第455話 ドローン3、転移
ドローンの偵察用カメラによって映し出された映像を脳裏に刻み込み俺は転移を試みた結果、ちゃんと俺は果物島の白い砂浜の上に立っていた。
俺の転移術はLvMax。さすがだ。こうなってくると、コア探索の方法が変わってくる。ドローンを先行させて、適当なところで俺が跳んでいき、そこでピョンちゃんを使って通り過ぎていないことを確かめて、更にドローンを先行させる。これの繰り返しでずいぶん探索時間が短縮されるはずだ。
砂浜に下り立った俺はすぐにロイヤルアルバトロス号のブリッジに戻った。
結局ドローンは20分ほどで果物島を一周した。アスカ2号によると、果物島は見えた通りややひずんだ楕円形で長径65キロ、短径40キロ。周囲は150キロだったそうだ。
「次は、コア方向に向けてドローンを飛ばしてくれ。そのうち陸地が見えるはずだから、そのまま進んで、最初に見えてきた港町の上空で海岸線を左に移動してくれ」
「了解」
アスカ2号がドローンに指示を出して、ドローンが高度と速度を上げていった。
何時間くらいで陸地は見えるかと思ったのだが、陸地らしきものはすぐにモニターに映し出された。アスカ2号によると陸地までの距離は約1500キロだそうだ。ただ画像が揺らいでいるうえ霞んでいて、はっきり言って何が何だかわからなかった。
「そういえばアスカ2号、ドローンはどこまで飛んでいけるんだっけ?」
「どこまでも飛んでいきますが、ドローン側で電波の受信状態が悪いようならそこで旋回を始めます。実測してみない事には距離としては表せません」
「なるほど。
まずはどの程度ドローンが飛んでいけるものか実測する必要があるな」
モニターを見ると現在の対気速度は時速500キロだ。3時間もすれば陸地に到着するハズだが、電波がうまく届かないようなら、その前にドローンは直進を止めてその場で旋回を始めるわけだな。なるべく遠くまで飛んでいってもらいたいものだ。
「アスカ2号、もし陸地の上に到着してもドローンとの電波のやり取りがちゃんとできているようならそのまま真っすぐ飛ばして、電波の到達範囲を確認してくれ」
「了解しました」
このままドローンに付きっきりでも仕方がないので、俺はその場をアスカ2号に任せてブリッジから下のキャビンの居間に下りていった。
みんな退船するように言っていたので、まだだれも居間にはいなかった。誰もいないとつまらないので、更にタラップを下りていき、ロイヤルアルバトロス号の自室に入ってトレーニングウェアに着替えてランニングを始めた。ドローンの進む距離は1時間で500キロなので、電波が順調に届くとして陸地に到達するまで3時間はかかる。
とりあえず俺はランニング時間を60分にして傾斜5パーセント、時速20キロで走り始めた。
20分ほどしたら、スポーツウェアを着たキリアと華ちゃんがやってきた。
「岩永さん、走ってるんですね」
「今ドローンがどこまで飛んでいけるか確認中なんだ」
「ゴーレムコマで飛ぶドローンだからどこまでも飛んでいくんじゃないんですか?」
「飛んでいくという意味だとどこまでも飛んでいくらしいんだけど、電波が届かなくなるとコントロールできなくなるから、電波が弱くなったらそこで進むのを止めて旋回するんだって」
「そうなんだ。結構難しいんですね」
「そうだな。それでもアスカたちに任せておけば間違いないだろ。なにせ超高性能美少女ゴーレムなんだし」
「そうでしたね」
「華ちゃんたちは、今日は何をするんだい?」
「二人でランニングしようと思ったんですが、ランニングの機械は2台しかないからどうしようかと思ってたところです」
「わたしはウェイトトレーニングするからいいです。ハナお姉さんがお父さんと一緒に走ってください」
「そう? それじゃそうするね」
「まだ場所もあるし、もう1台作ればいいだけだから、ちょっと待ってて」
