第448話 工事。後藤真由美3
その日の定例会議は早く終わったので、俺は華ちゃんを屋敷に連れ帰ったその足で親父のもとに跳んだ。
親父に防衛省からもらった図面を見せて事情を話し、国から山の買い取りの話がきたら承諾してくれるよう頼んでおいた。
「われの好きなようにしてくれてええ。そーで、町が発展すーなら越したことはなえ」
ということで親父から了承してもらった。その後俺はコアルームに跳んだ。
今回の依頼は少し複雑なので、俺は念のためコアに手を当てて、
「コア、新たにダンジョンの出入り口を作ってもらいたい。第1層の適当なところに見た目コンクリート製の空洞をまず作ってくれ。広さは100メートル四方くらい。高さは10メートルほどにしておくか。
「了解。
……。できました。既存の第1階層から直径20センチほどの小口径の洞窟を延ばしています」
「新空洞にモンスターは侵入させないようにな」
「はい」
次に俺は防衛省でもらった図面を片手に持ってコアの前でヒラヒラさせて、
「コア、この図面が分かるか?」
「はい。分かります」
「この図面の道路の予定先に、新空洞の適当な壁の真ん中につながるゆらぎを作ってくれ。ゆらぎの後ろには山に半分埋まる形で横幅20メートル、高さ7、8メートル、奥行き5メートルくらいのコンクリートブロック風の目印を作ってくれ」
「はい。
できました」
俺はオストランの日本町予定区画を思い描き、
「そしたら今度は、ここに新空洞につながるゆらぎを作ってくれ。目印は最初のものと同じだ。新空洞側の出口は最初に作った出口の真正面の壁だ」
「できました」
「ゆらぎは不活性化できるか?」
「可能です」
「じゃあそうしてくれ」
「不活性化しました。現在揺らぎは人では視認できません」
「ゆらぎを活性化させるときは伝えるから」
「了解しました」
「ところで、俺はその新空洞を見てみたいんだが、どうすればいけるかな?」
「わたしがマスターを転送します」
「そんなことができたのか」
「ダンジョン内限定です」
「なるほど。じゃあ転送頼む」
「はい。3、2、1、転送」
100メートル四方で天井が10メートルもあると結構広い。
何も指示していなかったが、空洞の床、天上、壁、表面はデコボコなどなくきれいに成型されていた。
空洞全体はダンジョンの中らしくわずかに発光していてそれなりの明るさが保たれている。
例の黒い板はかなり大きなものが向き合った壁の真ん中に各々くっ付いている。コアに手を当てて頼んだことで痒いところにも手が届いたのだろう。
俺はコアに心の中で礼を言って屋敷に帰った。
一つの形ができ上ったわけだから、これからは同じ感じで『ゲート』を作るのは簡単だ。部屋を確認した後、俺は防衛省専用スマホで野辺次長に、
『会議で話したようにゲート用のゆらぎとコンクリートブロック風の目印を作りました。現在ゆらぎは不活性化しており通過はできませんし見えませんが、いつでも活性化できます』
と、メールしておいた。
今日の午後は、後藤真由美さんが、屋敷にやってくることになっている。なので夕食は歓迎会の予定で外食することにしている。これで屋敷の人数が11人になる。今の食堂のテーブルは10人が限度なので、少し延ばすことにした。いったん収納して一人分の幅を延ばしたテーブルを作り、食堂に出しておいた。ちょっと違和感があるがすぐに慣れるだろう。
後藤さん用のベッドと寝具、タンスと机は、はるかさんの部屋にすでに運び入れている。タンスの中にはタオル類なども入れている。パソコンの用意は真由美さんが来てから、要望に沿ってアスカ3号が部品を用意して組み上げるだろう。
池袋の西口で午後2時に待ち合わせをしている。今となってはマンション経由で俺を介さず屋敷と日本の行き来は簡単なので大きな荷物を用意する必要はない。はるかさんとも連絡を取り合っているようなので間違いはないと思う。
昼食を食べ終え、居間で時間調整してから2時5分前に池袋の西口、前回後藤さんを送った位置に跳んだら、目と鼻の先に真由美さんが立っていた。俺にとっては初めての経験だったのでちょっとびっくりした。
逆に後藤さんは驚いていなかった。
「こんにちは」
後藤さんの隣りにスーツケースが一つ置いてあったので、俺がその荷物に手をかけて、
「後藤さん、適当に歩きながら転移するので、わたしの手でも腕でも適当なところに手を当てていてください」
後藤さんが俺の手首に手を添えたので、そのまま数メートル歩きスーツケースは手に持ったまま収納せず、屋敷の玄関ホールに跳んだ。スーツケースははるかさんの部屋の扉の横に転送しておいた。
玄関ホールにはうちの連中が全員揃っていた。
「後藤真由美さん、ようこそ」
「後藤真由美です。みなさん、よろしくお願いします」
その後、華ちゃんから順に名まえだけ自己紹介していった。
「後藤さんの荷物ははるかさんの部屋の扉の横に置いています」
「は? あっ! はい」
「今日は6時くらいから後藤さんの歓迎会を予定しているので、6時少し前にここに集合してください。
それまでは荷物の片付けかな」
「はい」
「じゃあ、真由美いこうか?」
「うん」
それでみんなが解散した。
俺は忘れないうちにコアルームのとなりの通路を守るゴーレムが不審者として後藤さんを扱わないように、コアに後藤さんも俺の身内だと教えておいた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
