第408話 その夜
その日の夕食後のデザートは島パイナップルをリサに出してもらうことにした。その前に毒見は必要だ。
風呂から出た俺は、台所の隅を借り、毒見のため島パイナップルの青い葉っぱの元を包丁で輪切りにしてやった。島パイナップルはアイテムボックスから取り出して手に持っただけでもいい匂いがしていたのだが、包丁を入れたら強烈な甘い香りが台所に広がった。
ヒールポーションを片手に毒見をしたところ、かなり酸味が強いものの、その酸味を超えた甘さが口いっぱいに広がった。ジュースでそのまま飲むにはちょっと濃すぎるほどだが、炭酸水で薄めたら最高の飲み物になりそうだ。
もう一口食べようと思ったのだが、リサの目が気になったのでその一口だけで止めて、
「リサ。これは島パイナップルというんだけど、これも昼食べたバナナと一緒に今日見つけた島に生ってたんだ。今日の夕食後のデザートに出してくれるか」
そう言ってもう4つ島パイナップルを置いて俺は台所から退散した。
毒見を終えた俺は感心なことにシステム手帳を確認し、アスカ3号を見つけて船長用双眼鏡をネットで購入するよう頼んでおいた。はたして船長用双眼鏡なるものが市販されているのかは不明だが、アスカ3号なら俺をうならせるような船長用双眼鏡を購入してくれるだろう。
居間のコタツに入ってぼーとしていたら、子どもたちが風呂から上がってきた。華ちゃんに頭を乾かしてもらったら夕食の手伝いに駆けていった。日常だなー。
すぐに夕食の準備が整い、エヴァが呼びに来た。
「「いただきます」」
夕食を食べながら、今日の午後からの探検の話をみんなにしておいた。
「丘に登って島の全景を眺めたんだが、全景は見渡せなかった。
もう聞いたかもしれないけど、もう少しロイヤルアルバトロス号を島沿いに進めるとその先に島の湾が広がっていて、その湾の奥に廃墟の街が広がっていたんだ。
廃墟の街はそこだけじゃなくって何個所か見えた。
あの島にはもう人は住んでいないようだったけど、ダンジョンの中で人が住んでいたことになる。
もちろん今のところ人と思っているだけで、人ではない知性動物が住んでいた可能性がないわけじゃない」
「類人猿ですか?」と、はるかさん。
「猿に似ているかどうかも分かりませんけどね。でも廃墟はどれもちゃんとした石組の立派なものだったし、陶器の破片なんかも落ちていたところを見ると人じゃないにしても人に相当近い生き物なんじゃないかな。
コアの探索を続けていくとそのうち原住民に出会うかもしれません」
「あり得ますよね」と、華ちゃん。
「そのとき、意思疎通ができればいいが、できない可能性もある。というかおそらく意思疎通はできないだろうな」
「岩永さん、Zダンジョンのコアに頼んで原住民の言語のスキルブックって作れないかな?」
「聞いてはみるけど、よそのダンジョンのことだから無理のような気もする。Zダンジョンのコアじゃフィギュア化できないし」
そんな話をして夕食は終わり、デザートタイムになった。
リサが台所に引っ込んで、甘い香りの漂うワゴンを押して食堂に帰ってきた。
ワゴンの上には、縦に8分の1にしたパイナップルが乗っかった小皿が並べられていた。
デザートフォークが添えられて各人の前にパイナップルが乗っかった小皿が置かれる。
パイナップルの縦長の実にはちゃんと切れ目が入っているのでフォークだけで食べられる。
「「あまーい」」「おいしい」「わらわの思った通り、甘くておいしいのじゃ」
夕食の後片付けが終わって華ちゃんたちが風呂に入り、俺はロイヤルアルバトロス号の様子を見に行ってみた。
夜の大空洞は初めてなのだが、ちゃんと辺りは暗くなっていた。ブリッジから後方のテラスに出て空を見上げたら、当然星は一つも見えなかったが、真っ暗というわけでもなく何となくわずかに紺色がかった空が広がっていた。
ブリッジに戻って少ししたら、アスカ2号が現れた。
「どうした?」
「造船所にいつ帰れるか分かりませんのでここで椅子をボルトで仮付けします」
「たしかに。人が中にいると収納できないから簡単に造船所に入れることができなくなったけれども、船内の簡単な改修ぐらいなら、造船所の中に水を張ってしまえば転送しても衝撃はほとんどないだろうし、船内にバラスト用の水を入れていたままでもいいから、そうしないか?」
「そうですね。わたしは造船所の改造をコアに頼んできます。
マスターはしばらくここでお待ちください」
アスカ2号は錨の巻き上げをRA号に指示してブリッジから出ていった。
2分ほどかかって巻き上げが終わったらしくモニターの下のパイロットランプが緑に変った。
それから10分くらいして、アスカ2号が造船所の改造が完了したと知らせにきた。ロイヤルアルバトロス号を転送させるにしても転送先を一度も見ていないのでは正確には転送できないので、アスカ2号を連れて連絡通路を通り造船所に入ると、造船所の真ん中に長四角の池ができていた。池の内側の周りには厚手のゴムのようなものが巡らされていた。これなら船体が傷つくことはない。
転送先を確認した俺は、再度ロイヤルアルバトロス号に戻り、テラスから空に向かって大声でドラゴンたちに戻ってくるように声を出してやった。主従関係で絆ができているのか分からないが、2匹はちゃんと帰ってきた。2匹同時に着船させるとさすがにテラスが狭いしデッキが抜けてしまうとマズいので一匹ずつ着船させてフィギュアに戻して回収しておいた。改修ついでにテラス部分を強化して、ドラゴンのフライトデッキ化してしまうのも手だな。
問題はメタルゴーレムオルカたちだ。
うかつにフィギュアに戻してしまうと海の底に沈んで回収不能になってしまう。いくらでもコピーができるとはいえそれでは忍びない。
とりあえず俺は下に下りて船首までいき、3頭のメタルゴーレムオルカたちを呼んでみた。
そうしたら、ちゃんと3頭にも絆が繋がっていたようで、船首の近くに頭を出した。
別にフィギュアに戻さなくてもゴーレムなのでアイテムボックスに収納できることを思い出したので、俺は3頭まとめてアイテムボックスに収納してやった。
次はこのロイヤルアルバトロス号の転送だ。俺自身が乗ったままで転送した瞬間俺が転移すれば何とかなりそうな気もしたが、そこまで冒険する必要はない。なので俺は果物島の岸まで跳んで、ロイヤルアルバトロス号を造船所の池の上に転送してやった。
その後俺も造船所に跳んでいった。
「マスター、ありがとうございます。
ブリッジの椅子と、音声で命令に対する返事をするよう改造しておきます」
返事の件はすっかり忘れていた。アスカたちの優秀さをまたまた実感させられてしまった。
「あと、ブリッジの後ろのテラスだけど、メタルゴーレムドラゴンの着船に安心して耐えられるよう強化しておいてくれないか?」
「了解しました。重量が増す上、重心が若干ですが上がるので、バラストの容量を増加して調整しておきます。最高速度は若干下がると思いますが誤差の範囲でおさまると思います」
「分かった。よろしく頼む」
「はい」




