第478話 花見
4月に入ったので親父へのエレギルの紹介を兼ねて花見でもしようかと思い立った。
親父に電話で都合を聞いたらいつも通りいつでもいいと返事があった。
俺は日本の町中をあまり歩いていなかったので気付かなかったのだが、マンションの近辺の桜はだいぶ散って若葉がのぞいてきていた。葉桜を見ても花見気分は味わえない。
スマホで桜の開花状況を調べてみたら、親父の家の周辺は明後日とその翌日が満開予想だった。ということで週末花見を決行することにした。親父の町のオストランへのゲートに続く自動車道路も完成しているので、確認するにもちょうどいい。週末は宮殿への出勤日なので前日に前倒しすることにした。
週末に全員連れて花見のために親父の町に行くと連絡しておいた。花見の用意はしておくので場所だけ確保しておいてくれと言ったところ、家の庭の桜が一番だと言われてしまった。確かに家の桜の木は立派だったし、家の庭なら落ち着いて花見もできる。
うちから参加するのは、俺を含めて11名。親父を知らないのは後藤さんとエレギルの二人
当日のお花見弁当はリサが任せてくれと言っていたので期待だ。とはいえ人数は12名。人数が人数なので量が必要になる。量については俺が増やすので重箱に一揃い作ってくれればそれで十分だとリサに言っておいたが、購入する食材は使い切りたい。ということで、それなりの量を作ることになるらしい。飲み物類は酒やビールを含め何でもそろっていると言っても過言ではない。
お花見当日。10時に親父のところに行くと言ってあるので屋敷の玄関ホールに10時5分前に全員集合した。俺の実家なのでみんな普段着だが、一心同体以外の一般人では冷たいものを飲んでしまうと寒くなるかもしれないので上に羽織るものを持っていくように言っている。
お花見弁当は3段重ねの大き目のお重が2つ。それぞれ風呂敷包みに入っている。昨日リサが中心になり、学校が引けた午後からはるかさんと後藤さんが応援に入って作ったそうだ。
華ちゃんはその間、3人を応援していたそうだ。『応援?』と聞き直すところだったが、すんでのところで思いとどまることができた。杖術スキルレベルマックスの反射神経は伊達ではなかった。
俺はでき上ったお重をアイテムボックスに収納して、すぐにコピーしておいた。宮殿やオストラン神殿、それにアキナ神殿に届けても喜ばれそうだ。勝手によそ様に横流ししては怒られるのでちゃんと作品の制作に直接携わったお三方の了承は得ている。
「それじゃあみんな俺の手を取ってくれ」
半身になって俺の手を取る10人の美女美少女に囲まれて『転移!』
見た目だけはハーレム状態で俺の実家の庭に俺たちは出現した。
親父は予想通り庭に出て俺たちを待っていた。ちょっと気温が低いようだが天気はいいので寒いわけではない。親父が言っていた以上に家の桜の木は見惚れるほど見事だった。秒速何センチメートルかどうかわからないが桜の花びらがゆっくりと庭の緑のコケの上に舞い落ちている。
「みんなようきてくれた」
「おじいさん、久しぶりです」「爺、やってきたのじゃ。元気そうで何よりなのじゃ」
「みんなも元気そうでなによりじゃ」
「まずは親父。今度うちの子になったエレギルと、今度俺の屋敷に住むことになった後藤さんを先に紹介しよう」
「岩永エレギルです。よろしくお願いします」そう言ってエレギルが親父に頭を下げた。
「儂が善次郎の親父の岩永善吉じゃ。よろしんな。エレギルちゃんもかわえい子だなー」
「後藤真由美です。お屋敷の隣りの学校の教師として、いま岩永さんたちと一緒に暮らしています。よろしくお願いします」
「後藤さん、こちらこそ」
「さっそく、みんなで花見の準備をしよう。
庭木がそれなりに生えているから、大きなシートより小さめのシートを敷いていった方がいいだろうな」
家の庭の地面にはいい塩梅にコケが生えているので、シートを敷いても座りごこちは良さそうだ。俺は畳1畳くらいの大きさでビニールシートを10枚ほど作って子どもたちに桜の木の周りに敷くように渡しておいた。
その後重箱の入った風呂敷包み2つを桜の木の根元近くに置いて、
「適当にみんなで座ろう。エレギル。うちの居間の座卓の周りと一緒で靴は脱いでな」
「はい」
「後は飲み物だ」
俺は日本酒の4合瓶を4、5本、缶ビールをそれなりの数。コーラやジュースのボトルもそれなりの数出しておいた。
日本酒だけはプラスチックのコップだが、缶ビールとジュース類は直飲みだ。その方が花見の雰囲気出るものな。今回は家での花見だったが、次回はZダンジョンの大空洞で花見をしてもいいかもしれない。そうすれば行きたいときに満開にできるだろうし、気温の調節もできるはずだ。
