第430話 時化(しけ)
華ちゃんと『人間』と出会ったらどうするか? という話をした日の午後。
昼食を食べ終えた俺は、ロイヤルアルバトロス号のブリッジに立って、双眼鏡で周囲を眺めていた。
これまでずっと大空洞内では昼間の時間太陽はないけれど明るい青空が広がっていたのだが、前方から暗雲が近づき始め、14時頃にはすっかり空は雲で覆われ辺りはかなり暗くなった。Zダンジョンの大空洞でも、この大空洞でも天気が悪くなるのは初めてだ。
そのうち波も出てきたようで、ロイヤルアルバトロス号も波を突き切るたびに前後に揺れ、船首が波を切るたびに大きく波しぶきが上がり、振動が足元に伝わってくる。
ロイヤルアルバトロス号といえども強い衝撃を受け続けるとマズいような気がしたので、減速することにした。
「RA号、20ノットに減速」
「了解」
すぐにロイヤルアルバトロス号は20ノットにまで減速した。
そうやってしばらく航行していたらますます空が暗くなってきて、大粒の雨が前方の窓ガラスを打ち始めた。そしたら、正面の窓にだけ取り付けられたワイパーが勝手に動き始めた。しかし雨が激しすぎてほとんど用をなさなかった。
大丈夫かな?
こういった状況は初めての経験なので心配になってきた。俺一人なら何があってもどうとでもなるが、船内に誰かいた場合、船にもしものことがあっても俺の認識外だったら転送で助けられない。
俺のスキルからくる感覚では、今のところ船内には俺しかいないのだが、それが正確だという保証はもちろんない。
こういう時にこそ船内放送だ。
俺はマイクをとって、船内放送用のボタンを押し、
「海の状況が悪くなったので、船内に誰かいたら屋敷に戻っているように」
これを2回繰り返したが船内で人の気配はしなかった。これなら安心だ。
そろそろ、風呂に入る時間だが今日はパスだな。
俺はスマホを取り出して屋敷のみんなのメールアドレスに『海の状態が悪いのでRA号にいかないこと』。追加で子どもたちに『4時には屋敷の風呂にお湯を入れておくので、風呂に入ること』と、メールしておいた。
その後俺は屋敷の風呂場に跳んで湯舟に熱めのお湯を入れておき、すぐにロイヤルアルバトロス号のブリッジに戻った。
海は時間が経つにつれて時化といっていいほど荒れてきた。ロイヤルアルバトロス号も前後左右上下とかなりおおきく揺れる。
とはいえ、船体がきしむような音がするわけでもなく、船内から何かがひっくり返るような音がするわけでもないのでたぶん大丈夫なのだろう。実際俺も慣れてきたみたいで、何ともなくなってきた。
俺がブリッジにいたところで何がどうなるわけでもないが、船長の責務としてブリッジに立ち続けるのだ!
と、思ったが、立ってても何の意味もないので、やっぱり座席に座っていることにした。
嵐の中にいるためだろうが、外は本当に真っ暗になってきた。今のところ稲光は見えないのでそこは安心だ。この天気の中メタルゴーレムドラゴンは上空を舞っているのだろうから、少しかわいそうな気もしてきた。このところメタルゴーレムオルカを1頭も見ていないが、やっぱり生まれ変わってメタルゴーレムになるならメタルゴーレムオルカだよな。
そろそろ夕食の時間だと思っていたらアスカ2号がブリッジにやってきた。
「マスター、夕食はどうされますか?」
「こっちが心配だから、ここで適当に何か食べる。みんなには食べておくように伝えてくれるか?」
「マスター、わたしがここでロイヤルアルバトロス号の様子を見ていますので、マスターは食堂にお戻りください」
「もしこの船が沈んだら、お前は帰ってこられないだろう」
「マスター。このロイヤルアルバトロス号は、この程度の波や風で沈没することはありません」
「そうは言っても、何が起こるか分からないだろ?
船のことは放っておいていいから、アスカ2号、一緒に屋敷に帰ろう」
「分かりました」
アスカ2号と連れだって、ロイヤルアルバトロス号から連絡小部屋に戻った。
アスカ2号は『造船所に用がある』と言って、通路の方に入っていき、俺は玄関ホールに出て食堂に急いだ。
みんな食堂で俺を待っていてくれたので、簡単に詫びて、
「「いただきます」」
ロイヤルアルバトロス号の状況を話さないわけにはいかないので、
「ロイヤルアルバトロス号のことだが、かなり海が時化て、大雨も降っている。
揺れもひどい。
アスカ2号はその程度でロイヤルアルバトロス号がどうなることもないといっていたから、戻ってきた」
「万が一、ロイヤルアルバトロス号が沈んでしまったら、海の水がゆらぎを通ってあふれ出して、この屋敷も含めていたるところが浸水せんかの?」
「沈没すればあり得るな。さすがにコアがゆらぎを閉じると思うけどな」
「それはそうじゃろな」
「だけど少し心配だから、夕食が終わったらコアにゆらぎを閉じておくよう言ってくるよ」
「それなら安心なのじゃ」
「岩永さん、自分でブリッジに様子をわざわざ見に行かないでくださいね」
「船長の義務のような気もしていたんだけど、俺がいたところでどうなるわけでもないしな」
「それなら安心です」
他のみんなも華ちゃんの言葉にうなずいていた。
夕食が終われば見に行こうと思ったが行けなくなってしまった。みんなが心配してくれているようなのでおとなしくするしかない。
夕食が終わり、華ちゃんたち用に風呂のお湯を替えてやり、それからアスカ2号のいるはずの造船所に行ってアスカ2号にロイヤルアルバトロス号に延ばしたLANケーブルを外してくるように言いつけておいた。3分ほどで作業完了したとアスカ2号が戻ってきたので、俺はアスカ2号に礼を言ってコアルームに跳んだ。
「コア、ロイヤルアルバトロス号に作った揺らぎを閉じてくれるか? 向こうは今大時化でもしもロイヤルアルバトロス号が沈んだら海水が入ってくるからな」
「了解しました。開ける時は教えてください」
「分かった。それじゃあ」
今日の俺の仕事は終わってしまった。ロイヤルアルバトロス号のことは気にはなるが何もできないので、ふて寝ではないが早くから寝てしまった。




