第489話 ハリト国王2
また成り行きで王さまになってしまった。日本でニート中はそうそうマトモな職は転がっていなかったが、異世界には王さま職が良く転がっている。
実際のところハリトの国のことは全く分からない。従って望む望まない関係なく実務は宰相以下に丸投げだ。
ミルワ兵が引き上げたなら、逃げるか隠れるかしていただろう住民たちもマハリトに戻ってくるだろう。その時、食べ物などが不足することは十分考えられる。ここがZダンジョンの大空洞の中だったらよかったのだが、いかんせん耄碌ジジイのコアが管理する大空洞だ。俺はこのダンジョンのダンジョンマスターらしいが、その意味では今のところ何もできない。
スカラム宰相とカフラン軍務卿以外の文官と武官が玉座の間から退出した。あとは部屋の入り口に衛兵が2名立っているだけだ。
「スカラム宰相。そのうち都から逃れていた人たちが戻って来ると思いますが、住むところとか食料などは大丈夫ですか?」
「住むところはすぐには用意できませんが、食料は物流が回復すれば何とかなります」
「ということは、回復しなければ食糧不足?」
「申し訳ありません。ただ、港の食糧庫がミルワ軍に荒らされていなければ、当面食料問題はなくなります」
さすがにミルワ軍に接収されているだろうな。ちゃんとした倉庫があるなら、そこに小麦粉とか置いておけばしのげるだろう。
「この城の中にケガ人とか病人はいませんか?」
「兵隊たちで負傷した者が40名ほどいます。病人は今のところいません」
俺は錬金工房の中で、ディオスの兵舎で使ったのと同じ効き目のヒールポーションが50本入った段ボール箱を2つ作って膝の上に排出し、
「この2つの箱の中に50本ずつヒールポーションが入っているので、負傷者に飲ませてやってください」
そう言っておいた。
スカラム宰相が扉の前に立っていた二人の兵士を呼んで、病室に運んでけが人に飲ませるよう指示した。
二人の兵士は一箱ずつ抱えて玉座の間から出ていった。
「陛下。ディオスの駐屯地でうわさになった錬金術師をご存じありませんか?」
「隠しても仕方ないですから言ってしまいます。それは私です」
「やはりそうでしたか。
守備隊の隊長から報告が上がっていて、そのような人物がいるならマハリトに連れてくるよう指示を出していましたが、未だに見つけられないとの報告が先日届いていました」
「隊長には悪いことをしたな。
もう探す必要はなくなったと、連絡しておいてください」
「かしこまりました」
「あと他に急いでしなければならないことはありますか?」
「前王の捕縛です。
少し時間はかかるでしょうが必ず捕えます」
「捕らえた後はどうなります?」
「マハリトに連れ戻し、斬首が適当でしょう」
「それほどの悪人だったのですか?」
「奢侈だけであればそこまでの罪はありません。せいぜい身分を平民に落とすだけです。
しかし今回の無益な出兵で、数万の兵を失っています。本人が意図したことではないにせよ、責任の所在ははっきりさせなければなりません。前王の処断が行なわれれば、前王を止められなかったわたしとカフラン軍務卿は職を辞します」
なるほど。
前王の処断は致し方なし。それがこの国の政治には必要なことなのだろう。俺が口をはさむべきではない。と、思う。しかし、スカラム宰相とカフラン軍務卿に辞められては二階に上がって梯子を外されたようなものだ。それだけは困る。
「前国王が首を斬られるのに、二人の罰は少ないと思うなー」
「は、はい。分かりました。
仕事が片付き次第、自裁いたします」
「私も宰相と同じです」
「それでも軽いなー。
死なずに一生国に仕えてくれないかなー」
「は? はい。陛下、ありがとうございます」「ありがとうございます」
「わたしに仕えるのではなく、国に仕えるという意味をよく考えていてください。
わたしからはそんなところです」
「はい。肝に銘じます」「はい」
「今日はこんなところでいいかな。じゃあそろそろわたしたちは退散します。明日の朝、この部屋に直接やってきますから、足りないものとかあれば教えて下さい」
「かしこまりました」
「それじゃあ」
俺は連れてきた警備ゴーレムを城に残しておこうと思ったが、ミルワ軍がいなくなる以上必要ないだろうと思い直して収納しておいた。アキナちゃんの手を取っていったん橋の上に跳び、橋の前で橋を守っていたゴーレムたちも収納しておいた。メタルゴーレムドラゴンたちは城の上空だけでなく都全体に広がって飛び回るよう指示しておいた。
上空で舞っていたドラゴンにどうやって指示したかと言うと、目に付いた一匹に意識を向けて手を振ったら俺の方にそのドラゴンがやってきたので、今のことを指示した上、他のドラゴンに伝えるよう言っておいた。ドラゴンはギャオーンと、鳴いて飛び立っていった。
それからアキナちゃんを連れて屋敷の玄関ホールに転移した。だいぶ長い時間マハリトにいたと思ったのだが、まだ午前中だった。
「ゼンちゃんはとうとうハリトの王さまになってしもうたのじゃ。気分はどうじゃ?」
「悪くはないけど、良くもないよ。
俺があの国の王さまになると、何かいいことが起こるのかな?」
「特に何も起こらないと思うのじゃ。コアの探索が終わってヒマじゃったゼンちゃんも、これで少しは忙しくなるのではないか。ヒェッヒェッヒェ」
女神さまとは思えないような笑い声を残してアキナちゃんは2階に上がっていった。
俺も2階の自室に戻って普段着に着替えて1階に下りていったら、すぐに昼食の支度ができたと俺を探してやってきたエヴァに教えられた。
昼食の席で俺はみんなに今日あったことを教えておいた。
「岩永さん、またですか!」
「えっ!? ハリトの王さま!」
「ハリトの王さまですね!」「お父さんなら納得です」「さすがはお父さんです!」「すごい」
「善次郎さん、オストランの王さまでしたよね」
「王さまって、なに? ねえ、何なの?」と、事情を理解していなかったらしい後藤さん。
「ゼンちゃんは王さまになるべくしてこの世に生まれてきた傑物なのじゃ! ゼンちゃん、そうじゃろ?」
「いや、違うだろ。
今回だって、アキナちゃんの何かがあったんじゃないか?」
「世の中は、常に良くなるように流れておるのじゃ。流れじゃから場合によっては淀むこともある。そういったことが起きぬようにして、うまく流れ続けるようにしてやるのが女神の勤めなのじゃ」
なんだか、分かったような分からないような。
今のアキナちゃんの言葉を聞いて、俺とアキナちゃん以外みんな頷いていた。俺は国語力も欠落しているのだろうか?
『N〇K それは私です』
https://www.youtube.com/watch?v=vE1IfEBYRXQ




