第394話 カミングアウト(ゲロ)
採用面接を終え、午後から俺は宮殿に出勤した。
机の上に乗っていた書類に目を通してハンコを押していき、一通りハンコ仕事が終わり休憩していたら、ブラウさんが執務室にやってきた。
「日本からの視察団受け受け入れですが、視察団向けにスケジュール表を作りました」
ブラウさんからリストを受け取り、中を見ると、宿泊場所、視察場所など細かく書かれていた。リストの最後に都周辺の簡単な地図も付いていた。
「よろしくお願いします。
まず当日の予定ですが、
陛下が視察団を宿泊場所の宿に転移で届ける。ということにしていますが、
視察団から見ると、宿に荷物を置き当方の用意する馬車で王宮に移動して、宮殿の玉座の間で陛下に謁見するということになります。それでよろしいですか?」
「わたししか転移を使えない以上それしか仕方ないですよね。
それに向こうからすれば、オストラン国王にあいさつするというのも大切な仕事なんでしょうから」
ダンジョン経由でこのオストランと日本を繋げてしまうことも可能だが、開通は国交樹立あたりでしたい。
「そういえば視察団の泊る宿舎の場所を知らないので教えてもらえますか?」
「陛下が視察団を宿舎に連れていくより、陛下が直接玉座の間に視察団をお連れになられた方がよくありませんか?」
「なるほど。それなら面倒ないですね。王宮から馬車を出して宿に連れていけばいいだけだし。そうしましょう。
帰りもそんな感じで、玉座の間から日本に送り返しましょう」
「了解しました。そのような段取りに致します」
「よろしく」
俺の仕事は人員の運搬と簡単に『お言葉』をかければいいだけだ。
翌日。
社員の採用面接の今日からイワナガ・コーポレーションが本格始動した。まずは社員たちの仕事環境の整備からだ。社員の二人の要望に沿って備品なども調達していくそうだ。
社員の勤務時間は9時から17時で途中1時間の休憩。完全週休2日。年休は初年度10日。翌年度以降20日。合計40日まで繰り越し可能。交通費支給。月給は額面55.5万、ボーナスは6月、12月の年2回。それぞれ月給の3カ月分。住宅補助として毎月10万給料に上乗せすることにしている。
この日は防衛省での会議だったので、会社には顔を出さなかった。少し心配だったが、エヴァのことだからうまくやっていくだろう。
会議では、ダンジョン協会で第1ダンジョン入り口空洞脇に作った発電所が稼働した話があった。また、今回発電所用に掘削し掘り出したダンジョン岩石の分析をしたところ、予想以上のレアメタル、レアアースが採集できそうだとの報告を受けた。十分以上に商業ベースに乗せることのできる品位だったそうだが、やたらと掘り起こすことはできないためこの件についてはペンディングにするそうだ。
「ダンジョン協会では今回の発電所に引き続き、直径3メートルのメタルゴーレムコマを同じように2台直列にして発電機に繋げたものを5機並列で出力125万kWの発電所を造る計画でしたが、一挙に第2と第3ダンジョン2カ所にも同じものを建設するようです。
それで、岩永さんに直径3メートルのメタルゴーレムコマを30個お願いしたいそうです。単価は250億、総額7500億円となります。今回は額が額ですので、3年の分割払いでお願いしたいということです。その間の金利は年率0.5パーセントになるそうです」
3年で7500億ということは2500億ずつ3年か。0.5パーセントでも金利までついてくるとなるとウハウハだな。アキナちゃんではないが、たかだか30個のコマなどチョチョイのちょいだ。
「もちろんそれで構いません。
納品はいつどこにしましょうか? フィギュア化した状態だとそれほど大きくはないので、この後ポーションとかを卸すついでに下の特設テントに置いておきましょうか?」
「は、はい。できれば」
「了解しました」
30個で7500億円もする高額商品を、フリーマーケットに並べるごとくテントに置いておくというのだから、驚いたようだ。俺もよく考えたら驚いた。
「ダンジョン協会では、将来的にさらなる大出力発電機の建造を考えているようなんですが、メタルゴーレムコマの大きさはどこまで大きくできるものなのでしょうか?」
「直径6メートルまでは試しに作っています。
作った感じから言って、12メートルでも問題ないと思います」
「な、なるほど」
俺自身、こんなこともあろうかと、フィギュアからメタルに戻して直径3メートルのフィギュアゴーレムコマと直径6メートルのフィギュアゴーレムコマを既に用意してあったのだ! 今回受注した3メートルの物を今こうして話している間に30個作れてしまった。
発電関係の説明の後、グリーンリーフ以下、防衛省がバックアップしている冒険者チームの話があった。
俺はその説明の間うわの空で、日本からオストランに派遣される視察団のことを考えていた。
明後日は日本からの視察団4名をオストランに連れていかなければならない。4人の集合場所はここ、防衛省の会議室だ。第1ダンジョンとか第2ダンジョンの中でもよかったが、この会議室に集合してもらうことにしている。
日本からの視察団員4名は、とある転移能力者によってオストランに運ばれると聞いているはずだ。自分たちを運んだ『とある転移能力者』が視察団の面前で玉座に歩いていって偉そうに座るわけだ。身バレは身バレでもかなりシュールな光景だろうな。玉座の周りにはブラウさんはじめそれなりの連中が控えて立っているから玉座に座る男が偽物と思うはずもないだろうし。
どうするかなー。ここは開き直って、玉座の間で視察団を引見する時、玉座から視察団に向かって『ある時は謎の運び屋、またある時はオストラン国王、しかしてその実体は、イワナガゼンジロウでーす!』とか言ってみるか?
