第446話 作戦決行。秘密1。
作戦は決まった。あとは決行のみ。
その日エレギル用の勉強机一式を勉強部屋に入れておいた。どの程度算数の能力がエレギルにあるのか分からないが、はるか先生が適当に対処するだろうから何とかなるだろう。実は数学の才能があるかもしれないし。
翌朝4時。俺は暗い中起き出して支度を終え、ロイヤルアルバトロス号のブリッジに跳んだ。
「ロイヤルアルバトロス号、昨日の入り江から1キロのとこまで近づいてくれ」
「了解」
ロイヤルアルバトロス号が舵を切りながら加速を始めた。そして船首がレングスト島方向を向き速度も30ノットとなった。
30分ほどでロイヤルアルバトロス号が停船したので俺は船首に出て、フィギュアゴーレムオルカ2型を海に投げ込み3頭のメタルゴーレムオルカ2型に戻して、入り江の中の船を全て破壊して速やかにここに戻って頭を出すよう命令した。
すぐにメタルゴーレムオルカ2型は頭を海中に沈めてそのまま入り江を目指して泳ぎ去っていった。3頭は水没せずに泳いでいる。立場が違えばまた違う感想を持つのだろが3頭の銀色の背びれがカッコいいし頼もしい。
入り江の中の様子は双眼鏡をのぞいてもよく分からないのだが、5分ほどでオルカ2型が3頭とも帰ってきた。3頭とも頭を海面に出しているのでそのままアイテムボックスに収納しておいた。
作戦の第1弾は成功したようだ。これでこれからの攻撃の効果が不十分だったとしても海賊活動は容易には再開できないだろう。
それでは次の作戦だ。
ブリッジに戻った俺は、ロイヤルアルバトロス号に指示を出した。
「RA号、沖合10キロまで移動して停船してくれ」
10分ほどでロイヤルアルバトロス号は停船した。6角柱の投下位置は、海辺から50メートルほど陸側とした。その辺りに海賊たちが寝泊まりする建物があるだろうとの勘だ。わずかばかりの土地を含んで入り江そのものが水道部を除いて崖で囲まれているようなので、少々見込みが外れたところで大した差はないだろう。
俺は目標の入り江方向を双眼鏡で眺め、それからだいぶ白んできた空を見上げた。
「いくぞ。なるべく高く、六角柱、排出!
イッケー!」
かなり高く排出できた。肉眼でも双眼鏡でも空に溶け込んで見えなかった。昨夜簡単に計算してみたのだが、空気がなければ上空100キロから物が落下する速度は秒速1400メートルになる。落下時間は140秒。2分ちょっとだ。
2分経ったが双眼鏡でも何も見えない。
3分過ぎてはるか上空に白く輝く点が見えた。
その白い輝きがギラギラとだんだん大きくなってきて、その上に6角棒が黒い糸のように伸びているのが見えてきたと思ったら、入り江の先に白い輝きが吸い込まれた。
別に閃光が見えたわけではない。だが、岩石弾を伴ってものすごい量の粉塵が湧き上がり水道部からも粉塵が吹き出し岩石弾が無数に飛び出してきた。そして周囲の崖が崩れ始めた。今度は粉塵の代わりに空に向かってモクモクと水蒸気雲が立ち上り始めた。
六角柱はその水蒸気雲の中で7、8キロの長さでそびえ立っていた。2、3キロは地中に貫入したようだがほとんどの運動エネルギーは破壊に使われたのだろう。俺は6角柱をアイテムボックスに収納した。6角柱の下の面を確かめたが、全く変形していなかった。
効果は十分だ。入り江のあった位置から数メートルの波が沖に向かって広がっているが大したことはなさそうだ。
6角柱の着弾から30秒ほど観察していたら、ドーーンという低く重い音が轟いてきた。
「RA号、沖合50キロまで移動してくれ」
「了解」
今回の攻撃でおそらくあの入り江にいた者は全て死んでしまっただろう。中には海賊たちによって人質になっていた人もいたかもしれないが、いなかったかもしれない。今さらどうしようもない。少なくともこれで海賊団による被害者は今後生まれないということだけは確かだ。
俺は見ず知らずと言っていいような海賊団に対してここまで非情になった自分を不思議に思ったが、結果には満足して屋敷の居間に戻った。
そうしたら、アキナちゃんが一人コタツに入って座っていた。
「ゼンちゃん。ご苦労さまじゃったの」
神さまは何でもお見通しなんだな。
「海賊以外の人間。例えば人質とかいたかもしれなかったが、考慮などせず海賊団の本拠地を文字通り吹き飛ばしてきた。誰に頼まれたわけでもなくただ俺の気持ちを満足させるためだけにおそらく数百人の命を奪った」
「それでもよいのじゃ。完璧などを求める必要はないのじゃから。海賊による新たな被害者がこれから先ずっと生まれるよりよほどよいのじゃ。あらためて、ゼンちゃんご苦労さま」
「そうだな。アキナちゃんありがとう。
だけど、どうして俺が一人で海賊退治すると分かったんだ?」
「わらわしか見えぬらしいが、ゼンちゃんに与えた加護から漏れるオーラをわらわは読むことができるのじゃ」
「えっ!? アキナちゃんにはそんな芸当があったのか?」
「自分が与えた加護じゃもの。ちなみに他の神が与えた加護は見えはするが読めはせぬ」
「ふーん。
まあ、そういうことだから、今日のことはみんなには内緒にな」
「心得ておる。
せっかくじゃからゼンちゃんにだけわらわの秘密を教えてやるのじゃ」
「今の話以外に何か隠していることがあったのか?」
「隠しているわけではないが、他人に言ったことはないのじゃ」
「そんなのを俺に教えていいのか?」
「ゼンちゃんは特別じゃから良いのじゃ」
「ふーん。
それで、その秘密とは?」
「ゼンちゃんの考えていることは9割9分、分かる」
「そんなに俺の考えていることが分かってしまうのか?」
「わらわはゼンちゃんをからかうことがあっても、それを人に漏らすことは決してないから安心しておればよいのじゃ」
「それがアキナちゃんの秘密?」
「いや。
実は加護を与えておらぬ者の考えていることもある程度分かるのじゃ。特に一緒に暮らしておればの」
「じゃあ、エヴァたち4人の考えていることもかなり分かるんだな」
「しかり。もちろん4人に限らぬのじゃがな」
「さすが神さまだな。俺もアキナちゃんの秘密は誰にも話さないから安心してくれ」
「信用しておるから話したんじゃがな。
そういえばゼンちゃん。オストランではゼンちゃんはもうよい歳なんじゃが、まことの子がおらんじゃろ? 妃のことはどう考えておるのじゃ? わらわの能力をもってしてもそこが全く読み取れぬのじゃ」
「アキナちゃんでも読み取れないのか。
ハッハッハ。確かに読み取れないと思うぞ。何せ何も考えていないからな」
「やはりそうであったか。
わらわの勘じゃが、国がもう少し落ち着いてくればブラウどのあたりからそういった話が出ると思うぞ。
わらわの勘と言ったが、これは常識じゃ」
「どうするかなー」
「はっきり言って、ゼンちゃん次第なんじゃがの」
「はあ?」
「なんでもないのじゃ。
はたから見ておる分には十分楽しいから、このまま1、2年放っておいても良かろうて」
「???」
アキナちゃんとよくわかんない話をしていたら子どもたちが起き出してきた。俺に朝のあいさつをしてから顔を洗ったりするため洗面所の方に駆けていった。その中にちゃんとエレギルもいた。溶け込んでくれているのはありがたい。
作者は物を壊すのが大好きなもので。




