第467話 ミルワ城塞都市無血開城後
威嚇の度が過ぎてしまい、ミルワ軍が俺に城塞都市を明け渡して退去することになってしまった。目的であった戦を止めることは達成できたが、都市など貰って面倒なだけなので、ハリト側の城塞都市にいって事情を話してハリトに丸投げすることにした。
橋を渡ってミルワ側と同じような城門の前で、門の上から顔を出して俺たちを見ていた兵隊たちに向かって大声で、
「わたしは、召喚術師ゼンジーロだ。
この城塞都市の責任者にお会いしたい」
ハリト側でも、ミルワの城塞都市上空に銀色のドラゴンが乱舞して、それからしばらくしてミルワの城門に白い布が下げられたことを知っているはずなので、状況はある程度理解しているだろう。
5分ほど門の前で待っていたら、門が開かれた。
「ゼンジーロ殿、わたしはこの門をあずかる小隊の隊長です。
いま、部下が城を預かる将軍のもとに走っていますので今しばらくお待ちください」
俺が頷いて待っていたら、5分ほどで恰幅の良いおっさんが部下を引き連れてやってきた。
「わたしがこの城塞都市コソをあずかるヒハクだが、きみが銀色のドラゴンを使ってカイケを開城したというのかね?」
「その通りですが、わたしが街を貰っても仕方ないし面倒もみられないから、こちらであの街を預かってくれますか?」
「にわかには信じられないのだが」
「あなたに信じてもらう必要はないけど、2、3日中にここにも都から連絡が来るんじゃないかな。ゼンジーロと名乗るゴーレム使いの召喚術師がミルワとの戦を止めにやってくるので、驚かないようにと。
まあいいや、一応わたしの仕事は終わったようだから後は任せます。
わたしはこれからマハリトの城に跳んでいって宰相に戦は止めたと知らせてきます」
俺はそう言ってメタル護衛ゴーレムたちをアイテムボックスに収納してアスカ2号を連れてマハリトの城の門前に飛んだ。
俺たちが跳んでいく寸前、おっさんが『ま、待ってくれ、……』と、言っていたようだったがその後は聞き取れなかった。
門前では、俺が突然門前に現れたことに衛兵たちは驚き身構えた。俺が召喚術師ゼンジーロだと名乗ったところ、昨日の衛兵と同一の衛兵だったのか、識別してくれた。昨日の格好だったら簡単に識別できただろうが、今日はYKZスーツにしたものだから向こうも判別が難しかったようだ。
すぐに俺は城内に通され、最終的に昨日の会議室のような部屋に通された。
部屋の中には誰もいなかったのだが、すぐにスカラム宰相とカフラン軍務卿が数人の男女を引き連れて部屋に入ってきた。
軽くあいさつして、
「いちおう戦は止めることができたと思います」
「昨日の今日で?」
「はい。ミルワのカイケとか言う城塞都市に対してドラゴンなどを使って昨日の午後から威嚇を繰り返していたところ、橋に面した城門から白い布が下ろされ、その後城門が開かれました」
「なんと!」
「それで、わたしたちは門の前に急いでいったところ先方の責任者のえーと」
「ブソン将軍です」と、アスカ2号。役に立つな。まさに俺の外部記憶装置だ。
「ブソン将軍と言えばミルワの武官ナンバー2、実質トップ」
「その将軍が街をわたしに明け渡し、部隊を撤退させると言っていました。
わたしも、戦を止めに行っただけなので、街をくれると言われても困るから、そのあと対岸の、えーと」
「コソのヒハク将軍です」
「そうそう、そのヒハク将軍にそのむねを伝えて丸投げしてきました」
「ちなみに、どういった威嚇をさなったのですか?」
「最初に、こういった紙を空から降らせました」
そう言って俺は、コアに創らせたビラを1枚アイテムボックスから取り出し、スカラム宰相に手渡した。
『大召喚術師ゼンジーロが命じる。
戦の準備を速やかに停止せよ。
戦の準備を続けるようなら、われが召喚するドラゴンたちにより実力行使に移る』
「一応100万枚作ったんですが、結局ミルワのえーと」
「カイケです」
「そう。カイケで5万枚。川の下流のミルワ側に、1万枚ずつ10カ所にばらまいてやりました」
「これほど上質の紙を15万枚も」
「あと85万枚残ってるんですが、さすがに要らないでしょ? もし何かに使う用途があるなら、全部差し上げますよ」
「いえいえ、結構です」
「それで、カイケの上空にドラゴンを10匹ほど編隊でしばらく飛ばして、そのあと一度特大威力のファイヤーボールをカイケの上空で爆発させてやりました」
「召喚術のみならず、そういった魔法までも?」
「いえ、ファイヤーボールはきのうここに連れてきていた、弟子の一人が放ったものです」
「お弟子さんが」
「そう。
