第457話 マハリト1
無事ドローンの試験飛行も終わり、転送の利用法もまた増えた。
翌日、朝食後。
ロイヤルアルバトロス号をレングスト島から30キロほど沖合に進め、そこからディオスの方向に転舵し、ディオスを左手に見てそのまま通過して島を回り込んでいった。
ドローンで見た通り島の先には陸地《本土》が広がっていたので海岸線までの距離を30キロに保ってロイヤルアルバトロス号を30ノットで航行させた。レーダーには多数の船が行き交っているところが見て取れたが、どの船も岸から2キロも沖に出てはいなかった。
ドローンについてはレングスト島を抜けたところで、その先の本土の海岸線沿いに飛ばしている。もちろん俺のアイテムボックスから直接空に送り出したものでアスカ2号が操縦している。ドローンへの指示は高度5000メートルを時速500キロで海岸沿いに1000キロ飛行して戻って来るという単純なものだ。ロイヤルアルバトロス号への指示と同じようなものなので、問題はないだろう。
ドローンは最初にレーダーに映っていた多くの船が行き来している湾に向かって飛んでいったのだが、湾の先には大きな港町が広がっていた。港に入港中の船は比較的大きなものが多い。
俺はアスカ2号に言って、すぐにその街の上空2000メートルあたりをゆっくり旋回するようドローンへの命令を変更した。
街の中には大きな建物もいくつも見える。街の中央部から外れた位置だったが、お城のような建物も見えた。オストランの都オストランと比べてもそん色がないように見える。おそらくエレギルの国の都なのだろう。エレギルに見せればすぐにわかったろうが、あいにくエレギルは屋敷仕事の手伝い中だ。
街の様子を観察し終えたところで、ドローンには最初の命令通り、陸地を左手に見ながら海岸線上空を1000キロほど飛行するよう命令した。
ドローンの飛行距離は2000キロ引くロイヤルアルバトロス号の移動距離。飛行時間は3時間半くらいなので、昼食の後、昼過ぎにはドローンは戻ってくるはずだ。
ドローンに命令を終えた俺は、ドローンのことは放っておいて、エレギルの国の言葉ハリト語のスキルブックをもう3つコアに創らせるためにコアルームに跳んだ。
ハリト語のスキルブックはすぐに用意できたので、コアに礼を言って屋敷に戻り、俺のホームポジションであるコタツに入って昼食を待った。そろそろコタツはお終いかもしれない。現に今も電気を入れていないしな。ただ、靴を脱いで寛ぐと気持ちいいんだよ。
昼食を食べながら、エレギルの国の都らしい港町を見つけたことをみんなに話した。俺がその街の特徴を話したら、エレギルは確かにハリトの都マハリトということだった。
それで、エレギルと一心同体の3人に午後からマハリトに行ってみないかと聞いたところ、4人ともOKした。エレギルは街の道案内だな。
お金はディオスの町に駐屯していた軍隊の隊長さんから銀貨を頂いているので、コピーすれば限度はあるだろうがそこそこ増やすことができる。通貨として金貨というものがあるなら銀貨を金貨に両替すれば金のサイコロなら素材ボックスにそれなりの数入っているのでなお結構だ。
昼食を終えてデザートも食べ終え、食器の後片付けが終わったところでめいめいオストラン風の普段着に着替え、玄関ホールに集合した。そこで華ちゃんたちにハリト語のスキルブックを使わせた。そのあと俺たちはハリトの都、マハリトに跳んだ。
俺たちの現れたのは、マハリトの真ん中あたりにあった丸い広場だ。例によっていきなり現れた俺たちに注目する者はいなかった。
広場の真ん中には高さ20メートルほどの円柱形の塔がそびえていた。広場は大きな道でぐるりと囲まれている。その道から四方に大きな通りがまっすぐ延びていて、その中の一本は城の建つ王宮のような一画に向かっていた。
広場には俺たち以外人はいなかったが、広場を囲む路上には箱馬車と荷馬車が音を立てて移動していた。どの馬車も時計回りだった。どうもこの道はロータリーになっているらしい。
「この道ってロータリーなんですね」と、華ちゃん。
「そうみたいだな」
「ロータリーってイギリスに多いんです。イギリスだとラウンダバウトって言うんですけど」
華ちゃんて博識だなー。
そのあとエレギルは広場の説明をしてくれた。この広場は昔ハリトの危機を救ったものの自らは船上に斃れた海軍の英雄をたたえるためのもので、中心に立つ塔の中にはその英雄の遺体を納めた石棺が納められているそうだ。
「なんだかどこかで聞いたような話だな」
「それってトラファルガー海戦でフランスとスペインの連合艦隊を打ち負かしたイギリスのネルソン提督のことじゃないですか?」と、華ちゃん。さすがは華ちゃん。博識だなー。
俺は高校の世界史のテストで、ネルソン提督の下の名まえが思い出せなくて、バレーショ・ネルソン って書いて×だったことがあったなー。答えはネルソンだけでよかったのがさらにショックだった。
「そういえば、ナポレオンは名まえだけど、ネルソンは名字だろ? アレっておかしくないか?」
「王さまとか皇帝の場合は名まえですよね。ナポレオンは皇帝ですから名まえ呼びなんじゃないですか? そのほかの人は名字だったような」
なるほど。
俺の疑問がいっきに氷解した。そういえばオストランは地球とは違うけど、俺はゼンジロウ王だった。やっぱり華ちゃんは博識だなー。
何の関係もないことを考えるのはよして、周りを観察することにした。観察した結果、俺たちのいるのはマハリトの中心部の広場で、周囲は大きな建物が立っているということが分かった。実質何もわからなかったと言っていいだろう。俺たちの格好が奇異の目で見られていないことだけは分かったが、これについては、ディオスの町でも分かっていたことだ。
「エレギル、見物するのにいいところはないか?」
「ここから近いところとなると、マハリト大神殿があります」
「そんなのがあるんだ。オストランにもオストラン神殿ってあって、とんでもないことがあったけど、まさかマハリト大神殿でも似たようなことは起こらないよな?」
俺の質問に背景を知らないエレギルはとまどった顔をしたので、キリアがその辺りのことをエレギルに説明してやった。
「それで、岩永さんは王さまになったんですね」
「そういうことなんだ。
で、ここのマハリト大神殿はどういった神殿なんだ?」
「よくは分かりませんが、王さまになるような剣が埋まっていないことだけは確かです。
正面から入った先は大ホールになっているんですが、その大ホールの天井画や壁画、それに飾られている彫刻が見事なので、多くの人が訪れています」
「普通の神殿なんだな。それは良かった」
「わらわからすれば、残念じゃった。
この国の王さまになっても面白かったのではないか?」
「そう簡単に王さまには成れないだろう。今でさえそれなりに大変なんだからこれ以上役職が増えると大変だから」
「ゼンちゃん、この国の王さまに成れるかどうかは分からぬが、英雄くらいにはなるかもしれぬのじゃ」
「王さま以外なら何でもいいけど、英雄にも成れないだろう」
「そうじゃろか? 何せゼンちゃんはわらわの加護を持っておるのじゃからの。ヒッヒッヒ」
なんか思わせぶりだなー。




