第486話 ダンジョン・コアとダンジョン
「ロマンはいいとして、この部屋壁画の浮彫以外なにもないのかな?
華ちゃん、悪いがもう一度異常がないか魔法をかけてくれるか?」
「はい。ディテクトアノーマリー!」
「あっ! 部屋の真ん中が点滅し始めた。壁画が現れて何かのスイッチが入ったのか? 俺たちが現れてスイッチが入ったのか? 何でもいいけど何があるのかな?」
「まずは罠の確認から。
ディテクトトラップ。
罠ではないようです。
試しに、ノック」
華ちゃんがノックをかけたら、床から台座が現れた。台座の上には、サッカーボールほどの丸い球が乗っていた。
「これはコアなのか?」
Zダンジョンのコアと大きさだけはほぼ同じだが、その玉はくすんだ灰色で光を放っている感じはしなかった。
「コアが死んでいる! いや、コアのガーディアンもいなかったけどダンジョンは生きているし、ピョンちゃんも正しい方向を示したわけだから見た感じは瀕死状態でもコアは死んでいないはずだ」
「地球の恐竜が絶滅して8千5百万年、ニューワールドでも似たようなことが起こったとして、このコアは1億年近く生きているんじゃないでしょうか」
「老衰か」
「ゼンちゃん、エリクシールをかけてみてはどうじゃろ?」
「自然に老衰したものについては効かないような気もするが、試してみるだけ試してみるか」
俺はアイテムボックスからエリクシールを取り出し、瓶の蓋をとってコアらしきものに1滴垂らして見た。
エリクシールの光が玉全体に拡がったもののコアが変化したようには見えなかった。
「やはりダメだった」
「お父さん、何が分かるかもしれないからコアを触ってみたらどうでしょう?」
「そうだな。やってみても損はなし、やってみよう」
俺は、灰色にくすんだコアらしきものに手を当ててみたが何も起こらなかった。
「何も起きなかった」
「そうならそれで仕方がないではないか。
しかし、このコアが本当に死んでしまったらこのダンジョンはどうなるんじゃろ?」
「モンスターが湧かなくなるくらいで、ダンジョンそのものに変化はないのか、大空洞も含めて真っ暗になってしまうか。最悪ダンジョンそのものが消失することも考えられます。
このダンジョン・コアは自分の死を悟って新たにコアを、Zダンジョンのコアを作ったのかもしれませんね」
「ということは?
Zダンジョンのコアはこのダンジョンのコアのことは何も言っていなかったけど、ロイヤルアルバトロス号の中にゆらぎを作ったってことは、このダンジョンの中に自由にゆらぎを作ることができるわけだし。それって普通なら変だよな。
本当にZダンジョンはこのダンジョンの子どもなのかもしれないな。
逆に言うと、このダンジョンを相続できるかもしれないぞ」
「相続?」
「このダンジョンで生まれるDPを受け取ってこのダンジョンを自由にできるようになる」
「可能性はありそうですが、でもどうやって?」
「それは親に子どもであると認知してもらうってことじゃないか?」
「言葉の上ではそうなんでしょうけど、具体的には?」
「コアをここに連れてきて対面させるってことだろう。
物理的にここにコアがやってこなくても、Zダンジョンのコアルームとここをゆらぎでつないでしまえばそれでコア同士、積もる話を始めるんじゃないか?」
「それでうまくいけば儲けものじゃの。ゼンちゃんがそういうならうまくいきそうな気がしないでもない」
「お父さんなら絶対です」
絶対の信頼は時として重いものかもしれないが、俺には自信があった。
「これからZダンジョンのコアルームに跳んでいってこの部屋にゆらぎを作ってくるよ」
そう言い残して俺はZダンジョンのコアルームに跳んだ。
「……。
コア、そういった状況なんだが、おまえなら向こうのダンジョン・コアの跡を継げるんじゃないか?」
「……。
よくわかりません」
「とりあえず、向こうのコアルームにゆらぎを作ってここと繋げてみてくれ」
