第406話 果物島探検1
砂浜の途切れたあたりに南国風の植物が見えた。どう見ても緑のバナナの実をつけた大きな葉っぱの木、ヤシの木っぽい背の高い木。その木よりもさらに黄色い実を何個も付けた樹高のある木が何本も生えていた。
「忘れていましたが、ディテクトライフ、ディテクトトラップ」
アキナちゃんを除く俺たち3人がいつも通り緑に輝いたが、それだけだった。
モンスターだか動物だか分からないがそういったものは少なくともこの近辺にはいないようだ。
「気温も少し高いようだし、行ったことはないが、南洋の島みたいだな」
気温は高めだが湿度はそれほど高くないようで汗をかくというほどではない。もう少し気温が高ければ今の俺たちの装備では汗をかくと思う。
「生っている果物が美味しそうに見えるのじゃ」
「あの大きなイガイガの実は、ドリアンそっくりです」
「ドリアンって食べたことはないけど、かなり臭うようだから放っておこう。
バナナはまだ青いけど、すぐに熟れるから何房か採っておくとしよう。アイテムボックスから少しずつ出して熟れさせれば、おいしくなると思うぞ」
「岩永さん、売っているバナナは品種改良を重ねた結果おいしくなったそうで野生のバナナはおいしくないんじゃないですか?」
「楽園イチゴのこともあるから、逆に結構うまいかもしれないぞ。
というか、華ちゃん。そこらの果物を試しに鑑定してくれ」
「えーと、
まず、バナナ。鑑定!
島バナナだそうです」
「相変わらず、まんまだな」
「次はヤシの実」
「島ヤシと思うぞ」
「島ヤシでした」
「やっぱり。このダンジョンのコアは命名には気を使わない性分なんだろ」
「あとは、島ドリアン、島マンゴー、島パパイヤ、それに島パイナップルでした」
「見た目通りだからいいんじゃないか。
試しに島バナナで、ちょっとだけ黄色いのが見えるからそいつを一本食べてみる」
バナナの木には房が上向きに重なり合うように垂れ下がっているのだが、その中で少し黄色がかったバナナを一本手元に転送して、皮をむいた。皮をむいたととたんにいい香りが漂ってきた。左手にヒールポーションを持ってバナナを食べようとしたら、アキナちゃんが、
「ゼンちゃん、バナナを食べて倒れたらわらわが口移しでヒールポーションを飲ましてやるからその瓶を貸すのじゃ。ヒャッヒャッヒャ」
なぜか華ちゃんを見ながらニヤニヤ笑うアキナちゃんに素直にヒールポーションの瓶を渡しておいた。最悪腹が痛くなるかもしれないが、すぐではないだろうし、倒れることなどそもそもないだろう。もしそれ以上の毒だったら華ちゃんのデテクトアノマリーに引っかかっているはずだものな。
この香りで毒だったら反則だろ。
バナナを一かじりしたところ、わずかに実はねっとりして、口いっぱいに甘い香りと味が広がった。これが完熟したらとんでもなくおいしいバナナになるぞ。もちろん俺は食べた後何ともなかった。
「おいしい。今までに食べたことがないほどおいしいバナナだ。
みんなも食べた方がいいぞ」
俺はそう言って、重なり合った房のうち一番下で比較的黄色の多い房を手元に転移させた。
20本ほどのバナナが房に付いているのだが一本一本のバナナが太くておいしそうだ。
アキナちゃん、キリア、華ちゃんの順に房からバナナをもぎ取って皮をむいて一口。
「おいしいのじゃー」「ほんとにおいしい」「おいしい」
俺はバナナの木から房の連なりを4つほど収納しておいた。バナナにすれば1000本はありそうだ。とんでもない量だが、そういったバナナの木がまだまだたくさんあった。
俺はバナナを食べながら目についた島フルーツを採集していった。バナナ以外の果物についても試食は必要だが当分うちのデザートは島フルーツになりそうだ。
ダンジョン産のフルーツなわけだからピョンちゃんも食べるだろう。
俺は隣のダンジョンのダンジョンマスターだが、このダンジョンの命名法に倣って安直にこの島を『果物島』と名づけた。
