第463話 マハリト3、城内。偵察1。
善次郎たちが転移で姿を消した会議室の中。
「カフランくん、ゼンジーロ殿のことをどう見る?」
「彼が言う通り大召喚術師であることは間違いありません。しかも一国の力など取るに足らないものと気にも留めていない。
今わたしたちの目の前から消えたのは転移術だったのでしょう。転移術など物語の中だけの絵空事と思っていました。
わたしの副官2名のことは宰相も御存じでしょう?」
「知っている。両名とも頭脳明晰なうえ細剣の達人だったかな」
「はい。その二人が申していましたが、ゼンジーロ殿は、全く隙がなかったそうです。どこから切りかかってもあの見事な杖で確実に自分が叩き伏せられていただろうと言っていました。ただ、技能が隔絶しているため殺されはしなかったろうとも言っていました」
「なるほど。
ということは、召喚術のみならず杖術も達人ということなのかね?」
「そういうことなのでしょう。しかも彼の4人の弟子のうち一人を除いて何一つ隙が無かったとか」
「ということは杖術かどうかは分からないが武術の弟子も取っていると」
「そうなのでしょう。
さらに、弟子の中で一番年上に見える少女を覚えておられますか?」
「覚えている」
「あの少女については、隙とかそういったレベルの話ではなくなにか得体のしれない威圧を二人とも感じたと言っていました」
「どういう意味だ?」
「ゼンジーロ殿のドラゴンを見た時は二人とも驚いただけだったようですが、彼女を見た時恐れを感じたそうです」
「うーん」
「そして、極めつきは笑い顔の少女です」
「そうだったな。あの目ですべてを見透かされているような、そんな感じだった」
「わたしもそうなんです」
「まともそうに見えたのは一人だけでしたが、そう見えていただけかもしれません」
「いずれにせよ、ゼンジーロ殿のことはわれわれの味方と考えるほかあるまい。
なにせ、あのゴーレムたちが暴れ回ればこの城など簡単に破壊できるわけだからな」
「そろそろわたしは軍に対して、ゴーレムの件を伝える命令書を書いてしまいます」
「ゼンジーロ殿のゴーレムと衝突して事故など起こさぬよう、よろしく頼む」
「はい」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
こちらは命令書を書くため会議室を出て執務室に戻ったカフラン軍務卿。
部屋には、海軍司令官が報告のためやってきていた。
「閣下、さきほどレングスト島の海軍駐屯地から連絡がありました」
「レングスト島というと、海賊の襲撃を受け、こちらから増援を派遣したところではなかったかね」
「はい。
増援隊は無事レングスト島に到着しています。
今日入った連絡で、レングスト島が海賊の襲撃を受けて3日後、大きな地揺れがあったようです」
「地揺れ?」
「地面が大きく揺れた後、しばらくして遠雷のような音が轟いたそうです」
「地面が揺れればただ事ではないだろうが、建物が壊れたのかね?」
「建物には被害はなかったようです」
「で?」
「その2日後、ディオスの漁師より、海賊団の本拠地が海の中に沈んでいるとの連絡を受け、船を出したところ彼らの本拠地が海の中に沈んでしまったことを確認したそうです。沈んだというより抉り取られて、その後に海水が流れ込んだようだった。とのことです」
「うーん。喜ばしいことではあるが、一体何だったんだろうな?」
「調査は継続中ですが、2日前の地揺れと遠雷のような音が関係しているのではないかと報告書には書かれていました。海賊の壊滅を確認したということですので、レングスト島へ派遣した増援部隊に帰還命令を出しています」
「今は都の防備に兵が一人でも欲しいところだ。海賊が消えてなくなったのなら当然だろう。ご苦労さま」
「はい。では失礼します」
海軍司令官は報告を終えて執務室を後にした。
『そういえば、ミルワが国境近くに軍を集めているとの情報がもたらされたのは、海賊団の襲撃があった後だったが、うーん。……。まさかな』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
カフラン軍務卿が部屋を出ていったあとスカラム宰相はゼンジーロの力によって戦が避けられれば、いくら本人が望みはないと言ったとしても、国として十分な礼をしないわけにはならないと考えた。そうでなければハリト王国がゼンジーロに対して必要以上に負い目を背負うことになるし、隣国からハリト王国は吝嗇であるとそしられる。
『さて、どういった物を礼とすればよいだろう? 国庫は厳しいが戦になればさらに厳しくなる。そうだ!
