第398話 後藤真由美2
最初に後藤さんに給与などについて説明しておいた。
「そういえば後藤さんは、……。
どうぞお茶を飲んでください」
後藤さんがお茶に手を付けていないので勧めておいた。そういえば、後藤さんは夕食を食べていないんじゃないか。お茶菓子も出ていないし、ハンバーガーでも渡しておくか。
「それで、後藤さんはニューワールドって興味ありますか?」
「はい。一度は行ってみたいと思っていますが、まだどういったところかもわからないし、さすがに無理ですよね」
「フフ。ハハハ。真由美、あなた今どこにいると思っている? 岩永さんに手を貸したと思ったら急に視界が変わってびっくりしたんじゃない?」
「あっ! そうだった。えっ! えっ!? この部屋も趣あるなーって思っていたけど、ええっ!?」
「この屋敷はニューワールドに建ってる屋敷で、あなたの勤務地はニューワールドになるの」
「……。はるか、あなた、最寄駅から10分って言ってたじゃない!」
「うそじゃないわよ。ねえ、善次郎さん」
「今日は雪だったから迎えにいきましたが、あのままマンションに来てもらえれば、マンションからここに歩いてこられるんです。2、3秒で」
「フフフフ。フフフフ」
後藤さんが笑い始め、いきなり平手で自分の頬をひっぱたいた。
パチーン!
「真由美、急にどうしたの?」
「夢を見てるのかと思ったの」
なんだか、濃い人だな。
「外に出て夜空を見てみますか?」
「はい」
俺は後藤さんを連れて応接室を出て玄関ホールから屋敷の外に出た。はるかさんは俺たちの後ろだ。
都合のいいことに今夜は雲もない快晴で、星が満天を埋め尽くしていた。
「あっ! 晴れてる。星の数がすごい!」
「真由美、分かった?」
「うん。なんとなく。
えっ! ということは岩永さんはニューワールド人!」
「ニューワールドに住んでるし、ニューワールドでそれなりの仕事をしているけど、日本人です」
「分かりました。何だかよく分からないってことがよーく分かりました。はるかがまったく気にしていないようなことを気にしても仕方ないということも分かりました。
岩永さん、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
おいおい理解できるだろう。
「部屋に戻りましょう」
応接室に戻ったところで、
「ところで、後藤さん。夕食はまだでしょう? お腹空いてませんか?」
「まだ食べていません。お腹は少しだけ空いている。かも?」
「ハンバーガーにフライドチキン、牛丼とうな重、ざるそばに握りずし、巻きずしもありますが。そうそう天ぷらも」
「へっ?」
「真由美、気にせず頼めばいいのよ」
「えーと、ハンバーガーをお願いします」
「種類は何にします? マ〇クとモ〇ですがたいていのものは揃ってますよ」
「それなら、てりやきマ〇クをお願いします」
「ポテトは?」
「中で」
トレイに乗せてご注文の品とケチャップの入った小袋を後藤さんの前に置いてあげた。
「飲み物を忘れていましたが、何にします? 冷たいものならたいてい何でもそろっています。温かいものだと、インスタントのコーヒーくらいかな」
「お部屋の中が暖かいので、コーラで」
ちょっと大きめの紙コップにコーラを入れて後藤さんのトレイの上に置いた。
「手品だったんですか? ここにあるものみんな、いきなり岩永さんの手先から出てきたように見えたんですが」
「手品じゃないんですが、似たようなものです」
「気にしてはダメですものね」
そうひとこと言って後藤さんはハンバーガーの入った紙の包みを開いて一口食べた。
「これって、できたてみたいに温かい」
「真由美、それできたてなのよ」
「そ、そうよね。そうだと思ってたの。ポテトも揚げたてよね」
「そう」
おお、すでに後藤さんは馴染んできたようだ。順応力が高いということは大切だよな。
「ハンバーガーまだありますよ」
「ありがとうございます。でも一つで十分です」
後藤さんが食べ終わったところで、トレーなどを回収して素材ボックスの中に突っ込んでおいた。ゼロエミッションだなー。
「会社の方から書類を届けた方がいいだろうな。
連絡先は、はるかさんが知っているからいいですね。
それじゃあ、今日はこんなところでいいかな、いやいや忘れてた。
後藤さんはいつからこちらにこられそうですか?」
「明日、退職届を出します。2週間ノーティスですから今月の下旬にはおじゃまできると思います」
「じゃあ、よろしくお願いします。
後藤さんはどちらに帰られます?」
「池袋に出て、西武線で所沢まで帰ります」
「所沢までは送れないんですが、池袋までなら送れます」
俺はコートかけにかけてあった後藤さんのコートをとって後藤さんに渡し、
「わたしの手を取ってくれますか?」
後藤さんがコートを着て俺の右手を取ったところで池袋駅前に転移した。
池袋では雪がかなり降っていたが積もってはいなかった。
「池袋の駅前です」
後藤さんが周りを見回して、
「ほんとだ」
俺は後藤さんに傘を返して、
「今日はわざわざお越しいただきありがとうございました」
「こちらこそ」
ということで、俺は後藤さんの目の前で転移して屋敷に戻った。
玄関ホールに現れた俺を、はるかさんが待っていてくれた。
「善次郎さん、ありがとうございました。
フフ。真由美の驚いたというか呆けた顔を見られて今日は大収穫でした。
写真を撮っておけばよかったけれど、さすがに撮れなかったんですよねー」
「今月中にきてくれるわけだから、学校の新年度に準備もできてよかったですね」
「はい」
「そうそう、こっちの言葉のスキルブックを用意しておかないといけませんね」
「お願いします」
「スキルブックはコピーできないからコアに創らせてるけど、面倒だから日本語のスキルブックを含めてある程度数を揃えておきましょう」
後日、20人分のニューワールド語と20人分の日本語のスキルブックをコアに創らせた。