あまりに島バナナが美味しかったのでついつい食べ過ぎてしまった。昼食が食べられなくなるとマズいので各人3本までにして、房に残ったバナナはアイテムボックスにしまっておいた。3本でも多かったかもしれない。
「バナナはこれくらいにして、島の中を探検してみるか」
「「はい」」「もう一本くらいなら昼食に支障は出ないと思うのじゃが、仕方ないのう」
林の中に分け入っていくと、何かに踏み固められた道のようなものがあった。
「けものみち?」
「明らかに道だから、動物がいるんだろうな。
用心していこう」
「「はい」」
「お父さん、どうしてモンスターではなく動物なんですか?」
「モンスターだと、地面を踏み固めて道を作る代わりに、もう少しデタラメな動きをすると思うんだ」
「なるほど、さすがはお父さんです」
適当に思いついたことを口にしただけだったのに、キリアが尊敬の目を向けてくれた。これでモンスターが整然と道の上を歩いて出てきたら目も当てられないな。
俺たちはそのけもの道の上を歩いて林の奥の方に進んでいった。時々華ちゃんがデテクトなんちゃらをかけているが、変わったとことは今のところなにもない。
そうやって20分ほど道を進んでいったら林が開けて広場のような場所に出た。
広場の真ん中には崩れた白い建物。その周りには小ぶりな崩れた建物。
「ここは何かの廃墟?」と、華ちゃん。
屋根が落ちた白い石の建物の崩れた壁に緑のツタが絡みついている。割れた白い石畳の隙間からは緑の草が伸びている。
「そんな感じだな。
大きな建物が一つと、小さな建物は数軒みたいだから町という感じじゃないな。
道は向こうに続いているから、その先までいけば町があるかもしれない」
「いずれにせよ、人がいるってことですよね」
「そうだな。廃墟の見た目から言って、100年、200年じゃきかない感じだから、今どうなっているかは分からないけどな。とはいえ、何千年前の遺跡という感じでもないからここを作った連中がまだどこかにいるとは思うぞ。
とりあえずそこの大きな建物の中を調べたら何か分かるかもしれない。ちょっと中を見てみるか」
「「はい」」「何か目ぼしいものが中にあれば面白いんじゃがな」
俺たちは華ちゃんの警戒魔法のあと崩れた壁の脇を通って一番大きな廃墟の中に入っていった。
建物の床はタイル張りだったようだが、割れて小さくなり、下から草が伸びていた。木が生えているところもある。
地面と区別のつかないようになった廃墟の床には陶器の破片なんかも散らばっていた。アキナちゃんが言う目ぼしいものは今のところ見当たらない。
何度か崩れた壁の間を抜けて建物の奥の方に進んでいった先に、中庭のような場所に出た。
「ゆらぎ?」
それほど広くはなかったが、中庭の真ん中にはどう見てもダンジョンの入り口のゆらぎがあった。
第2階層の先にもゆらぎがあり日本のダンジョンにつながっていたが、ダンジョンの中にゆらぎがあるということは、どこか別のダンジョンにつながっている可能性がある。もっと言えば、別の世界につながっているのかもしれない。
「入ってみるか?」
「止めておきませんか?」
「その先を探索しないにしてもどこにつながっているくらいは知っておいた方がいいんじゃないか? もしここからモンスターなり現れたら厄介だし」
そう言いながら俺はアイテムボックスの中から如意棒を取り出した。
「いきなりとんでもないところにつながっていたら大変ですから、ゆらぎの先にはメタル大蜘蛛を先行させませんか?」
「それもそうだな。
出でよ、メタル大蜘蛛」
アイテムボックスから取り出したフィギュア大蜘蛛を地面の上に投げ出して、メタル大蜘蛛に戻し、
「メタル大蜘蛛、揺らぎを通って10メートルほど進んで戻ってこい」
一度足を伸ばして体を上下させたメタル大蜘蛛がゆらぎに向けて駆けていった。




