第405話 陸地
RA号はピョンちゃんの向いた方向、コアがあると思われる方向を目指して出発した。
現在RA号は30ノット、時速にして55キロで進んでいる。ブリッジから後ろのテラスに出て出発地点を見たがまだ陸地がかすかに霞んで見えていた。もう1時間近く航行しているので50キロは進んでいることになる。それでも陸地が見えているということは、この大空洞は地球のような球面ではなく平面と考えていいだろう。わざわざ球面にする理由もないだろうし。
船首が作る白い波が後方に広がっていくのをテラスの上から眺めているのだが、明るい青空の下にもかかわらず太陽がないせいかしぶきがきらめくことはない。微妙な違いがあるものだと感心した。そういうことなので、この大空洞で雨が降るようなことがあっても虹は出ないのだろう。
テラスからブリッジに戻ったところ華ちゃんはいなかったが、ピョンちゃんは舵輪から下りてカゴの中の楽園イチゴを食べていた。窓越しに前方を見ると、はるかかなたに陸地が見えた。望遠鏡か双眼鏡があればよかった。こんど注文しておこう。メモメモ。
後方の陸地との距離感から考えると、前方の陸地近くにRA号が到達するにはあと1時間はかかりそうだ。放っておいても陸地に近づいたらRA号は停船するのだろうが念のため、
「RA号、前方に陸地が見えてきた。危険のない範囲で近づいて停船してくれ。停船したら錨を下ろして完全に停船してくれ」
正面のモニターに『了解』の文字が表示された。
これで安心だ。
この水面は海だと思ったが、塩湖だったのか? それでも幅が100キロもあれば十分大きな湖だ。左右全く陸地が見えないので湖なら前後方向に短い楕円形のような形なのだろう。
前方に見える陸地の左右に陸地が続いているようにはここからでは見えないので、島である可能性も十分あるというか可能性は高い。そうなるとやはりちゃんとした海と考えていいだろう。
俺はブリッジから下に下りてキャビンの居間のソファーの長椅子の上に寝っ転がって「海は広いな大きいなー、……」とか歌っていたら、キャビンの居間の脇に作られたゆらぎを隠すための小部屋からアスカ2号が段ボール箱を2つ抱えて出てきた。
「その箱は何だ?」
「アキナさんが注文していた書籍が届いたので運んでいます」
「ご苦労さん」
注文してから到着が早いな。
そうこうしていたら、今度はアスカ3号が現れた。
「アスカ3号、どうした?」
「ワイファイ機器が届きましたので、設置にきました」
アスカたちは本当に動きがいいな。まるで疲れを知らないお時婆さんのようだ。
こうなってくるとダンジョン探索とは名ばかりになってしまった。そもそもみんな普段着だし。
まっ、いいか。
しばらくそうやって天井を見ながら『シクラメンのかほり』とか知ってる歌を鼻歌で歌っていたら、アキナちゃんがやってきた。
俺も一国の王さまだし、あんまりみっともない格好をしているわけにもいかないので、起き上がってソファーに座り直した。
「船長さんは、気持ちよさそうじゃの」
「まあな。陸地が見えてきた。
コア探索から外れるが、上陸して様子を見てみよう。
RA号には陸地に十分近づいて停船するように言っているから、その前に念のため戦闘服に着替えておこう」
立ち上がってキャビンの居間の窓から前方を見たら、陸地がだいぶ近づいてきていた。ただ、見た目はどう見ても島だった。それでも相当大きな島だ。ここから見える範囲で島を囲んでいるのは白い砂浜で、砂浜の先は林のようだ。
「モンスターなんぞおらんと思うが、一応準備は大切じゃからの」
「俺は船の中にいるかも知れない華ちゃんとキリアに準備するよう船内放送するから、アキナちゃんは屋敷に帰って華ちゃんかキリアを見つけたら準備してここに来るよう言ってくれ」
「了解なのじゃ」
俺はブリッジに上がって、華ちゃんとキリアに、陸地が見えてきたから探索準備してキャビンの居間に集合するよう船内放送で連絡した。
そのあと船内の俺の部屋に下りていき、そこで戦闘服に着替えた。
着替え終わった俺は、キャビンの居間に上がって、華ちゃんたちが着替えてやってくるのを待った。
10分ほどで、全員が防具に身を固め集合した。見た感じあと5分もすればRA号は陸地に近づいて停船しそうだ。
予想通り5分ほどでRA号は停船し、錨が下ろされた。岸までの距離は500メートルほどある。岸からだいぶ離れたところに停船したということは遠浅のようだ。
「船首に回ってそこから島に跳んでいこう」
キャビンから出てデッキの上を船首方向に歩いていきながら海の底を見ると透き通っていてやはり海底は砂地だった。メタルゴーレムオルカは1匹だけ見えたがあと2匹は見えなかった。いなくなっているかもしれないが、さすがにそれはないだろう。問題はメタルゴーレムオルカたちは海の中にいるので命令が難しいってことだな。
頭上を見上げれば2匹のメタルゴーレムドラゴンはちゃんと頭上を舞っていた。
船首近くでみんなに俺の手を取ってもらい、前方の砂浜の上に転移した。
砂浜の上に立つとRA号の上から眺めた時より砂浜は白かった。砂浜の上には二枚貝の貝殻や巻貝の貝殻も転がっていた。
空はどこまでも青くところどころ綿雲が流れている。岸辺にはところどころに流木が流れ着いていた。波打ち際へ穏やかな波が寄せては引き、目の前に広がる海の色は岸辺近くは薄く緑に見えるが、岸から離れるにつれて青みを増して、遠く水平線の先で真っ青な青空に溶け込んでいた。
俺たちの立っている場所から少し先に小川があり海に流れ込んでいた。水はいくらでもアイテムボックスに入っているのでどうってことはないが、もしここで何もなく生活するなら貴重だ。
波が寄せては返している波打ち際を見ると、波が引いた後、小さく水が噴水のように噴き出しているところがある。貝が隠れているのかもしれない。潮干狩りができそうだ。俺の場合、砂の中にいた貝は収納できないので、砂を広範囲に収納するだけで簡単に貝が採れるような気もするが、それをやってしまうと潮干狩りじゃなくなる気がする。
『シクラメンのかほり』https://www.youtube.com/watch?v=yoaD6-tcORs
懐かしの金ドンネタでした。
有効利用するため、描きかけで目途の立たない『VRG-クラフトマン、一人で無人島生活』の一節を入れておきました。




