰かがお茶を持ってきたのだろうが、ローゼットさんからすれば、王女さま方だから、誰かが気を利かせてアスカ1号に頼んだのだろう。実によくできた子どもたちだ。
「陛下のお屋敷でお茶をいただいてもよろしいのでしょうか?」
「気にしないでください。
宮殿の中にいる時はそれなりの体面がお互いにあるんでしょうが、この屋敷には外部からの人は基本的に入ってきませんから」
「ありがとうございます。
それではいただきます。
お茶をいただいたらわたしは宮殿に戻ります」
「ゆっくりしてもらっていいんですけどね」
ローゼットさんがお茶を飲み終わったところで、失礼しますといって帰っていった。
これでローゼットさんも安心したことだろう。
その日風呂から上がった俺は上から下までちゃんと防具を着けて、部屋の姿見で全身をチェックしてみた。
俺は自分のことをナルシストではないと思うし、それどころかナルシストになる資格などないとも自認している。その俺でも、自分の完全装備の姿はカッコいいと思ってしまう。
明日の戴冠式では黄色い悲鳴が聞こえるかもしれない。なんとなくウキウキしてきたぞ。