はるかに連れられて2階に上がり、部屋の横に置いてあったスーツケースを持ってはるかの部屋に入った後藤真由美。
「この部屋が、はるかの部屋なの? こんな広い部屋を一人で使ってたの?」
「うん」
「いいなー。
それはそうと、はるか、これからもよろしくね」
「うん。明日真由美は午前中に手続きでイワナガ・コーポレーションに顔を出さないといけないらしいからね。わたしは学校があるから付いていけないけれどエヴァちゃんが案内してくれることになってるから」
「分かった。
さっきの紹介だけだと全員は覚えきれていないんだけど、エヴァちゃんなら覚えている」
「ならよかった。
今日の歓迎会でみんなの顔と名まえは憶えられると思うよ。
わたしと華ちゃんとエレギルちゃん以外みんな姓は岩永だから。エレギルちゃんはまだは岩永姓じゃないけど、そのうちそうなると思うわ」
「ねえ、このお屋敷の中には若い女性と少女だけなんだけど、その辺は大丈夫なの?」
「岩永さんに限っては、恐ろしいくらい何もないから」
「何それ? じゃああっち系?」
「いや、それはもっとない」
「そうなんだ」
「あの人、良い人過ぎる上に、はっきり言って恋愛関係についてはすごく鈍感みたい。そこはワザとかどうかは分からないけれどね」
「どういうこと?」
「学生時代に大失恋して、今臆病になっているとかあるじゃない」
「なるほど」
「あとね、真由美。あなたでもそうとう驚くと思うけれど、この屋敷というかこの屋敷につながっているところというか、とにかくアスカさんって人がいるの」
「それが驚くことなの?」
「ヱヴァ〇ゲリヲンのアスカってあなたも知ってるでしょ?」
「うん、知ってる」
「そのアスカにそっくりなの。アニメ顔を実写化したらこうなるって感じで」
「それは驚くと思う」
「それだけなら美人のそっくりさんってだけだけど、実はアスカさんは3人いるの」
「うん?
いま、3人いるって言ったよね」
「言った」
「何それ? 名まえが一緒で同じ顔って言うこと?」
「そういうこと。で、岩永さんは、区別するのにアスカ1号、2号、3号って呼んでるの」
「何それ、ひどくない?」
「普通に聞けばそうなんだけど、それには理由があってね」
「どんな理由?」
「実は、アスカさんて、岩永さん曰く、超高性能美少女ゴーレムなんだって」
「岩永さんって、すごいお金持ちだって言ってたよね? お金にあかせてロボットを作ったってこと?」
「そうじゃないの。
これから先の話はここにいる人以外には絶対口外しないでよ。言ったところで誰も信じないと思うけど」
「約束する」
「実は岩永さん、日本にある32個のダンジョンのダンジョンマスターなのよ。
ダンジョンマスターって真由美も知ってるよね?」
「知ってる。ダンジョンの一番奥にいる最強のガードマン」
「それじゃなくって、ダンジョンの中にはダンジョン・コアってダンジョンの心臓と頭脳を兼ねているような玉があるの。ダンジョンマスターはその玉の所有者のことなの。それで、ダンジョンマスターはそのコアに対していろいろなことをさせることができるわけ。例えばヱヴァ〇ゲリヲンのアスカそっくりで実写版超高性能美少女ゴーレムを創れとかね」
「それホントなの?」
「わたしの口だけではなかなか実感がわかないでしょうが、アスカさんたちの仕事ぶりを見ていればそのうち真由美も分かると思うよ」
「ふーん」
二人でそういった話をしていたら、部屋の扉がノックされた。
『アスカ3号です』
「はい、どうぞ」
「失礼します」
部屋に入ってきたのは、確かに実写版アスカだった。
「後藤さんの要望を聞いてパソコンを用意するようマスターに言われていますので、どういったパソコンをお使いになるかうかがいに来ました」
「?」
「真由美、だいたいのスペックを言えばアスカ3号さんが部品を取り寄せてパソコンを組み立てた上セットアップしてくれるの。
自分じゃよくわからないなら、わたしのと同じでいいんじゃない」
「じゃあ、はるかと同じものでお願いします」
「了解しました。5日ほどで用意できると思います。失礼します」
そう言ってアスカ3号が部屋を出ていった。
「ホントにそっくりだったじゃない」
「でしょ。アスカ3号さんはIT担当者だから、その関係のことはアスカ3号さんに相談すれば大丈夫よ」
「アスカさんてそっくりな人が全部で3人いるんでしょ? どうやって区別するの?」
「今のアスカさんは髪の毛がストレートだったでしょ?」
「うん」
「アスカ3号さんはストレートだけど、1号さんと2号さんはツインテールなの」
「じゃあ1号さんと2号さんの区別はどうするの?」
「1号さんはこの屋敷と隣の学校の警備担当だから何も持たずそれらしい感じで歩いている。2号さんは電気と機械担当なのでそれらしい感じで動き回っている。正直私でもそれくらいでしか区別できないわ。
後、アスカ3号さんはマンションにいることが多くて、2号さんは連絡通路の先の作業場にいることが多いそうよ。わたしは作業場の中には入ったことないんだけどね」
「1号さんは歩き回っているわけか」
「そう。真由美もそのうち慣れるわよ」
「そうだといいんだけど」
「真由美なら大丈夫」




