第433話 漂流者2、エレギル1
華ちゃんが着替えの袋を片手に持って、救助した漂流者エレギルを連れてロイヤルアルバトロス号の風呂場に連れていった。
ロイヤルアルバトロス号は現在停止中なので潮の流れと風でわずかに流されているのだろうがまだ陸地は遠いので問題はないだろう。ロイヤルアルバトロス号なら、もし流されても危険なほど浅い場所には近づかないよう自分で判断くらいするだろう。
俺はテラスからブリッジに入って、航海用レーダーを見ると陸地の沿岸に何艘も船がゆっくり移動してることが分かった。船の大きさは、中に大きなものもあるが、大抵は小舟といった感じでかなり小さい。
これで多くの人間が大空洞内に住んでいることが分かった。そして、人間が本当の意味でダンジョン内で生きていけることも分かった。
視界という意味では陸地からそれほど遠くないのでメタルゴーレムドラゴンは回収していた方がいいと思い、船外スピーカーを使ってメタルゴーレムドラゴンに一匹ずつテラスに下りてくるよう指示した。
それからテラスに出てメタルゴーレムドラゴンの着地を待っていたらすぐに一匹目がテラスに下り立ったので、アイテムボックスに回収して、続いて下りてきた2匹目も回収しておいた。その後キャビンの居間に戻って華ちゃんたちを待った。
華ちゃんがエレギルを連れて戻ってきたら、エレギルにわれわれのことをある程度話してやり、エレギルたちがどういった生活をしているのか尋ねようと思う。エレギルを見た限りでは海賊には見えなかったし、前方の陸地も海賊の本拠地ということはないと思うが、用心は必要だ。
エレギルから話を聞いて、前方の陸地がどんなところなのかだいたいの見当がついてから、ロイヤルアルバトロス号で陸地に向かうか、陸地に向かったとして上陸するかどうか決めようと思う。
そうこうしていたら、華ちゃんがエレギルを連れてキャビンの居間に入ってきた。
髪の毛をとかして、少女用の衣服を着たエレギルはどこのお嬢さまかと見違えてしまった。
エレギルをソファーに座らせ、その両隣に俺と華ちゃんが座った。
「まず、ここは俺たちの船、ロイヤルアルバトロス号の中だ。先ほどきみが驚いていたドラゴンはこのロイヤルアルバトロス号を護衛していたんだ。陸地に近くなったので、今はしまっている」
「しまっている? ドラゴンを?」
「説明はややこしいので省略するが、その通りだ」
エレギルは黙って俺の話を聞いている。
「さっききみが壊した黒い板はスキルブックといって、壊すと中に封じ込められていたスキルが壊した本人のものになるというアイテムだ。で、きみが壊したスキルブックに入っていたスキルは俺たちの言葉のスキルだったってことだ。そういうわけできみは今まで聞いたことが一度もないような言葉を聞き取ることができるようになったし、話せるようになったわけだ。おそらく書くこともできると思う」
「そんな魔法のアイテムを持っているあなたは?」
ドラゴンを見てすぐドラゴンと判断できたようだし、前方の陸地の世界には魔法も普通に存在すると考えていいな。
「先ほども言ったが俺の名はゼンジロウ。フルネームはイワナガ・ゼンジロウ、イワナガが姓でゼンジロウが名まえだ。特に変わったところのない普通の人間だ」
少しは変わったところがあるかもしれないが、これも説明するとややこしくなるだけだしな。
「陸地が近くなってきたと先ほどおっしゃってましたが、ここは相当沖合のハズです。
ということは、お二人は外洋から?」
「そういえばそうだな。
いままで、他の船に出会うことはなかったけれど、ここいらじゃあまり沖まで船を出さないのかい?」
「はい。沖合に出ると、アロナックという怪物に襲われますから、誰もこんな沖まで船を出しません」
この大空洞でもZダンジョンの大空洞でも今までモンスターは見ていないが、海の中にモンスターがいるのか? メタルゴーレムオルカの数を確認していないが知らぬ間に減っているかもしれない。少し心配になってきた。
「怪物がいるかもしれないという今の話で少し心配になったから、メタルゴーレムオルカたちが健在か確かめてくる」
