第477話 年度末から年度初め
ハリトがミルワに対して逆侵攻をかけるといううわさ話を聞いた翌日。
防衛省の野辺次長からメールがあり、エレギルの日本国籍取得の手続きが終わったと連絡があった。関連する書類などは次の会議の後で手渡してくれるそうだ。
明日は宮殿への出勤日なので空いている今日もマハリトの様子を見に行くことにした。
貰った土地の上に現れた俺は、警備ゴーレムたちがちゃんと敷地内で警備していることを確かめてから表通りに出てみたところ、隊列を組んだ兵隊たちが槍を担いで通りの真ん中を行進していた。
部隊ごとに行進しているようで100人ほどの部隊の前後に馬に乗った士官のような軍人が進んでいた。ざっと隊列の前後を見たところ前後に10部隊くらいずつ行進していたので全体では2000人ほどの部隊のようだ。楽隊の演奏はついていなかった。そのせいでもないだろうが兵隊たちの隊列は歪んでいたし、足並みもテレビなどで見る自衛隊の行進とは程遠くバラバラだった。
兵隊たちの行進を道端から眺めている住人たちの声が耳に入ってきた。
「なんで出兵なんかするんだ?」「せっかく大召喚術師さまが平和に事を納めてくれたのに」
「こんなやる気のなさそうな兵隊たちで勝てるのか?」「ミルワ軍だって無傷だったのに、そんなところにこっちから攻めていって大丈夫なのか?」
「このままミルワに向かうそうだが、都を留守にしていいのか?」
戦に対して否定的な声ばかりだ。攻められて守るのと、他国に攻め入るのとでは戦術的にも天と地ほどの差があると思うがどうなんだろう?
兵隊たちの行進の後から荷物を積んだ馬車が何台か続いたが馬車の数が多いわけではなかった。素人目でも荷物が少ないような気がした。たぶん国内を移動中は要所要所で補給を受けるのだろうから問題ないのだろうが、その先のことは分からない。
俺は正義の味方でも何でもないので、もう戦を止めさせるようなことはしないが、住民たちと同様、俺もこの出兵がかなり危ういもののように思えてきた。
兵隊たちが通り過ぎていき、沿道で行進を眺めていた住民たちもいなくなった。
俺もその中に混じって屋敷に帰った。
それから10日ほど経った。その間ロイヤルアルバトロス号は大海原の中で、変化もなくコアの方向に向かって航行している。周囲には全く陸影はない。屋敷の中でただ一人暇を持て余している俺は購入済みのコミックは少女漫画も含めて読破してしまった。今は2周目だ。
その間最初にあった防衛省での会議でエレギルの帰化関係の書類と俺の養子関係の書類を渡されている。パスポートもマイナンバーカードもちゃんとそろっている。岩永エレギルか。なかなかいい名まえだ。まだ親父に紹介していないので、そのうち新しい孫を紹介しないとな。
そして2回目の会議の今日。
ゲート前の工事が完了した。ゲート前には通行証をチェックするため高速道路の料金所のような建物が作られたそうだ。そこで外務省が発効した通行証をチェックするということだ。オストラン側にはそういった物は何もないのだが、日本側でチェックしてくれているのなら当面それでいいだろう。すでに日本側のゆらぎはオープンしており、オストランへつながる連絡広間の内部についてもダンジョン協会によって撮影されている。
出力125万kWの発電所が第1から第3ダンジョンで稼働したと防衛省側から報告があった。順調だなー。
そして、ダンジョン協会では出力1000万kWの発電所を第1ダンジョンに建設することを決定したそうで、直径6メートルのメタルゴーレムコマ、10個受注してしまった。フィギュア形態の場合、直径60センチ程度なのでそれほど大きなものではないが、コマ1つの値段は2000億円なので受け取る金額は2兆円となる。これは年利0.5パーセントで10年間、半年ごと1000億円の分割払いとなった。奥さま、2兆円ですよ、2兆円。
電力会社も新たなエネルギーの輸入を控えているため、来年にもまた1000万kWの発電所の建設を決定しそうですと、ダンジョン協会の監督官庁のお偉いさんであるD関連局の局長さんが言っていた。
こちらの方は、オストランに建設する日本町について工事を発注したことを発表しておいた。それと、防衛大学校に留学生を一足早く入校させてくれたことに礼を言っておいた。
月が明けて、隣の学校の入学式の日になった。今回入学する生徒数は結局のところ60名を超えたようで2クラスとなった。昨年入学した生徒たちは一人の脱落者もなく20名のまま2年生に進級している。2年生たちは明日からの登校になる。
教師陣は、校長先生兼そろばん担当のはるかさん。教頭先生兼算数担当の後藤さん。国語担当としてアキナ神殿から2名、算数担当として商業ギルドから1名それぞれ派遣してもらった。
理事長の俺が簡単にあいさつした後、校長先生のはるかさんがあいさつして入学式はそれで終わった。新入生たちのクラス分けが終わっているので、それぞれはるかさんと後藤さんに引率されて教室に入っていった。保護者たちはそこで解散だ。
教室の各自の机の上には教科書もソロバンも揃っている。今年度から、ノートと鉛筆を使用することにしている。もちろん俺が増やして無償で提供したものだが、今後日本との交易が始まれば、ノートや鉛筆も当然輸入されるわけなので、今から使い慣れていた方がいいというはるかさんたちの判断だ。2年生も新年度からノートと鉛筆を使うのだが、その使用法を説明できるのがはるかさんと後藤さんしかいないから、新2年生の始業が1日遅れることになった。
こっちも順調だなー。
イワナガ・コーポレーションでは新たに人事に1名、経理に1名合計2名社員を雇っている。どちらも地元出身者だった。面接はエヴァと人事部長、経理部長の3人で行なった。




