第434話 エレギル2、身の上1
エレギルのお腹も落ち着いてきただろうから、そろそろ俺の方からも聞きたいことを聞いていこう。
「ところで、エレギル」
「はい」
エレギルが食べる手を止めたので、
「食べながらでいいから。追加が欲しければ言ってくれよ」
「はい」
「きみの住んでいる国?や町?のことを教えてくれるかい?」
「わたしの国はハリトといいます。わたしが住んでいたのは、レングスト島という島にあるディオスという港町です」
「デオスに住んでいる人の数はどれくらいかな?」
「3万人ほどだと聞いたことがあります」
ただの港町ではなく思ったより大きな街のようだ。
「ハリトには軍隊とかいるの?」
今度は華ちゃんがエレギルに聞いた。
「はい。大きな街には必ず駐屯しています。ディオスにも200人ほど駐屯しています」
「何に対しての軍隊なの?」
「ディオスの場合は海賊ですが、国境沿いの街に駐屯している軍隊は他国からの侵入に備えています」
オストランよりエレギルの国は物騒なのかもしれないな。
「この船でデオスに近づいて大丈夫かな?」
「うーん。この船オールで漕いでいるような船じゃないから、軍隊が調べに来るかもしれません」
日本だって不審船は見逃さないし、それが普通だよな。
しかし、せっかくだから上陸してみたい。夜陰に紛れて岸辺に接近して、そこから転移で上陸してみるか。いずれにせよ、目の前のエレギルを送り帰さなければいけないわけだし。
「エレギル、空を飛んでいた銀色のドラゴンはこの船の護衛なんだが、そのドラゴンをドラゴンってわかったところを見ると、ハリトにはドラゴンが棲んでいるのかい?」
「いえ、そういった怪物は想像の中だけです」
「なるほど」
やはり大空洞内にモンスターはいないのかもしれない。
「華ちゃん、この子をデオスに届けなくちゃいけないけれど、うかつにデオスに近づけないから夜の間に転送なり転移可能な距離まで陸地に近づいて、それで送り帰そう。
実際目で見ているわけじゃないから、200メートルくらいまで近づかないと安全に転移なり転送する場所が知覚できないからかなり近づくことになるな」
「しかたないですね」
「話は前後したけど、エレギルは船に乗ってたんだよな?」
「はい。本土からレングスト島に移動中、急な嵐と時化の中アロナックに襲われて、船は港に逃げ込む前にバラバラになって沈み、わたしは気を失って気づいたらお二人に助けられていました」
嵐と時化だけで船が壊れたんだと思うが、本人たちにとっては怪物に襲われたと思う方が自然なのかもしれない。しかし、あんな板の上に寝ていてよく海に放り出されなかったものだ。
いちおう確認のため、
「アロナックに襲われた時、きみはアロナックを自分の目で見たのかい?」
「見ていません。でも船員たちがアロナックが出たと叫んでいました」
海からの攻撃に対してはメタルゴーレムオルカがこの船を守っているから、怪獣アロナックがドラゴンなみのモンスターでなければ、万が一現れたとしてもこの船は大丈夫だろう。
「だいたいのことは分かった。
きみの家族も心配しているだろうから早めに送り届けてやりたいが、このままこの船で港に乗りつけるのはよした方が良さそうなので、暗くなってから送り届ける。それまで辛抱してくれ」
「いえ、ありがとうございます」
「あと他になにか食べたいものはないかい?」
「それじゃあ、この照り焼きチキンバーガーを」
モ〇の照り焼きチキンバーガーを作って渡してやった。コップの水もほとんどなくなっていたので、
「ジュースもあるからな」
「それじゃあ、このオレンジジュースを」
「了解」
オレンジジュースを新しいコップに入れて出してやり、水の入っていたコップは回収しておいた。
……。
「ふう。お腹いっぱいになりました」
「そいつは良かった。
エレギルは特に何もすることはないから、ソファーで休んでてくれ。寝っ転がってもいいからな」
「はい」
「岩永さん。わたしがエレギルを見てますから、席を外してもいいですよ」
「サンキュ。エレギルが横になるようなら毛布を掛けていた方がいいだろうから渡しておく」
俺はそう言って華ちゃんに毛布を渡し、それから船の周囲の様子を見てみようと居間を出てブリッジに上がっていった。
ブリッジに上がって双眼鏡を取り出してのぞいたところ、こっちに向かってきているような船はいないようだった。さすがに夜までロイヤルアルバトロス号を漂流させておくのはマズそうなので、錨を下ろしたいが、音響測深機のモニターを見ると水深が600メートルくらいあった。もちろん錨の長さはそんなに長くはないので釣り糸を垂らすようなものだ。
「RA号。船が移動しないように適当にスクリューを回して位置を保ってくれ」
「了解」
ブリッジから下りてキャビンの居間に下りたら、エレギルはソファーに横になって毛布を掛けて寝息を立てていた。
「横になったかと思ったらすぐに寝ちゃいました」
気絶して流されていたといってもそうとう疲れているだろうし、スタミナポーションだけでそういった疲れが簡単に治るものじゃないだろうしな。そういった意味では、高級なヒールポーションを与えればよかったかもしれない。
俺は夜まで何もすることはなくなってしまったのだが、だからといってここで大画面モニターのスイッチを入れて円盤を見るわけにもいかない。
俺は華ちゃんと横になったエレギルを挟んでソファーに腰を掛けて、なんとなく怪獣アロナックのことを考えていた。想像の産物なのだろうが、具体的な特徴くらい聞いておけばよかった。本当の意味での怪物でなくてもクジラなんかの可能性もあるし、本当の意味でのモンスターの可能性もゼロではない。
備えあれば患いなし。ということで手持無沙汰にかまけて、フィギュアゴーレムオルカを98頭作ってしまった。これで101頭シャチちゃん大行進ができる。いくら巨大なクジラでも101頭のシャチに襲われたら終わりだろう。
「岩永さん、黙って宙を見てるけどどうしたんですか?」
「いや、暇だったから、フィギュアゴーレムオルカを98頭作ってた。全部で101頭になる」
「またですか?」
華ちゃんはなぜか101匹シリーズに難色を示すな。
「数は力だっただろ?」
「確かに数の暴力は有効でしょうが、見てる人は引くんじゃないですか?」
「見てる人って限られるし」
「それはそうですけど。101頭のシャチに襲われたら、本当に巨大なモンスターでない限りそれこそ跡形もなくなりますよ」
「今となってはモンスターの素材を集める必要もないんだから、安全に敵を倒す方がいいと思うぞ」
「分かりました。それならそうしましょう」
おっと、華ちゃんのお墨付きが出た。アキナちゃんは元より101匹大好き女神さまだし、キリアは反対しないから、何に勝ったかは分からないがとりあえず勝ったな。




