第429話 『人間』
ここより、エレギル編になります。
アキナちゃんがブリッジに現れて、しばらくしてキリアがやってきた。また何か言われるのかと思っていたら、昼食の準備ができたと呼びに来てくれたようだった。
キリアを連れて屋敷の玄関ホールに跳んでそこから食堂に入ると、俺と呼びに来てくれたキリア以外みんな揃っていた。
「「いただきます」」
昼食をとりながら、これからのコアを求めての探索はロイヤルアルバトロス号を勝手にコア方向に向けて走らせて、陸地が見えたら立ち寄ることにするとみんなに告げておいた。
「とはいっても、時速50キロとしても24時間走れば1200キロ進むから、いくら何でも明日の朝方までには陸地にたどり着くんじゃないかな」
その日、頼んでいたコミック第1陣が到着したとアスカ3号が教えてくれた。俺の指示した通り造船所やアスカ2号の倉庫兼作業場の並んだ通路に新しい部屋を作ってそこに段ボールのまま置いているそうだ。将来の大図書館の蔵書なので、このまま蔵書が増えていくのを待つことにしよう。
翌日。
朝の支度を終えた俺は、朝食前にロイヤルアルバトロス号のブリッジに跳んだ。
ブリッジから窓越しに前を見ても、右を見ても左を見ても陸地など見えなかった。
朝食後、華ちゃんに頼んでピョンちゃんをブリッジに連れてきてもらい、ダンジョン・コアの方向とロイヤルアルバトロス号の進んでいる方向を比べたが、ロイヤルアルバトロス号はコアの方向に進んでいた。
そのあと、ブリッジの座席に華ちゃんと二人で並んで座ったのは昨日と同じだ。
「この階層に下りてきた階段から1500キロは進んでいるはずだから、Zダンジョンの大空洞より相当広いということだけは分かったな」
「あのダンジョンは直径が700キロ。
ロイヤルアルバトロス号がこの大空洞の中心に向かっているなら、最低でも直径3000キロってことですものね。
岩永さんの勘が当たったわけだけど、本当に桁違いに広い可能性が出てきましたね。それこそ直径が1万キロとか」
「まさか1万キロはないと思うけれど、3000キロでも十分地球平面説だものな。
これだけ広大だと6角棒の10キロ程度の長さでは大したことない気もするよ」
「アレって本当に何だったんでしょうか?」
「コアを見つけることができれば最初に尋ねたい疑問だな。いや最初はここの広さか」
「ですね」
「6角棒の他には、果物島の住民がどうなったのか?」
「それもありましたね」
「コアにたどり着く前にどこかの島を見つけて出会うかもしれないけどな。
あの島の住民は壁のある建物に住んでいたわけだから人間に近い感覚や考え方をしていたと考えられるけど、おれたちと同じ人とは限らないぞ。
このダンジョンがどれくらい古いのか分からないけれど、それこそ爬虫類が進化して人型になっているかもしれないし。
Zダンジョンの大空洞を開放するのは、巨大隕石が地球に落っこちてくる時でいいとか以前話したじゃないか。それこそ今の人間並みに進化したニューワールドの爬虫類が、巨大隕石の衝突による大災害から避難するために地表からこの大空洞に避難したかもしれないし」
「なんだか、ロマンがありますね」
そういえば昨日の華ちゃんもロマンがどうとか言っていたような。
あの時俺は何を答えたか忘れてしまったが、ここは慎重に言葉を選んだ方が良さそうだ。とはいえ、俺がうかつに言葉を選ぶと逆に大災害が発生する可能性もある。となれば、ここは迎合一択だ。
「華ちゃんの言う通り、ロマンだよな」
これでどうだ?
「あれ? 岩永さんでもロマンを感じましたか?」
なんだよ。俺はどう答えればよかったんだよ?
それでも、華ちゃんは昨日とちがってそのまま俺の隣に座っていた。迎合作戦は正解だったようだ。
「しかし、恐竜から進化した人型だと、爬虫類から進化したと言われている鳥と一緒で、ダチョウみたいに膝が前じゃなくって後ろを向いてるんじゃないか?
それって、すごく奇妙だぞ」
「やっぱり岩永さんで安心しました。
確かに、膝が反対に曲がっていたら、ものすごく痛そうですものね」
「華ちゃんもそう思うだろ?」
「フフフ、ハハハ。想像したらすごくおかしくなっちゃいました。
でもここはダンジョンの中だから、人間っぽくなってるんじゃないですか。だってそうじゃないと、言語のスキルブックがあったとして意思の疎通がかなり難しくなりますよ」
「爬虫類から進化した爬虫類人語のスキルブックがあれば意思の疎通はできるんじゃないか?」
「相手に失礼だけど、笑ってしまってまともに会話なんかできないような」
「俺ならそんなことはないと思うけど、華ちゃんが隣で笑いだしたら、俺も釣られて笑ってしまうかもな。
でも、そっち方向の心配より、相手が好戦的だったらマズいよな。まだ遭ってもいないのに心配しても仕方ないけど」
「そうですね。
もし、これから遭うかもしれないそういった『人間』が好戦的で攻撃してきたらどうします?」
「相手がモンスターなら当然斃すけど、俺たちが他人のテリトリーに侵入してのことだろうから退散するしかないだろうな。
コアの前方に立ちふさがっているようなら、迂回して抜けるしかない」
「安心しました」
「でも、俺たち一心同体じゃなくてもうちの連中に危害が及ぶようなら反撃するな」
「やっぱり」
「そうはいっても、まず第一は逃げ出すことが前提だけどな」
「そうですね」
……。
華ちゃんといわゆる人型の知性のある生き物と遭遇した場合どうするか話していたら、アキナちゃんがブリッジに上がってきた。
「おっと、お邪魔のようじゃったな。
わらわは別に用事はなかったのじゃ。退散なのじゃ」
アキナちゃんは訳の分からない事を言ってタラップを下りていった。
「アキナちゃん、何言ってたんだろうな? 昨日も訳の分からないこと言ってたし」
「さ、さあ?
それじゃあ、わたしはピョンちゃんを連れて屋敷の方に戻りますね」
「ああ、華ちゃんありがとう」
華ちゃんも帰ったことだし、俺は双眼鏡を取り出して、船長らしくブリッジから海を眺めたのだが、陸地はどこにも見えなかった。そういえば子どもたちに双眼鏡を渡すのを忘れていたな。あと、オストラン軍の指揮官辺りに渡してもいいかもな。そっちは電池不使用なものにしておく方が無難か。