ゼンジーロ殿の弟子は全て少女だった。ゼンジーロ殿の好みは少女ということだろう。
50歳から60歳(注1)ほどの王女殿下はいただろうか?』
『思い出したが、先日第3王女殿下が50歳を迎えた式を挙げていた。これだ! 第3王女殿下は美しいばかりか心優しい方と聞く。ゼンジーロ殿の好みにきっとあうはずだ。今回の国難をゼンジーロ殿の力で回避できたなら、第3王女をゼンジーロ殿のもとに嫁がせるよう何としても陛下の承諾を得なければ』
スカラム宰相は会議室を出て、国王に召喚術師ゼンジーロの件を報告をするため宮内卿の執務室に向かった。
「陛下に至急報告することがあるので、取次ぎを頼む」
「スカラム宰相。申し訳ありませんが、陛下は現在お取り込み中でして」
「うーん。致し方ない。また後で来る」
内務卿の執務室を出て自分の執務室に帰ったスカラム宰相は、心の中で、
『国が大変な時、陛下は一体。
いまさら愚痴を言っても始まらない。臣下であるわれわれはできることをやっていくほかない。先王陛下に長らくお仕えしたこの身。心残りがないわけではないが、この件がどういう形であれ片付いてくれれば引退だな』
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屋敷に帰ったところで解散する前に、俺は着替えたらハリトとミルワの国境をドローンで偵察しておくと4人に伝えておいた。そのあとみんな着替えのために部屋に戻り、俺も部屋に戻って名残惜しいが和テイスト大召喚術師コスから普段着に着替えた。
それからアスカ2号を探し出し二人してロイヤルアルバトロス号のデッキに跳んだ。ちなみにアスカ2号は、アスカ2号専用倉庫兼作業場の机で本を開いて勉強していた。見れば大きな本棚が何個か置かれ、技術参考書のようなものが並べられていた。まねはできないな。
「アスカ2号、これからドローンを飛ばすから、コントロールしてくれ。
ここから海岸に向かってドローンを飛ばし、海岸沿いに右手に飛んでいくと河口があるはずだ。その河口を遡上して両岸を偵察してくれ。特に川上に向かって右岸を念入りにな」
「はい」
俺はアスカ2号を連れてロイヤルアルバトロス号のブリッジに跳び、アスカ2号がドローンのコントロール席に座って準備を終えたところでテラスに出て、アイテムボックスの中のドローンを空中に排出した。ドローンはすぐに上昇しながらハリトの海岸に向かって飛んでいった。
ブリッジに戻ってドローンのコントロール席に座るアスカ2号の後ろからモニターを眺める。
「高度は3000くらいにしておくか」
「はい」
「それで、何か見つけたら1000くらいに落として詳しく観察しよう」
「了解しました」
ドローンはすぐにハリトの海岸に到着して右旋回して海岸沿いに進んでいった。
それから40分ほどで河口が見えてきた。かなり大きな河だ。高度5000メートルあたりを飛んでいたドローンは高度を3000メートルに下げて河口から川をさかのぼり始めた。川の上には遡上する船も川を下る船も見えたが川を渡る船は見えなかったが、少し川をさかのぼったところ右岸には多数の船が係留されていた。人が乗っていないなら船を破壊するのも手ではある。
とはいえ、ミサイル準備に対する先制攻撃なら許されるだろうが、まだ戦端が開かれたわけでもないうえ、おそらく民間から徴用したようなミルワ側の船を勝手に破壊してしまうわけにはいかない。
兵隊が乗り込もうとしたとき破壊するしかないな。メタルゴーレムオルカで十分だろう。そういう意味では、水中からの攻撃は有効かつ、相手から見たら反撃できないのでエグイ攻撃だ。ロイヤルアルバトロス号だって直接防御が難しいからメタルゴーレムオルカで海からの攻撃から守っているわけだし。
右岸を詳しく見てみようとドローンを高度1000メートルまで下げて詳しく偵察したが、岸に船は用意されているようだったが、後方に大規模な軍隊は見当たらなかった。
その後3000メートルまで高度を戻したドローンはさらに川を遡っていき次第に川幅が狭まってきた。
注1:
50歳から60歳:地球式の年齢に換算すると14歳から15歳。




