第459話 うわさ話1
軽食屋で話しながら食事をしていたのだが、隣のテーブルの3人組の男性客の話声が聞こえてきた。一人が4、50代に見えるのおじさんで、残りの2人は20歳前後に見える。父親とその子どものようだ。床に大きな荷物を3人とも置いている。
『ミルワがうちの国に攻め寄せてくるといううわさ、おまえたちも聞いたか?』
『聞いてる』『俺も聞いている』
『まさかハリト軍が敗れるとは思えないが心配だ』
『もしも国境が簡単に抜かれてミルワ軍がこのマハリトに攻めてくるようなら俺は軍に志願する』
『俺もだ』
『おまえたち、早まるな。そんなことしたら母さんが悲しむだろ!』
『でも、ミルワに負けたら悲しむだけじゃ済まなくなる』『母さんと父さんを守るためにも俺たちは国を守らなければならないんだ』
『それに本当の意味で負け戦になれば、有無を言わさず兵隊に引っ張られる。それくらいだったらその前に兵隊になった方がいいと俺は思う』
……。
何だか親子でシビアな話をしている。エレギルも耳をそばだててその親子の会話を聞いていた。
両親を亡くしたとはいえ自分の国のことは心配なのは当然だ。
親子はそのうち席を立って荷物を持って店を出ていった。
俺たちは黙って食事を終えて代金を払って店を出た。4人の軽食だったが銀貨1枚で銅貨のおつりが何枚か戻ってきた。
店を出て、通りをお城に向かって歩きながら、
「戦争か。素人が何人集まろうと戦争の勝敗を左右することはないと思うが」
「まさかゼンちゃん、戦争に介入しようとは思っておらんじゃろうな?」
「もちろん俺はそんなことは思っちゃいない。俺は平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼している日本国民なんだからな」
「ゼンちゃんが何を言いたいのかわらわには今一つ謎じゃが、それならそれでよい。戦争というのは当事者間でしかるべき理由があるものじゃ。善悪などそこには何もないのじゃ。安易に第三者が介入していいものではない」
「とはいえ、エレギルは俺たちの家族なんだから、第三者ということはないんじゃないか?」
「そう言われればその通りじゃった。ならば、
エレギルは戦争が起こったとしてどうしたい? わらわはゼンちゃんが味方になった方は必ず勝つと断言できる」
「ハリトに負けてもらいたいわけじゃないけど、戦争に勝つということは敵をたくさん斃すことだろうから、岩永さんにそんなことをしてもらいたくはない。というのがわたしの気持ち」
エレギルは優しい子だ。亡くなった両親にちゃんと育てられたのだろう。これはますます海賊たちを殲滅してしまったとか言えなくなったな。
「エレギルの気持ちは分かった。
俺は今戦争を止めさせるいい方法を思いついた」
「何ですか?」と華ちゃん。
「さいわいここはダンジョンの中だ。メタルゴーレムを国境にずらりと並べてしまえば両軍ともどうにもならないだろう。空にメタルゴーレムドラゴンを2、30匹舞わせてもいいしな」
「力ずくですが、確かにそれだと両国間の戦争は防げそうです。だけど両国から世界の敵認定されるのでは? 言い方を変えれば魔王認定」
「うーん。攻撃してきても威嚇だけで反撃しないのなら、魔王認定はないんじゃないか? べつに魔王でもいいんだけど」
「ゼンちゃん。わざわざ戦を止めてやるならこの国に恩を売るのはどうじゃろ?」
「戦争を止めれば恩を売ったことになると思うが」
「それはそうじゃが、この国のしかるべき人物がそれを認識してなければ、感謝のしようがないであろ? それにちゃんと打ち合わせをしないと、軍隊がにらみ合ったままにらめっこしているところに都合よく乗り込めんのではないかの?」
「そういえばそうだな。
どこかの城を攻めているところなら簡単に介入できるけど、国境のいろんなところからバラバラに攻め込んで来たら対応しきれないものな。
そもそも国境ってどうなっているんだ?
エレギルは知ってるか?」
「えーと、ミルワとの国境は、ミネル川という川で、川を渡らずにハリトに攻め込むことはできないと思います」
「大きな川なのかな?」
「中流でも、えーと100メートルほどの川幅があります。
それでその中流に1カ所だけ石の橋がかかっていて、橋の先には両国とも城塞都市を築いています。
川の上流は、隣の国のダルトになりますから、ミルワ軍もそこは通らないと思います」
「河口の方は?」
「船で渡るしかありません。川幅が300メートルはあるので敵が船で渡ろうとすると海軍の船で蹴散らせます」
「その時は相手の海軍は自軍の船を守ろうと出てくるんじゃないか? 相手にも海軍があるんだろ?」
「そういえばそうでした。あの塔の中に眠っている英雄のおかげで大敗したのがミルワ海軍です。もちろん今では海軍は立ち直っています」
「そうしたら河口付近で海戦が起こるな」
ドローンを飛ばした時少なくとも川の上空を飛んだはずだが見落としたようだ。きょうは河口の上を飛んでいるはずなので後で確認してみよう。
「その辺りは何とでもなるじゃろ。それよりも、この国の王さまに会うためにはしかるべき格好をしていかねばならぬのではないか?」
「この格好じゃ城の中に入れないだろうな。
城の中に入るのは日を改めるとするか。今日は外から眺めるだけにしよう」
ということで俺たちは城に向かって歩いていき、城の前の堀の前に出た。堀には木製の橋が架かっていてその先は城の門構えになっている。門は開けられていたが、門兵が何人も立っていた。橋は吊り橋ではなかったが、敵が攻めてくれば当然破壊されるのだろう。
「ゼンちゃん、いいことを思いついた。
ゼンちゃんはゴーレム召喚術師として城にやってきたことにするのじゃ。戦の近い今、そういった戦力は喉から手が出るほど欲しいじゃろうからの」
「それは分かるが、ゴーレム召喚術師っていう職業がこの国で認知されるのかが問題じゃないか?
エレギル。この国にゴーレム召喚術師っているかどうか知っているか?」
「いないと思いますが、想像はできます」
「エレギルに想像できる言葉ならこの国の上層部も想像くらいできるじゃろ。わらわたちは大ゴーレム召喚師ゼンジロウの弟子ということでよいじゃろう。
なーに、メタルゴーレムを四、五体出してやればそれだけでゼンちゃんの実力の千分の一くらいは伝わるじゃろ」
なかなかいい作戦のような気がしてきた。特に俺の実力の『千分の一』というところが俺の琴線を激しく揺さぶった。
よーし、イッチョやってやるか!
「今日はこれくらいにしてそろそろ屋敷に帰ろう。続きは明日だ。
俺はそれっぽい格好を考えて用意するからあしたみんなで一芝居だ」
「「はい」」「ヒヒ、フフフフ」
一人嬉しそうにしていたが、みんなが俺の手を取ったところで屋敷に転移した。




