第418話 今日のわざをなし終えて……。
結局、俺たちは黒い6角柱の発掘を諦めて周辺を大きく掘った穴を埋め戻した。
6角柱は元の位置まで沈まなかったのか、地面から50センチほど頭を出している。デデクトアノマリーの点滅も消えており、座るのにちょうどいい高さだったので、今はみんな6角柱の上に外向きに腰を掛けている。
「骨折り損のくたびれ儲けだったな」
「ゼンちゃん、そのうち何かの役に立つやも知れぬぞ」と、俺と背中合わせの位置に座っているアキナちゃんが言った。
「そうかな?」
「世の中のものは全て繋がっておる。一見無駄なことでも巡り巡って何かの役に立つものなのじゃ」
「それを期待しておくか。俺の場合近い将来すっかり忘れると思うがその時になればさすがの俺も思い出すだろうしな。
今日はほとんどスカだったけどそろそろ屋敷に帰るか?」
「「はい」」「わらわはロイヤルアルバトロス号の風呂に入って見たいのじゃがどうじゃろ?」
「いいんじゃないか? 今日はみんなでそうするか?」
「「賛成!」」
「じゃあ、そろそろ屋敷に戻るとするか。みんなを送ったら、最初に俺が風呂に入ってそこからはいつも通りということでいこう」
「「はい」」
みんなが手を取ってくれたところで、屋敷の玄関ホールに跳び、俺は面倒なのでそのままロイヤルアルバトロス号の脱衣室の前に跳んだ。
そこで防具を脱いで収納し、その下のものも全部収納して裸になって風呂に入った。窓が大きく取ってあるので海の景色が良く見える。窓ガラスはかなり濃いスモークガラスだし位置関係から少なくとも船上から浴室内は全く見えない。
湯舟も含め浴室内はピカピカに磨かれていた。さすがはお掃除ゴーレム。暇に任せて使ってもいない湯舟まできれいに掃除してくれているようだ。24時間掃除していたら掃除道具がダメになってしまうだろうから、たまに確認してやらないとマズそうだ。俺もこれからなるべく注意するが、そこらへんはアスカ2号なりが見てくれているから抜けはないと思う。
湯舟はもちろん給湯できるのだが、面倒なのでいつものように適温のお湯を湯舟に入れてやった。風呂場も広いが湯舟も10人くらい人が入れるくらい広い。船内の風呂なのだが浴室の床も湯舟にもタイルが貼ってある。滑り止めなのだろう。風呂場で足が滑れば大ごとになるからな。
肩まで浸かってしばらく海を眺めていたら、いいことを思いついてしまった。風呂のお湯として海水を使ったらどうだろうか? 何だか気持ちよさそうな気がする。熱海では温泉の泉質の説明は風呂場に貼ってあったような無かったような。読んでいたとしてもどうせ全く覚えていないのでいずれにせよ泉質は不明のまま。
何であれ、海水が体に悪いこともないだろうし、温めた海水で俺の体がどうなるわけでもないだろう。それに俺が出た後ちゃんとした真水のお湯に張り替えておけばいいわけだから、やってみるか。
ということで、湯舟から上がった俺は湯舟の湯をアイテムボックスに収納し、あらためて適温に温めた海水を湯舟に入れてやった。湯舟に浸かってお湯のかかった指を舐めてみたら相当塩辛かった。
さっきと同じ温度なのだがさっきより体の芯から温まって来たような気がする。額にも汗が少し噴き出てきたような。気分だけかも知れないがリフレッシュしたような。そうでもないような。
俺はその後湯舟から上がって体と頭を洗って再度湯舟に浸かって、窓から水平線を見ながら100まで数えて風呂から上がった。
最後に真水で海水を洗わないとややこしくなりそうなので、シャワーで海水を洗い流して、その後湯舟から海水を回収して普通のお湯に張り替えておいた。
脱衣室で新しい服を着て、そのまま屋敷の居間に跳んだ。
そうしたら、子どもたちが全員着替えなどを持って揃っていた。
「おっと、みんな風呂に入ろうと待ってたのか。
なかなか新しい風呂は良かったぞ。
じゃあ、みんなタラップで転ばないように気を付けていってこい」
「「はーい」」
5人が一斉に駆けて居間から出ていった。
居間には華ちゃんもはるかさんもいたので、風呂の宣伝をしておいた。
「海の景色もいいし、お風呂は最高でした」
海水温浴のことは話さなかった。
「明るいうちに入った方がいいから、今日は食事を後にしてもいいな。
ちょっと、リサにも言ってこよう」
俺は台所に行って、リサに明るいうちに風呂に入ってそれから夕食にしようといっておいた。
「作りかけのものとか大丈夫かな?」
「メインはまだ手をかけていませんし焼くだけなので時間はかかりません。他のものは盛り付けるだけですからだいじょうぶです」
大したものだな。
待てよ。今子どもたちが5人で入っているが、あと3人入っても問題ないんじゃないか?
「リサ、船のお風呂は大きいから子どもたちと一緒に入っても大丈夫のはずだ。今から華ちゃんたちと入ってくればいい。華ちゃんたちは居間にいるから」
「はい。そうします」
台所の中を見ると今日のメインはステーキのようだった。いつものステーキに比べ厚さも大きさも大きい。うん? この赤身、もしかしてダンジョン牛の赤身ではないか? 値段も張るだろうがそんなことよりもアレは簡単には手に入らないと思うが?
リサが台所を離れてから40分ほどでみんな風呂から上がってきた。
それから20分ほどで夕食の時間になった。
テーブルの上には例のステーキは平皿の上に付け合わせのポテトとブロッコリーと一緒に乗っていた。味付けは見た感じ塩と胡椒と溶けたバターだけのようだ。ステーキの他にコーンスープとトマトスライス。それにタラコの入ったスパゲッティ。スパゲッティはサラダ風の冷製だった。もちろんパンも付いている。飲み物は冷えた水か炭酸水だ。
「「いただきます」」
「ダンジョンバッファローが手に入ったので、ステーキにしてみました。ダンジョン牛の赤身によく似ていますが少しダンジョンバッファローの方が硬いかもしれません。ステーキ用に熟成させていますからそれほど差はないと思います」
テーブルナイフで簡単に切れていく。一口大に切ってフォークで突き刺して口の中に。おおっ! これも、うまかー!
厚みのある肉の中はまだ赤いのだがちゃんと熱は通っている。9人分揃えて作るのは並大抵のスキルではないはず。
みんなは最初周りと話をしながらナイフを動かしていたのだが、真剣な顔をしてナイフを動かし始めた。
コーンスープをスプーンですくって一口飲んで、それからタラコのスパゲッティ。これもそれも、うまかー!
みんな真剣な顔をしてナイフを動かしていたはずだが、みんな俺の動きと同じようにスープをスプーンですくって、フォークに持ち替えてタラコのスパゲティーを口に運んでいる。これも家族の一つの完成形ではなかろうか?
などと馬鹿なことを考えてしまった。
ドヴォルザーク 交響曲第9番新世界より第2楽章(家路)
https://www.youtube.com/watch?v=AScd-0uvz9o