みんなに飲み物が行き渡ったところで、
「乾杯」
「「乾杯」」
少し遅れてエレギルが「乾杯」
乾杯のことをエレギルに説明していなかったので悪いことをした。でもエレギルはニコニコ笑っているので、良しとしよう。
乾杯の後、桜の木の根元に置いた2つの風呂敷き包みの中からお重が出されて広げられた。
「何と見事な料理じゃ!」
確かに料亭の仕出しのようなお重だ。赤、緑、黄色、……。色合いもいいし見た目が上品だ。
めいめいが好きなものを菜箸で紙製の小皿にとって割りばしで食べ始めた。もちろんエレギルも割りばしを使っているがぎこちなさはもうどこにもない。ちゃんと箸を使えない日本人もいるわけだが、大きくなっても練習すれば矯正できるといういい見本だろう。
俺は中にインゲンとニンジンが入った何かの練り物がゆばで巻かれたものを皿に取った。
出汁で湿ったゆば巻きを口に入れたところ、カツオの出汁がまず口の中で広がり、それから湯葉のわずかな歯ごたえの先の柔らかな練り物とやや固めのインゲンそれに柔らかいニンジン。インゲンにもニンジンにも出汁が沁み込み噛めば出汁が染み出てくる。食べて初めて分かったが練り物はエビだった。エビしんじょうだな。これはそうとう手が込んだ料理だぞ。
そのあと俺は、伊達巻きの先にあったお稲荷さんを小皿に取ってみた。
お稲荷さんの中は、酢レンコンとニンジン、干しシイタケを戻して味を付けたもの、それに高野豆腐が入った酢飯だ。箸で食べやすいよう小さめのサイズなのだが、食べやすい分作るのは大変だったろう。
油揚げにしみ込んだ甘い出汁とちらし寿司風の酢飯がうまい。
ところによってお重の底が広がっていたので、もう2つお重を出して広げてやった。
花見にきたハズだったのだが、誰もが下を向いて小皿に取った料理を黙々と食べていた。
俺は再度お稲荷さんを小皿にとったところで、最初に乾杯するため開けて一口飲んだだけで忘れてしまっていた缶ビールを思い出した。
グビグビ。
ジョッキの生ビールではないのでプッファーはない。
唐揚げ、チャーシューにおそらくフォアグラ、イクラ、イカに何かの魚の小さな卵を和えたもの、中華クラゲにシュウマイ。牛肉の西京焼き。そういった酒の肴も揃っている。
缶ビールを飲み干した俺は、プラスチックのコップに手酌で日本酒を注ごうとしたら、隣に座っていた華ちゃんが俺から日本酒の瓶を取り上げて「どうぞ」と言ってお酌をしてくれた。
「ありがとう」
手に持ったコップの上に桜の花びらがハラハラと舞い落ちてきたがコップをかすめて落っこちてしまった。
気分良く肴をつまみ、日本酒を飲んでいたら、アキナちゃんがいきなり立ち上がった。
「これからわらわたちがダンジョンガールズのマネをして踊って歌うのじゃ!」
アキナちゃんの声と同時にエヴァたちも立ち上がった。エレギルも一緒だ。
6人で靴を履いて、少し先で集合してまずポーズをとった。
どこかの戦隊もののポーズを真似たのだろうか? ダンジョンガールズのCMにはこんなポーズはなかったような。
その後、アキナちゃんとキリアとエレギルが3人残り、あとの、エヴァとイオナとオリヴィアが横に移動した。そして、エヴァとイオナとオリヴィアの3人でCMの音楽を口で演奏し始めた。その音楽に合わせてアキナちゃんを真ん中にして3人がテクノダンスを繰り広げた。
無表情のままのロボット的な動きが実にいい。アキナちゃんとエレギルはプラチナブロンドなうえに特に色白なのでよく似合っている。アキナちゃんとキリアの動きがいいのは想定内だがエレギルのダンスの切れもかなりのものだった。
どこで練習していたのか知らないがかなり練習したと思う。よく考えたら今回の花見も俺が思いついて2、3日で開催したわけだから、それくらいの練習時間しかなかったハズ。もともとダンスの才能があったのか?
お花見は大盛況のうちに昼過ぎまで続いたのだが、みんな腹いっぱいになってしまい自然閉会となってしまった。
みんなに腹ごなしのヒールポーションを配り、後片付けをした。
その後家の戸締りをして親父をロイヤルアルバトロス号に連れていき、一緒に風呂に入った。
親父は取りあえず驚いてくれた。
花見の後、お重をアキナ神殿とオストラン神殿に100個ずつ届けたのだが、宮殿についてはいったんペンデングにした。
せっかくだから、王宮の庭で園遊会を開いてやろうと思ったからだ。お重だけでなく、他の料理も酒も用意して大々的にしてやろう。急な出費は使うあてもなくほとんど死蔵中の金貨で援助してやろう。
明日の週明けから留学生たちはそれぞれの留学先で新たな第一歩を踏み出すことになる。