華ちゃんはもちろん俺の言葉を理解したろうが、エレギルは理解できないよな。まっ、いいけど。
俺はそう言ってブリッジに上がって船外スピーカーを使ってメタルゴーレムオルカたちに、ロイヤルアルバトロス号の船首辺りに集まって顔を出すように指示した。
俺はブリッジから船首に跳んでしばらくしたら、海面に3頭のメタルゴーレムオルカの頭が浮いていた。
「ご苦労。任務に戻って良し!」
3頭のメタルゴーレムオルカはすぐに海中に潜っていって見えなくなった。
普通のシャチなら息継ぎに海面に現れる必要があるが、息継ぎが必要ないメタルゴーレムオルカはいつまでも潜っていられるからなー。
船首から歩いてキャビンの居間に戻った俺は、
「メタルゴーレムオルカたちは3頭とも無事だった」
「やはり、海の中にモンスターはいなかったんでしょうか?」
「いたとしてもメタルゴーレムオルカに蹴散らされたか?」
「昨日のような嵐に遭うことを恐れて、外海にはモンスターがいると信じているのかもしれませんね。それに、空には星も太陽もないわけだから、一度陸から大きく離れて方向を見失えば帰ってこれなくなるでしょうし」
「確かにそうだな。
少し話がズレてしまったし、少し休憩しよう。
この子もお腹が空いてるだろうし、喉も乾いているだろうから何か飲み食いさせてそれからまた話を聞くか。
エレギルはお腹が空いているだろ?」
「は、はい」
「簡単で食べやすいとなると、ハンバーガーだな。
ここは、オーソドックスにチーズバーガーにしておくか。飲み物はジュース類しかないけど、水の方がいいか」
俺はチーズバーガーを一つ錬金工房で作ってエレギルに手渡した。
「その包みを開くと中に具の入ったパンが入っている。
包みから出さないで中身を食べればこぼさずに食べられるから」
その後、ソファーの前の小テーブルにトレイを置いて、その上に木製に見えるプラスチックのコップに水を入れて出してやった。
エレギルは俺の言った通り包みから半分ハンバーガーを取り出してかぶりついた。
「おいしい」
「エレギルの今食べているのが、ハンバーガーっていうものだ。種類が沢山あるんだけど、それはチーズバーガー。
それ一つじゃ足りないだろうから、食べながら、この中で食べたいものを選んでくれ」
そう言って、マ〇クのメニューとモ〇のメニューをエレギルに手渡した。
「すごい。きれいな紙に、本物みたいな絵が描いてある」
「書いてある説明は読めるだろ?」
「はい。ちゃんと読めます」
「セットメニューも出せるよ」
「はい。
このフライドポテト?をお願いします」
「了解。
フライドポテトはケチャップを付けて食べるとおいしいんだ」
俺はそう言って、フライドポテトLにケチャップの入った小さな容器を添えてエレギルに渡した。
ケチャップの容器の蓋は華ちゃんが開けてやった。
紙袋に入ったフライドポテトを手に持ったエレギルがそれをケチャップの容器に突っ込んで口に運んだ。
「おいしい。
あのう?」
「なに?」
「ずーと不思議なんですが、いろんなものが宙から湧き出しているように見えるんですが。それに食べ物ができたてみたいにあったかい」
「気にしないでくれればいいけど、俺はそういったことができると思ってくれ」
「は、はい。
海の向こうの普通の人間はみんなそういったことができるんですか?」
「みんなというわけではないかも。というか俺一人のような」
「そ、そうですよね。少し安心しました。あんな大きな声も出せる人も少ないですよね?」
「さっきのはスピーカーという道具を使ったんだ」
「そうだったんだ。軍隊の指揮官が持てば役立ちそうですね。この船には一体いくつ魔道具がおいてあるのかわかりませんが、さっきのお風呂も凄かったし、この居間もすごく変わっているし、天井の明かりも不思議だし、窓も不思議だし、黒くてつるつるした壁?はもっと不思議だし。海の向こうは魔道具だらけのすごい世界なんでしょうね」
「きみたちがどういった生活をしているのか知らないから俺から比較はできないが、そうかもしれない」
魔法がある世界で電気を知らなければ電化製品は魔道具だものな。
そろそろ、俺たちも質問しなければ。