俺はコアに手を置いて、正確な位置は分からないものの向こうのコアルームを思い描いた。
「はい。
できました」
コアの目の前にゆらぎができていた。ゆらぎを向こうに作った以上ここには黒い板が現れると思っていたのだが、ゆらぎだった。
「コア、黒い板じゃないんだな?」
「ダンジョン内ではゆらぎとゆらぎ、ダンジョンと外部とは黒板とゆらぎなんですが。こうなった理由はわたしにも分かりません」
「あのコアルームはここと同じと考えていいってことじゃないか。さっき話したように向こうのコアがおまえの親ならそういったことがあってもおかしくないだろう」
「分かりません」
「まあいいや。
それで、おまえは向こうのコアと話ができるか?」
「コアルームがつながっている以上できると思います。
お待ちください。……。
あっ! あれ? 繋がりましたが、向こうのコアが考えていることが全く理解できませんでした。向こうも私の言葉は分からないようでした」
「世代間の断絶か。お互い顔を見ないで相当長い年月過ごしていればそういったことも起こるだろう。
とはいえ、向こうのコアの寿命は分かりそうか? というかコアに寿命があるものなのか?」
「わたしには分かりません。向こうのコアは短ければ地球時間であと数年。長くて千年ほどで消滅すると思います。ということは寿命があるのかもしれません」
「向こうのコアが消滅するとどうなるんだ?」
「分かりません。想像ですが、今でもダンジョンの維持にDPを消費しているわけですから、コアが消滅すればダンジョンは維持されなくなり、徐々に光を失って形を保てなくなり崩壊していくと思います」
なるほど。
「それで、向こうのダンジョン・コアが消えたら速やかにおまえが跡を継げないか?」
「向こうのコアに流れ込んでいるDPの流れは分かりますし、わたしが利用できるDPのようです」
「ということは?」
「向こうのダンジョンを遅滞なく引き継ぐことができます」
「わかった。なら確実にそうしてくれ」
「はい。マスター」
俺はコアから言質を取ったところで華ちゃんたちの待つ向こうのコアルームに跳んだ。
「遅くなってすまん。
コアに確認してきたんだが、コア同士での意思の疎通はできなかった」
「なんと。それでは積る話も何もあったものではなかったわけじゃ」
「そうなんだけど、ここのコアが死んだら、間を置かずこのダンジョンを受け継ぐことはできるそうだ」
「それは良かったではないか。そうなれば、ゼンちゃんはこのダンジョンのダンジョンマスターになるということじゃろ?」
「それはそうだがな。
それで、Zダンジョンのコアによると、このコアの寿命は地球時間で数年から千年だそうだ」
「随分幅があるのじゃな」
「アキナちゃん、1億年近く生きていたなら千年なんて誤差にもならないくらい短い時間じゃないかな」
「確かにそうじゃった。
そうなると、ゼンちゃんがこのダンジョンのダンジョンマスターになる日は相当遠くなるのじゃな」
「わたし思うんですけど。
Zダンジョンのコアがこのダンジョンを引き継げるのは、親子関係じゃなくって、岩永さんがさっきコアに手を当てたことで、意思の疎通はできなかったけどダンジョンマスターになってたからだと思うんです」
「おっ! その可能性はかなり高そうなのじゃ。二つのダンジョンのオーナーが一緒なら、その下のコアはダンジョンマスターのさじ加減でその領域を好きにできそうじゃものな。まして一方のコアが死んでしまえば残ったものがその後を引き継ぐことは当然じゃもの」
「ここのコアと意思疎通ができない以上、ダンジョンマスターのご利益はないけど、少なくともこのダンジョンがZダンジョンのコアが消えるまでは安泰だってことだ。
めでたしめでたし。と思っていよう」
「そうですね」「さすがはお父さんです」「ゼンちゃんのおかげでこの世界に住む諸々が救われたわけじゃ。凄いことなのじゃ」