「お父さん、わたしはウェイトトレーニングがしたいので、ハナお姉さんと二人でランニングしてください」
「そうか? 全然手間じゃないんだから遠慮しないでいいんだけどな」
子どもが遠慮などする必要はないんだがな。まあいいや。
「華ちゃんは、どれくらいで走るんだい?」
「わたしは時速20キロで、傾斜なしかな」
「はるかさんによると時速20キロはオリンピック選手並って話だし、女子だとそれより遅いはずだから、華ちゃんがオリンピックに出れば優勝だな。人間機関車とか言われたら最高だな」
「お父さん、人間機関車って何ですか?」
「機関車ってのは列車を引っ張ったり押したりする鉄道車両のことだ。速さと力強さの象徴だな。人間機関車となると、その機関車並にブッチギリに走る人間て意味だ」
「すごいなー。
でもお父さん、わたしはお父さんから人間機関車みたいだって言われるとすごくうれしいと思うけど、そうじゃない人もいるかも知れませんよ」
「そんな人いるかな。何せ人間機関車だぞ。カッコいいと思わないか?」
「岩永さん、わたしオリンピックなんか出ませんから」
その後、華ちゃんは一言も言わずに走りはじめた。キリアも何も言わずにトレーニングを始めた。
俺は何かやらかしてしまったらしい。
キリアは俺と同じようにベンチプレスを始めるのかと思ったのだが、いきなりスクワットを始めた。重さは150キロ。女子ならそんなものなのだろう。
バーベルを肩に担いで十分腰を下ろしてから立ち上がる。
キリアはスクワットの回数を声に出すので、よくわかる。
2、…、3、…、4、……、19、…、20。
これで一度バーベルを金具にかけて、10秒ほど休んでまたスクワットを開始した。
今回も20回。
そして、10秒ほど休んで、また始めた。
結局、20回を5セットこなしてしまった。さすがファイター特化のキリアだ。
その後キリアは、椅子に座って、左右に開いたアームを内側に閉じるトレーニングを始めた。その機械は後ろにウェイトをセットするようで見た感じ四角い10キロのプレートが7、8枚乗っていた。
キリアはそれも20回×5セットやってしまった。さすがファイター特化のキリアだ。
その後もキリアはウェイトトレーニングを黙々と続けて、どれも同じように20回×5セットこなした。さすがファイター特化のキリアだ。本気で鍛えている。
俺はそんなキリアに刺激されて、途中から傾斜を上げていった。ポチポチ、ボタンを押していったのだが15パーセントで打ち止めになった。走るというより上る感じなので、かなり走りにくい。その状態で頑張ったのだが、情けないことに10分で足にきてしまった。15パーセントで20キロは無理だったので、傾斜を10パーセントまで下げたら急に楽になった。その状態のまま予定時間の60分が来たので、ベルトが停止して傾斜も元に戻った。
俺が60分走り終えたところで、隣の機械の上で走っている華ちゃんは呆れたように、
「岩永さん、途中時速20キロで15パーセントだったんでしょ?」
「15パーセントだと走りづらくて20キロで走るのは無理みたいだった。それで結局10分くらいしか走れなかった。10パーセントくらいならそんなに走りづらくなくって楽だったんだがなー」
「これからは、何か重いものを持って10パーセントの勾配を走ったらどうです?」
「おっ! その手があったか。ダンベルを持って走れば腕も鍛えられて一石二鳥だな。いいことを聞いた」
「ほんとにダンベルを持って走るんですか?」
「そのつもりだけど」
「あまり無茶なことはしない方が」
注1:大洞窟が平面なので電波は空気中を減衰しながらもどこまでも飛んでいくのでしょうが、ロイヤルアルバトロス号のアンテナもそれほど大きなものではなく、ドローンのアンテナはさらに小さいので、航空無線の最大値650キロの3倍程度の2000キロとしておきました。
「人間機関車」ザトペック。1952年ヘルシンキオリンピックのマラソンで優勝した。




