第435話 エレギル3、身の上2
101頭シャチちゃん大行進ができることになって少し元気が出た!
俺がにんまり笑っていたら、アキナちゃんが連絡小部屋から居間に現れた。
「おっ! そこに寝ておるのは誰じゃ?」
「この子は海の上を漂流してたんだ。助けたので今寝かせている」
「ほう。アスカ2号に陸地が見つかったと聞いて、トレードが一段落したのできてみたのじゃが、陸地には人が住んでおったのじゃな」
「ハリトという国があって、レングスト島のデオスという名の港町がこの子の住んでいた町らしい」
「ふーん。まあ、何であれ助かってよかったのじゃ」
「あっ、そうだ。渡すの忘れてたけど、アキナちゃんにこれを渡しておくよ」
俺はそう言って箱に入ったままの双眼鏡をアキナちゃんに渡した。
「何じゃ?」
「双眼鏡だ。箱の中に説明書とか電池が入っているからな」
「さっそく使ってみるのじゃ」
アキナちゃんが箱の中から発泡スチロールを取り出し、その中から双眼鏡を取り出した。
「わらわが思うておった双眼鏡と形は違うが、高性能なんじゃろうな。
電池をここに入れて。スイッチはここ。
良しできた! ブリッジで見張りをしてくるのじゃ」
そう言い残して、アキナちゃんは双眼鏡に付属したストラップを取り付け首にかけてタラップを上がっていった。
思った通りアキナちゃんは俺の投げたストライクボールは見逃さなかった。これで残りの4人も双眼鏡が欲しくなるだろうから、昼食が終わったら渡してやろう。
あと2、30分もすれば昼食の時間だろうが、エレギルをここに置いてはいけないし、どうしたものか?
「岩永さん。もうすぐ昼食の時間でしょうから岩永さんは食堂で昼食を食べてください。
わたしはここでこの子を見ています」
「じゃあ、何か食べるものを置いていこう。何を食べる?」
「そうですねー。わたしもうな重にしようかしら」
「了解。肝吸いも置いてく」
最初にトレイを小テーブルの上に出して、その上にうな重と肝吸いと割りばしを置いた。
「じゃあ、早めにいって華ちゃんの昼食の用意は不要と伝えておくから」
そう言って俺は屋敷に帰って、リサにその旨伝えておいた。そのあと、居間のコタツの上にエヴァたち用に双眼鏡を4つ置いておいた。
それから10分ほどで昼食になった。俺は急いで食べながら、女の子の漂流者を助けたことを伝えた後、子どもたちに双眼鏡を居間のコタツの上に置いてあると教えておいた。
俺が早食いで昼食を終わらせたせいか、双眼鏡を早く使いたかったのか、子どもたちも急いで食事を終えた。そうすると、はるかさんもリサもつられて急いで食事を終えた。デザートのプリンを食べて子どもたちは後片付けを始め、俺はロイヤルアルバトロス号に跳んだ。
「華ちゃんありがとう」
「食器は台所に持っていって簡単に洗っています」
どうせ素材ボックスに入れてしまえば資源として再利用できるのでそこまでする必要はなかったのだが、親しい中にも礼儀ありだから、
「ごくろうさん。
エレギルは俺が見ておくから華ちゃんは自分のことをやっててくれていいから」と、言っておいた。
「それじゃあ、お任せします」
そう言って華ちゃんは連絡小部屋に消えていった。
華ちゃんが片付けてくれたうな重関連の食器は、ここに置いていても仕方ないのですぐに回収しておいた。
エレギルは穏やかな顔をしてぐっすり寝ている。九死に一生どころか百死に一生を得たわけだから相当すごい運の持ち主なのだろう。
エレギルが目覚めたらある程度話をして、そうしたら夕食だろう。夕食を食べて暗くなったら陸地に送り届けるとしよう。
エレギルが寝ているあいだ、子どもたちが入れ替わりやってきた。みんな双眼鏡を首から下げていた。エレギルの寝顔を見た子どもたちは、決まってタラップを駆け上がりブリッジに上がっていった。
双眼鏡を喜んでくれて結構結構。
最初にここにやってきたエヴァに、夕食を一人分追加しておくようリサに伝えてくれと頼んでおいたので、エレギルは屋敷で食事することになる。
例え一度だけだとしても一緒に食事する以上、エレギルにうちの連中を紹介はしないといけないだろうな。
ぐっすり寝ていたエレギルだが、3時過ぎには目が覚めた。
華ちゃん、トイレの使い方教えたかな?
「エレギル、トイレは大丈夫か?」
「はい」
エレギルの今の返事に俺は心底安心してしまった。もしトイレに行きたいとか言われたら、救助隊を呼ばなくてはいけなかった。
「夜までやることもないし、しばらく話でもしておくか」
「はい」
「エレギルは今何歳なんだ? 答えたくなければ答えなくてもいいが?」
「わたしはいま51歳になります」
おいおいおいおい、見た目中学生なのに51歳なのか?
「そ、そうなのか。見た目から14、5歳かと思ってた」
「14、5歳だと本当に小さな子どもですよ」
待てよ。明暗からこの大空洞でも1日は24時間のようだが、空に太陽も月もないこの大空洞内で1年とか1カ月はどうやって決めるんだ?
「エレギル。ここの1年は何日だ?」
「100日です」
エレギルからすれば常識的なことを聞かれたわけだから怪訝な顔をしている。
なるほど。100日か。
「じゃあ1カ月は?」
「1カ月という言葉の意味はなんとなく分かりますが、月というものはありません」
だろうな。
51歳ということは5100日、300で割れば17歳。365で割るなら17歳の8掛けくらいだから14歳ってところか。見たまんまでよかった。
「俺のところだと、1年は365日だから、エレギルの見た目は若いのにすごく年寄りだと思ってびっくりしたんだ」
「海の向こうは1年が365日なんだ。世界は広いんですね」
エレギルは妙に納得していた。
「あと、一時間とかはあるのか?」
「はい。1日を12個に分けて1時から12時まであります」
なるほど。だいたい分かった。
「それで、エレギルのご両親は健在なのか?」
「はい。港の近くで仕立て屋をしています」
「ほう。大したものだな。
エレギル自身は何をしてるんだ?」
「両親の手伝いです。今回船に乗ったのも、都に布地を仕入れに行った帰りでした。
仕入れた布地は全部なくなりましたが」
子どもをそういった仕事につかせるというところを見ると、ハリトでは海賊は出るようだが町や都の治安はいいのだろう。
「そういえば、エレギルの着ていた服。今どうなっているか分からないが、その服そのまま着て帰っていいからな」
「本当ですか?」
「ああ。そのかわり、エレギルの着ていた服はこっちで適当に処分するけど大丈夫か?」
「もちろんです。
こんな素敵な服がもらえるんですから。この服を真似て服を作ればうちの店は大繁盛間違いなしです」
「ご両親と一緒に頑張ってくれ」
「はい!」
エレギルはそこで初めて嬉しそうに笑った。
どんどん儲けてくれよ。
町の名まえ等はアレから取りました。レングスト島だけは「最果て」という意味でそれとは別に付けています。




