第456話 ドローン4
60分走ったら久しぶりにそれなりに汗をかいてしまった。
高校の時、持久走でいつも後ろの方を走っていた時と比べればもはや超人の域に達している。50分の体育の時間で正味走っていたのは長くて40分だろう。それでもひーこら言っていたわけだから、ダンジョンさまさまだ。
汗はすぐに引いたがそれでもシャワーを浴びようと二人に先に失礼すると言ってジムから風呂場に行った。
そういえば、うちでは屋敷でもロイヤルアルバトロス号でも男風呂、女風呂を区別していない。屋敷はまだしも、ロイヤルアルバトロス号の場合はジムもあることだし思わぬ事故が起こる可能性もある。アニメなんかではラッキースケベで笑って済まされるが、許されることはまずないと考えていた方がいい。
マンションの風呂場は未使用だから、そこを俺専用のシャワールームとして使ってもいいが、広い風呂場に慣れてしまったいま、あそこの風呂場でシャワーは何だかわびしい気がする。贅沢だな。俺にとっては、場所はどこでもいいので、コアルームの隣りにでもシャワールームを作ってもいいし。そうするか。
などと考えながらシャワーを浴びて、普段着に着替えた俺は、ドローンがどこまで飛んでいったのか確かめるべくブリッジに上がっていった。
「アスカ2号、どんな感じだ?」
「現在、ドローン1号機はロイヤルアルバトロス号からの距離600キロを高度5000メートルで飛行中です。電波の状態は良好です」
前方を映すモニターに陸地がだいぶはっきり映しだされていた。それでもまだ1000キロ近くの距離があるので霞んでぼやけているし、拡大すれば画像が揺らいでいる。今見えている陸地はレングスト島とかいう島のハズだったが、思った以上に大きな島だったのか、それとも島の向こう側すぐ近くに陸地があるのか。今のところどちらとも判別できなかったが、エレギルの国が広がっているはずなので本土が広がっていると考えた方がいいかもしれない。
もしそこで海が途切れて陸地が始まったら、人が大勢住みいろんな国のある陸地を踏破しなくてはならなくなるわけだからコア探索の旅は大変になることは間違いない。
このまま順調に飛行し続ければ、あと2時間でドローンは陸地、レングスト島上空に到達だ。とにかくドローンを製作したのは正解だった。
それから昼食をはさみ2時間が経過した。ちょうどドローンは港町ディオスの上空を通過した。
「かなり電波の状態が悪くなっていますがまだ大丈夫です」
確かにたまにモニターにノイズが走るが、偵察用カメラがとらえるディオスの映像そのものは鮮明だ。レングスト島は2、3キロ幅の水道でその先の陸地と隔てられていた。
レングスト島の先のその陸地は大きく広がっている。しかし海もどこまでも続いており、陸が広がって海が途切れているようにも見えない。
俺がアスカ2号の後ろでモニターを見ていたら、華ちゃんがブリッジに上がってきた。
「これがドローンの映像ですか?」
「さっきエレギルの住んでいた港町の上を通過したところだ。
その先に陸地が広がっているけど海も途切れているわけじゃない」
「陸地は大きな島というか大陸のような感じもしますね」
「そうだな。今見えている陸地の上には人がたくさん住んでいるんだろうから、コアを見つけるためとはいえ、そういった中を突っ切っていきたくはないよな。あるていど遠回りになってもロイヤルアルバトロス号で海の上を進んでいきたいよな」
「それもそうですね」
華ちゃんはしばらくモニターを眺めていて、オリヴィアのピアノを見てくると言ってタラップを下りていった。
それからしばらくしてモニターのノイズがひどくなり始め、さらに20分ほどしたところで、
「マスター、電波状態が限界を迎えドローン1号機が旋回を始めました」
「距離は2000キロくらいだったか?」
「はい。ちょうど2000キロでした」
切りのいい数字だから俺でも覚えられる。
「分かった。それじゃあロイヤルアルバトロス号に帰投させてくれ。
そうそう、帰投途中、ここから見てディオスの町の左手50キロほど離れた上空を通るようにして帰投させてくれ。その上空を航過する時は高度を1000メートル、速度は時速200キロまで下げてよく観察できるように頼む」