冗談はさておき、国交樹立となれば俺の顔はいずれ日本中で売れてしまうわけだし、そうなる前でも視察団が日本に帰国すれば今目の前にいるD関連局の連中は外務省から報告を受けてオストラン王国の国王陛下が俺だと知るわけだし。
今まで、オストラン政府に太いパイプがあるとか口から出まかせを言っていた自分が恨めしい。最初からちゃんと話しておけばよかった。ここは覚悟を決めるか。
冒険者チームの話が一段落したところで、俺はおもむろに、
「あのう、いままで隠していたんですが」
会議室にいた全員が俺の顔を見た。俺の横に座る華ちゃんもだ。
「実は、わたし、縁あってオストラン王国の国王やっているんです」
防衛省側の4人は両目を見開いて俺を見つめていた。
華ちゃんの横顔を見ると、いつぞや見た顔だ。顔を赤くして、目を細め口を『へ』の字にしている。
「えーと、国王というのは、オストラン王国で一番偉い方? という解釈でよろしいんでしょうか?」と、いち早く回復した野辺次長が尋ねた。
「はい。そうみたいです」
「明後日、外務省から視察団がこの部屋にやってきて岩永さんにオストランまで送っていただく予定だったと記憶しているのですが?」
「はい。そうです」
「オストランに到着した視察団は宿舎に荷物を置いた後、王宮に赴き、国王陛下に謁見する予定と聞いていましたが、視察団を引見するのは彼らを運んだ岩永さん?」
「そういうことになる。と、わたしも思います」
「はあ。ものすごく驚きましたが、どうすることもできませんものね」
「そうなんです」
田中事務官はノートパソコンのキーを叩いていたが、山本一尉は口を『へ』の字にして明後日の方向を向いていた。隣の華ちゃんは顔をさっきよりもっと赤くしている。華ちゃんの横隔膜の辺りの衣服が震えているような。
「まあ、そういうことですので、ご記憶ください」
「了解しました。
これからは、岩永さんのことは陛下とお呼びした方がよろしいですよね? 会議室も赤坂迎賓館あたりで用意しなくては」
「よしてください。お願いします」
そういう塩梅で、その日の会議は波乱の中終了し、俺は駐車場横の特設テントに荷物を卸してから、華ちゃんを連れて屋敷の玄関ホールに戻った。
屋敷に戻った瞬間華ちゃんが大笑いを始めてしまい、そのまま2階に駆け上がっていった。
しかし、オストラン王国の国王が防衛省の特別研究員でいいのだろうか? よその国の国王を公務員にしてはならないという法律はないだろう。しかも俺は日本国のれっきとした国民だし、オストランにはそもそも国籍とかいう概念がないので2重国籍になるわけないし。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
善次郎たちが会議室から転移して帰ったあと、川村局長が会議室にいた3人に、
「これまで以上に、さっきの話は極秘だ。許可が出るまで決して口外しないように」
「「はい」」
田中事務官と山本一尉が退出した後、川村局長が会議室に残っていた野辺次長に、
「きょうは驚いたなー」
「全くです。ダンジョンマスターの件かと思いましたが、まさかオストラン王国の王さまだったとは」
「どういった経緯でそのようなことになったのか全くの謎だけど、岩永さんが自伝を書けば21世紀の太閤記になるんじゃないか?」
「岩永さんは2年前はれっきとしたフリーターだったようですからまさに立身出世物語ですね。
局長、陛下や迎賓館はないにしても、一国の国王陛下を、防衛省の職員にしたままでいいものなのでしょうか?」
「ああ、その問題もあったなー。岩永さんの今の状況は2重国籍に当たるのかな?」
「そもそも、オストラン王国に国籍という概念があるんでしょうか?」
「うーん。おそらくないんだろうな。
しかし、国交がもうじき開かれるとなると、パスポートとかビザとかの話が始まるのだろうからオストラン王国国籍というのは必要になるんじゃないか?
その辺りは外務省マターだが、岩永さんとそのファミリーは特例としないとかなり面倒なことになるぞ。ポーションの購入やゴーレムコマとかもあることだし」
「そうですよね。
局長、このことは外務省に知らせますか?」
「どうしたものかなー。知らせないわけにもいかないだろうなー。明後日には外務省からの視察団がオストランで国王陛下に謁見するわけだから。
悪いけど野辺次長、外務省の世良事務官に連絡しておいてくれるかね。その際、防衛省の意向として岩永さんとそのファミリーについてはあくまで日本国民としてくれるよう伝えておいてくれたまえ」
「了解しました。しかし世良事務官も驚くでしょねー」
「だろうなー」




