第444話 調査2
港の兵隊の後について10分ほど歩いていくと、平屋のバラックの並んだ場所に着いた。兵隊たちの駐屯地のようだ。2本の門柱のようなものが立っていたが、扉はなかった。その2本の柱の間を抜けて駐屯地の中に入っていき、一人が分かれて小走りに少し大きなバラックに向かって走っていった。
「こっちだ」
残ったもう一人の兵隊に案内されて、俺は門柱から少し離れたバラックに案内された。
そのバラックの中に入る前からうめき声が聞こえ血の臭いがした。
バラックの中は大部屋で、10人ほどが血まみれの包帯を巻かれてベッドの上に寝ていたが、その10人は声を出すわけでもなく、身動き一つしていない。床には包帯を巻いた兵隊たちが座っていたり寝転がってうめいていた。
ひどいな。それでもみんな一通りの処置はされているようだ。
「薬を与えていっていいですか?」
「隊長の許可が出るまで、もう少し待ってくれ」
5分ほど何もすることなくバラックの戸口に立っていたら。先ほどかけていった兵隊ともう一人、おそらく隊長が駆けてきた。
「きみが薬の行商なのか、とにかく頼む」
「できるだけのことはしてみます」
あまり派手なことはできないので、リュックに入れているヒールポーションはバレンの冒険者ギルドや錬金術師ギルドに卸しているものと同等のヒールポーションだ。従って、欠損部位が元通りになることはない。
リュックを肩から降ろして中から50本入りの一箱を取り出した。
「傷の深そうな人から薬を与えていきます」
一番近くのベッドで寝ているケガ人の体をやや起こしてヒールポーションを口に突っ込んでやった。ケガ人の呼吸はかなり弱々しい。
最初のケガ人は目を閉じて苦しそうな顔をしていたが、ポーションが効いたのか顔つきが穏やかになり呼吸も回復し落ち着いてきた。
「効いてる。こんなに早く効果が」
隊長は驚いていた。
それから順に別途で寝ているケガ人の口にポーションを突っ込んでいったのだが、途中で俺を案内した兵隊がケガ人を抱えて起こしてくれたのでポーションを口に入れるのが捗った。10人ベッドに寝ていたのだが、残念なことに2名はすでに亡くなっていた。
「重症者については、こんなところです」
「ありがとう」
50本入りの箱を二つリュックから取り出して床に置き、
「手が使えるケガ人にはポーションを渡して自分で飲ませればいいでしょう。
ここに100本近くありますから、配ってください」
兵隊二人がポーションを持ってケガ人たちに配って歩いた。部屋の中にいたケガ人が全員ポーションを飲んだときには、うめき声は聞こえなくなり、代わりに「痛みがなくなった」「傷が消えた」などの声が聞こえ始めた。
「奇跡だ!」
そう隊長が呟く声がした。
「きみは本当に薬の行商人なのかね? わたしは今までこれほど効く薬は見たことがない」
「いちおう薬を作ってもいますので」
「その薬はきみが作ったものなのかね?」
「はい」
「もしかして、あなたは名だたる錬金術師では?」
「名はありませんが、いちおう錬金術師でもあります」
「なるほど。
そうだ、代金を払わなければ。
これほどの薬となると相当高額になるのだろうが、もしここに足りない場合は後日お支払いする。ということでよろしいか?」
「もちろんそれで構いません」
「それでいかほどになるのかな?」
「提供した薬は60本弱ですから、そうですねー」
マズい。この国のお金の単位を知らないんだが、どうすればいい? 別にタダでもいいんだがそうすると逆に怪しまれてしまう。そもそもこれだけの量の良く効く薬を持ち歩いているわけだから、いまさらか。ここは開き直った方がいいような気がしてきた。
「実はわたし。この国の者ではないんです」
「これほどのポーションを作れる者がわが国にいれば、名前くらいはこのレングストにいても聞こえてきているはずだものな」
「自分で錬金したポーションを売り歩いていたところ、気が付けばこの町を歩いていたんです」
「何と!」
「当てもなく歩いていたところ港にたどり着き、大勢の方がケガをしていると耳にして、こうしてここにうかがいました」
「ほう」
「ですので、この国のお金を持っていませんし、この国のお金の価値も全く分からないのです。
ということなので、1カ月、いえ、20日ほど宿に止まれる金額をいただければ結構です」
「たったそれだけでよろしいのか?」
「はい。それで十分です」
「あい分かった。この町で一番の宿屋はたしか一晩で銀貨2枚だったハズ。銀貨50枚を支払おう。わたしの部屋までついてきてくれたまえ」
隊長がバラックを出たので俺も後についていった。歩きながら、
「ところで、このケガをされた兵隊さんたちは何と戦ったんですか? 海賊とか耳に入ったんですが」
「昨夜海賊どもが襲ってきた。不思議な出来事が重なってなんとか撃退できたが、こちらも相当な被害が出てしまった。
今度襲われたら、かなり厳しいことになるが、都に使者を出しているので、4、5日中には応援が駆けつけてくるはずだ」
「海賊の本拠地とか分からないのですか?」
「うん? きみがそんなことを聞いてどうする?」
軍事情報を根掘り葉掘り聞くのはマズいか。そろそろ潮時か。
「少し興味があったもので」
「別に構わないがね。
港からだと島を右手に見て、ガレー船で2日ほどの場所に奴らの本拠地らしきものがある。
周囲は要害で陸から攻め込むことはまず不可能だ。
海から近づける水道の幅が狭く、軍船は一列でしか水道を通過できないうえ、通過しようとすると陸から袋叩きにあう。
どうにも手が出せぬのだ。しかも、最近勢力を拡大しているようで、とうとうこの町を襲ったわけだ」
隊長の個室に招き入れられ、開きの中から小袋を渡された。
「その中にちょうど銀貨が50枚入っている」
俺は受け取った小袋をそのまま手で持っていたリュックの中に入れた。
「枚数を確かめなくていいのかね?」
「信用してますから」
「そうかね。
ところで、まだ薬が残っているようだが、譲ってもらえないかね?」
「よろしいですよ。
あと40本くらいですが、どうぞ」
俺はリュックに入れていた箱を取り出して蓋を開けて中身を見せた。
「すまんが、それも銀貨50枚で買い取らせてもらおう」
そう言って隊長は開きから先ほどと同じに見える小袋を渡してくれた。小袋をリュックに入れて、
「ありがとうございます。
それでは失礼します」
「おかげで助かった」
俺は隊長の部屋を出て、そのまま駐屯地から出ていき、少し歩いたところでロイヤルアルバトロス号のブリッジに転移した。