「了解しました」
ドローンが帰投を始めて1時間弱。
ドローンは進路を微調整しつつちょうど俺が破壊した海賊の本拠地らしき場所の上空を通過した。高度は1000メートルなので偵察カメラの捉える映像は細部まで鮮明だった。
陸地の部分はすり鉢状のクレーターになって水没し、丸い入り江になっていた。入り江の直径は1キロほど。7.5万トンの超音速の物体の運動エネルギーがほとんど破壊に使われたわけだから当然なのだろう。クレーターを囲む地形はひび割れてはいるものの、すっかり落ち着いているようなので、俺が転移で現れてその上に立っても崩れ落ちたりしないように見える。
あとで屋敷に戻ってスマホで調べながら電卓をたたいたところ、
6角柱の推定質量を7.5万トン。最終速度を秒速1000メートルとすると、運動エネルギーは3.75×10の13乗。
TNT1トンのエネルギーは4.184×10の9乗ジュールだそうだ。
6角柱の運動エネルギーをTNT換算すると、3.1×10の4乗トン=31キロトン。
その7割が破壊に使われたとして、22キロトン。広島に落とされた原爆は16キロトンだったらしい。
TNT換算はそれでいいのだが、その破壊の大元だった6角柱が無傷だったことから6角柱がただの金属ではないことは明らかだ。ダンジョンで作られた物だからある種のマジックアイテムなのだろう。
6角柱については依然謎のままだが、一つの使い方は分かった。
華ちゃんの重力魔法で6角柱は引っこ抜かれて、そのままものすごいスピードで空高く舞い上がっていったのだが、もしあれが大空洞の中じゃなくて、地球の地表だったらどうなってたんだろう。そのまま加速を続けて、いわゆる脱出速度を超えてしまったのだろうか? 華ちゃんが気密室の中に入って、あの重力魔法を気密室に対して使えば、宇宙船になるんじゃないか? 別に宇宙なんぞに行きたいわけではないが、宇宙船の打ち上げも華ちゃんが魔法を使えばものすごく簡単かつ安価になると思う。
そのうち、イワナガ・コーポレーションで人工衛星打ち上げサポートを手がけたら大儲けできそうだ。毎日打ち上げるようなものじゃないから、週一アルバイト感覚で毎回10億くらい稼げそうだ。そのうち華ちゃんに話してみよう。
キャビンの居間に下りてアキナちゃんたちとアニメを見ていたら、ドローンが戻ってきたとアスカ2号が知らせてくれた。
アニメは名残惜しいが俺はブリッジの後ろのテラスに上がっていき、上空50メートルあたりを旋回しているドローン1号機をアイテムボックスに収納した。その時2匹のメタルゴーレムドラゴンは100メートルくらい上空を旋回していた。
ドローンの回収が終わったところで、ブリッジに戻った俺は船外放送でメタルゴーレムドラゴンとメタルゴーレムオルカを呼び寄せ、それぞれそのままアイテムボックスに収納した。これから、ロイヤルアルバトロス号を海賊の本拠地近くに転送してやるためだ。先ほど、ドローンでクレーター入り江の周辺もちゃんと観察しているので、転移する自信はあるし、転送する自信もある。
ということで、俺は再度ブリッジに戻り、これからロイヤルアルバトロス号をレングスト島近くに転送する。乗ったままで大丈夫だ。と、船内放送しておいた。アニメに夢中の連中からすれば黙っていれば転移したことに気付かなかったろうし、船内放送がアニメの視聴の邪魔になっただけかもしれない。
船内放送後、俺はアッパーデッキの通路に置かれた箱から救命胴衣を取り出して着込んだ。
俺を乗せたまま転送できるかの実験だ。失敗して俺が海に向かって落下したとしても、海面に到達するまでにはロイヤルアルバトロス号に転移できると思うが念のためだ。
準備完了。
俺は、海賊の本拠地跡地のクレーターから沖にだいたい5キロくらいの位置にロイヤルアルバトロス号を転送した。
俺は海に向かって落っこちていくこともなくロイヤルアルバトロス号と一緒に転移できた。
この技を繰り返せば、とんでもないことができそうだが、そこまで急ぐ必要はないので従来通り船の力だけで航行しよう。
俺は念のためメタルゴーレムドラゴンとメタルゴーレムオルカを展開しておいた。ロイヤルアルバトロス号には停船しているよう指示しておいた。




