第436話 エレギル4
エレギルと話していたら時間が経っていた。
俺は今日の風呂もパスして、
「エレギル。俺は1、2分部屋を出ていくけど、あまりここから動かないようにな」
「はい」
エレギルをキャビンの居間に残した俺は、ロイヤルアルバトロス号の風呂場に歩いていき、風呂の準備をしてからアスカ3号に作ってもらった『子どもたち』メールリストにロイヤルアルバトロス号の風呂に入るようにメールしておいた。メールリスト便利だよな。
居間に戻って、
「待たせたな。
もう2時間もすれば夕食だが、エレギルだけをここに置いておくわけにはいかないから、うちの食堂でうちの連中と一緒に食べてもらうことになる。
俺とさっきまでいた華ちゃんの他に7人いる。そのうちの5人はエレギルと同じくらいの歳の女の子だ」
「はい」
そんなことを言っていたらちょうどアキナちゃんたちが着替えと風呂道具を持ってキャビンの居間の中に入ってきた。
「ちょうどやってきた。
いま5人の話をこの子、エレギルにしてたところだ」
「エレギルという名なのじゃな。よい名じゃ。
わらわは岩永アキナ。アキナちゃんでもアキナさまでも好きな方で呼んでよいぞ」
「はい。アキナさん」
「『さん』は選択肢に無かったのじゃが、まあよい」
「岩永エヴァです。エレギルちゃんよろしく」
「よろしく」
残りの3人もエレギルにあいさつした。
「せっかくだからエレギルも風呂に入った方が良いじゃろ?
わらわたちといっしょに風呂に入ろうではないか?」
「は、はい」
「ゼンちゃん、わらわの着替えがこの中に入っておるので風呂道具と一緒に一式丸ごとコピーしてくれると良いのじゃ」
「了解」
アキナちゃんから預かった風呂道具と着替えを一式丸ごとコピーして、片方をアキナちゃんに返して、残りをエレギルに渡した。
エレギルはそういうものだと思っているようで、何も言わずに受け取った。
「エレギル、わらわたちについてくるのじゃ。
その前にトイレの使い方を教えておくのじゃ」
さすがはアキナちゃん。よく気が付く。
アキナちゃんたちが居間から下に下りていき、30分ほどで戻ってきた。
「みんな、夕食まで適当にエレギルの面倒を見てやってくれ」
「任せてくれて大丈夫なのじゃ」
アキナちゃんを先頭に6人がぞろぞろと連絡小部屋の中に入っていった。子ども同士の裸の付き合いとでもいうのだろうか、エレギルは妙にうちの子たちに溶け込んでいた。
誰もいなくなったので俺はブリッジに上がり再度双眼鏡で周囲の海上を見回した。特に変わったところはないようだ。レーダーを見ると海に出ている船の数はだいぶ少なくなったように思う。
そろそろ屋敷に戻っていないと、夕食の準備ができたと探し回らせてはかわいそうなので屋敷の居間に跳んで戻った。
居間にはアキナちゃんとエレギルと華ちゃんがいて、3人でコタツに入っていた。もちろんアキナちゃんの髪もエレギルの髪も乾いていた。エレギルの髪はうちにいるみんなと同じくらいにすごく輝いていた。
「岩永さん、ご苦労さまでした。エレギルには簡単にゆらぎの説明はしています。
エレギルの町や国には果物島にあったような移動用のゆらぎはないそうです」
「ふーん、そうなんだ。華ちゃんありがとう」
「いえいえ」
「今日の夕飯は何だか知らないけれど、
エレギルは好き嫌いなくなんでも食べられるんだろ?」
「はい。好き嫌いはありません。小さいときは好き嫌いがあったんですが、父さんに怒られているうちに好き嫌いはなくなりました」
受け答えもちゃんとしているし、エレギルはやっぱりしつけがしっかりしたうちの子だったようだ。
エレギルはうちの子たち並みに美少女だし、ちゃんとしつけられた子は見た目以上に周りから好かれるよな。
「そういえば、エレギル」
「はい」
「エレギルは、ものすごく長い6角柱の話って聞いたことはないか?」
「ものすごく長い6角柱?
聞いたことないと思います」
それはそうか。
そんな話をしていたら、エヴァが食事の準備ができたと知らせにきた。
エレギルを連れて俺たちは台所に移動した。
今日の席順は、
エヴァ はるかさん 華ちゃん エレギル
リサ アキナちゃん
オリヴィア キリア イオナ 俺
という形になった。
各人の前にはトンカツにエビフライ。その皿にキャベツの千切りとレモンとトマト。それにカラシも乗せられている。あとは白みその味噌汁。味噌汁の具はネギと豆腐のようだ。主食は白いご飯。ご飯用にしば漬けが小皿に入れてあった。しば漬けは久しぶりだ。
他にテーブルの上に並んでいるのは、とんかつソースとウスターソース、それにフレンチドレッシングとクリームドレッシングがそれぞれテーブルの2カ所に置いてある。
俺たちは箸で食べるが、エレギルの前にはナイフとフォークとスプーンが置いてある。
「「いただきます」」
「エレギル。食事前には『いただきます』というのがこの屋敷の必ず守らなければならぬしきたりなのじゃ」
その説明に驚いたエレギルが慌てて、
「いただきます」
と言った。
「ハハハ。昔は食事できることを感謝する言葉だったようだが、今はみんなでこれから食事を始める合図だ。だからそんなに大したしきたりっていうほどのものじゃない」
「わたしたちも食事の前に『よき味を』といっています」
「ふーん。勝手に一人で食べ始められないから合図は必要だものな」
『よき味を』がただの合図なのか、もっと深い意味があるのかは分からないがそう言っておいた。
「俺たちは箸といってこの2本の棒を使って食べるけど、エレギルはナイフとフォークとスプーンで普通に食べればいいから。ところでフォークとかは使えるよな?」
「はい。大丈夫です」
「それで、食べ方なんだけど、みんなの食べ方を見てれば分かると思う」
「はい」
bon appetit:食事の前の言葉。フランス語だそうで「いただきます」に相当する言葉だそうで、直訳は「良い食欲」だそうです。英語には「いただきます」に相当する言葉はないそうで、フランス語のbon appetitで代用しているそうです。




