第476話 うわさ話2、逆侵攻
日本への留学生たちもマンション住まいに慣れ、電車やバスも利用できるようになったそうだ。
防衛大学校入学組の2名は、自衛隊から黒塗りではなく濃緑塗りの自動車がお迎えにやってきて防衛大学校の学生寮に連れていかれたそうだ。正式な入寮日は一週間後だったがそのまま入寮したはずだ。入学後の学習についていけるよう教養を叩き込んでくれと俺から防衛省にお願いした結果だ。オストラン軍の期待の星として第一期の留学生に選ばれたわけだから、本人たちは学生寮の雑草の葉っぱの陰で涙を流して喜んでくれていると思う。
その他の留学生たちは各自留学先の見学を行なって入学などに備えている。
留学生に関する経費についてブラウさんと話し合った結果、暫定的にオストラン金貨1枚(18金、30グラム)=20万の為替でオストラン政府が支払うことになった。物価的に金貨1枚3万から5万と思っていたが、オストラン金貨は金の価格からいって相当なものだということが分かった。オストラン政府とイワナガ・コーポレーション間はある程度適当でいいが、金価格だけで為替が簡単に変動してはならないので、日本との交易では金価格よりかなり高い為替の設定が必要だろう。そのためにもポーション立国だ。
オストラン関係については順調だ。
一方バレン南ダンジョン下の超大空洞の探索はどうなっているかというと。
ロイヤルアルバトロス号は大陸?の岸に沿って航行を続けていたところ、ピョンちゃんの指し示すコアの方向が右手後方になってしまった。このまま陸地沿いに進んでいくとコアから遠ざかることになるので、ロイヤルアルバトロス号は船首をコア方向に向け、陸地から離れていった。前方、左右に陸地が見えたら警報を出すようロイヤルアルバトロス号に指示している。
そしてエレギルの故郷のハリトなのだが、ハリトでもらった土地がなんとなく気になるとアキナちゃんが言うので、一心同体の4人で例の土地に跳んでいった。
土地の入り口には大きな看板が立っていた。
『大召喚術師ゼンジーロ殿の土地であり、何人も侵入を禁ず』
この看板のおかげかゴーレムたちのおかげか、たぶん後者のおかげだろうが俺たちの土地の中に入っている者はいなかった。
「警備ゴーレムはちゃんと警備しているようだし、どこもおかしなところはないけどな」
「おかしいのー。わらわの勘が外れることはないめったにないのじゃが」
「たまにはそんなこともあるだろ。アキナちゃんじゃないが、気にしない。気にしない。
せっかく来たから、この前の店にでも行ってお茶でも飲んで帰ろう」
ということで、俺たちは前回入った店の近くに転移して店の中に入っていった。
4人席に座って適当に壁のメニューを見ながら注文して先に届いた飲み物を飲んでいたら前回同様近くのテーブルから話声が聞こえてきた。
『なんでも、ミルワからの侵攻が大召喚術師ゼンジーロさまのおかげで防がれたうえ、ミルワの城塞都市まで手に入れたことに気を良くした国王が、こんどはミルワ討伐の軍を出すんだと』
『なんだそれ? というか、なんでお前がそんな話を知ってるんだ?』
『おれのダチが軍に品物を納めててな、その関係で軍の検品係から聞いたそうだ』
『それなら、うわさとかじゃなくて本当だな』
『戦は勝てばいいが、勝つとは限らない。勝ったとしても犠牲は出るし、負ければもっと悲惨だ。国王は何を考えているんだ?』
『前々から評判の良くない王さまだしな。今の国王になってこの国はどんどんダメになってないか?』
『ああ、そうだな。先代には他にも王子が何人かいたが、何でよりによって一番評判の悪かった今の国王が後を継いでしまったのか』
……。
4人で聞き耳を立てていたら、注文していたサンドイッチなどが届けられた。
大召喚術師ゼンジーロさまで思わず顔がにやけてしまったが、どうも話が物騒だ。
礼も貰っているし所詮は部外者の俺が何か言える立場ではないが、これでは戦が始まらないようにしてやった意味がないだろう。
宰相も軍務卿もそこまで愚かな人物には見えなかったが、今の話の通り国王が率先して軍を進めることを決めたのか。
うわさ話をしていた連中が席を立ったところで、
「この国も隣国同様好戦的だったようだな」
「この世界は、戦国時代なんでしょうか?」
「かもしれないな。
まあ、戦国時代と考えればこれが普通なのかもな」
「ゼンちゃん。今回は戦に介入せんのかの?」
「いちど止めてやった戦を自分の方から仕掛けるとなると、戦場で戦う兵隊たちは気の毒だと思うが、エレギルももう落ち着いているし、俺のやる気は全く出ないなー。
まあ、なるようになるんじゃないか。ミルワが戦に負けてハリトが領土を広げるかも知れないし、その逆も十分起こり得ると思うぞ」
「もし攻め込んだハリト側が大敗を喫し、勢いに乗ったミルワ軍がここマハリトまで攻め入ってくれば、この国そのものもそうじゃが、あの土地もタダでは済まなくなると思うのじゃが?」
「その時はその時だけど、メタル警備ゴーレム10体はそう簡単にやられないだろう。俺でも杖術だけの制限付きだとあの10体は斃せないしな。俺たち4人が力を合わせれば100体くらいまとめて倒せると思うけど」
「マハリト全体がミルワに占領されたら、いくらあの土地をゴーレムが守っていようが、使えなくなると思うのじゃ」
「その時は諦めて撤収じゃないか。何か作った後のことなら簡単にあきらめきれないが、今はまだ更地だし」
「それで済めばよいがの」
そこでなぜかアキナちゃんがニマリと笑った。何か他に起こるのか? アキナちゃんが笑ったということは俺たちにとって悪いことじゃないんだろ。ならいいや。
変な話を聞いたせいか、俺の頼んだホットドッグのようなパンはそれほど美味しくなかった。
その店で軽い食事を終えた俺たちは、そのまま屋敷に帰っていった。
今回の件について何もする必要はないだろうと店の中では言ったものの、やはり気にはなるのでこれから暇があれば顔を出してみよう。