それでその日は終わったんですが、今日は朝から、101匹のゴーレムドラゴンをカイケに送って、街の上空。上空と言っても高い建物の屋根のほんのすぐ上を乱舞させました」
「うっ。ちなみにその101匹というのは何かいわれがあるのでしょうか?」
「特に意味はないんですか、いちおうマイブームでして」
「マイブーム?」
「はい、マイブーム。
それだけで街の住人は街から逃げ出そうと大騒ぎを始めたんですが、ついでだったのでゴーレムではないんですがメタル大蜘蛛というのを50匹ずつ10組、あわせて500匹、街に送って、通りを練り歩かせました。
これが、一種の止めになったのかなー? 見てみます? メタル大蜘蛛」
「はい。後学のために」
「じゃあ、机の上に1匹出して見ます。
出でよ、メタル大蜘蛛!」
机の上に突如出現した銀色の大蜘蛛にスカラム宰相とカフラン軍務卿は椅子から飛び上がらんばかりに驚いてくれた。出してよかった。
「500匹もの大蜘蛛ですから、手のひらくらいの大きさなのかと思いました。こんなのが50匹単位で通りを練り歩く。それは街を投げ出したくなるでしょう」
「全部回収しましたけどね。
そういった感じで威嚇してたところ、話が最初に戻って、白い布が城の門から垂らされたわけです」
「良ーくわかりました。
至急コソのヒハク将軍にカイケを接収するよう正式な命令書を送ります。
ありがとうございます」
「戦がこれで止められたようなので、わたしも満足です。
それじゃあ」
「あっ! ゼンジーロ殿、しばらくお待ちください。こちらから連絡を差し上げるにはどうすればよろしいでしょうか?」
「わたし自身流れ者ですし、連絡の仕方はないかなー」
「今はどちらにお泊りですか?」
「自宅に住んでいます」
よく考えなくても流れ者では自宅はなかったか。まっ、俺が転移を使えることは分かってるわけだから何となく意味は通じるだろ。
「わが国として、ゼンジーロ殿にお礼をしないわけにはなりません。困りました」
「特に礼などいりませんから。気持ちだけで十分です」
「いえ。国の体面というものがあり、それ相応のお礼をしないわけにはならかないのです」
確かに。ハリトの国は満足な礼もできない国だとか噂が立てば、有為の人間がこの国に集まらなくなるか。それではどうするかな? うん? 待てよ、オストランも隣国から有為な人材が集まれば、ますます発展するんじゃないか? いままで俺はそんなことを考えたことはなかったが、そのうち真面目に取り組んだ方がいいだろうな。
「分かりました。それでは、この都の一等地に50尋(約100メートル)四方(注1)の土地をいただけますか? 無理ならまた別のものを考えましょう」
「そんなものでよろしいんですか?」
「今の屋敷も手狭になってきたものなので」
「分かりました。ご都合の良いとき城にお越しください。確保した土地にお連れします」
「分かりました。4日後の午後に伺います。それで大丈夫ですか?」
「もちろん大丈夫です。それでは4日後。お待ちしています」
1ヘクタールほどの土地をいただくことにして、俺はアスカ2号を伴ってロイヤルアルバトロス号のブリッジに跳んだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
こちらは、善次郎が消えた会議室。
「第3王女を差し出そうと考えていたが、わずかな土地でいいと言われてしまった」
「このマハリトにゼンジーロ殿の屋敷が建てばありがたいことではありませんか」
「確かにありがたい。たとえどれほど不利な戦が起ころうと、この都は安泰だからな。それに、王にゼンジーロ殿のことも奏上できていないし、もちろん第3王女の件もだ」
「閣下、このまま、あの王を頂いていてよいものでしょうか?」
「めったなことは言えないが、きみの気持ちはよくわかる」
「英邁な君主のもと、このハリトを栄えさせていくことがわたしの夢でしたが、夢で終わりそうです」
「はあ。今では軍艦の更新もできておらず、ミルワの2流海軍とも戦えば必ず勝つともいえず。海賊の本拠地ですら落とせず」
「申し訳ございません」
「きみのせいではないだろう。すべては現王の奢侈のため。今回ミルワがこの国に攻め入るという情報を聞いたときわたしは覚悟を決めたのだがね」
「わたしもです」
「すべて、ゼンジーロ殿のおかげだ」
「たしかに。いっそゼンジーロ殿がこの国の王ならこの国は発展するでしょうな」
「だろうな。その話はこれくらいにしようではないか」
「はい」
(注1)
ハリトでの単位。
尋:ここでは約2メートル。
町:約100メートル=50尋
里:約4キロ=40町。人が1時間に歩く距離。




