第393話 イワナガ・コーポレーション4、採用面接2
足立さんに続き、二人目の労務管理者候補がアスカ2号に案内されて面接室に入ってきた。
「山田圭一さん」
「はい」
「これまで勤めていらした会社が倒産ですか?」
「はい2カ月前に」
「履歴書を見ると前の会社を含め、これまで5度会社の倒産に遭われていますが」
「はい。わたしが勤めて5年もった会社はありません」
「そ、そうですか」
潰れた会社の中には俺でも名まえを知っている会社もあった。巡り合わせが悪いだけなのか?
当人が積極的に会社を潰しているということないだろうが、ないよな?
俺が少しだけ不安に思っていたら、アキナちゃんが山田さんに、
「運というのは人の力でどうなるわけでもないが、本人にとっては一生の大事じゃ。
わらわの見立てでは、そなたによからぬものが憑いておる」
「よからぬもの? 付いている?」
山田さんが自分の衣服を上から見回すが、もちろん何が付いているわけではない。
「日本の言葉で言えば、貧乏神が取りついているのじゃ。
そなた、そう言われたことはないか?」
「よく言われていました」
「不憫じゃのう。残念ながらこの会社には縁がないが、ここでわらわに出会ったことはおぬしの人生を大きく変えることになるじゃろう。祝福。
これで、おぬしに憑いていたよからぬものは祓われた。どうじゃ? 肩が軽くなったじゃろ?」
「あっ! ほんとです。体はほんわか温かくなって、肩から重みが消えていきました」
「それでよいのじゃ」
山田さんのために神さまが一肌脱いでやったようだ。さっきの口ぶりからするとアキナちゃんは最初の候補者に決めているようだな。神さまの眼力に狂いはないのでそれでいいのだろう。
次は経理責任者候補の一人目。
「火野和子さん」
「はい」
「勤めていた会社を辞めて10年間専業主婦をされていた」
「はい。
子どもの手がかからなくなり、わたしも仕事を再開しようと思いました。幸いこの会社は自宅からも近いですし待遇も良いので」
「なるほど。差し支えなければお子さんは?」
「この近くの高校に通っています。再来年は大学受験です」
「大学受験を控えるお子さんがいらっしゃれば大変でしょうが、外の仕事はだいじょうぶですか?」
「そのつもりです」
そうじゃなければ、応募するわけないものな。
「話は飛ぶのじゃが、おぬしはニューワールドのことをどう思う?」
おっと、いきなりニューワールドか。
「興味はありますが、わたしにとってはおとぎ話のような話ですので」
「ニューワールドから視察団がこの国にきたのじゃが、テレビで見たことはないのかの?」
「何度も見てます。
うちの子は女子高校生ながら冒険者をしている関係で、わたしもそういったニュースをよく見ています」
「あの視察団の中に一人だけ若い娘がいたのを覚えておらぬか?」
「ああ、そういえばそうでした。大人の中に一人だけ女子高生くらいのきれいな女の子がいました。黒髪おかっぱだったのでよく覚えています」
「よく覚えておるのじゃな?」
「はい」
「おぬしから見て、左側に座っている娘に見覚えはないかな?」
「あっ! そっくり、えっ! まさか本人?」
「世の中狭いものよのー。ファッファッファッファッ」
「ほんとなんですか? じゃあこの会社って?」
「資本金が100億もある会社なのに役員だけで社員は今のところ一人もおらん。おかしいじゃろ?
わらわはこの会社の者ではないが、わらわの両隣りはこの会社の会長と社長じゃ。
おぬしをこの部屋に通したのは、人ではなくゴーレムじゃ」
まあ、いいんだけどね。
「そ、そんな」
「おぬしたちが、わらわたちが雇う最初の日本人なのじゃ。心しておけばよい」
この口ぶりは採用みたいだな。
そのあと、これまでと同じようにエヴァが当り障りのない質問をして、火野さんの面接は終わった。
最後の入社希望者で経理責任者候補の二人目。
「金田光さん」
アスカ3号に案内された男性が正面の椅子に座った。
会社の採用面接ではそれなりの作法のようなものがあると思うが、この金田さん、スチール椅子にドカリと音を立てて腰を下ろし足を組んだ。俺は見た目や態度で人を判断したくはないが、ある程度の常識は必要だとは思う。
この金田さん、履歴書を見るとこちらが採用の条件に出していた資格は当然だがその他に税理士の資格を持っている。そして現在税理士事務所に勤めていて、この2月に退職予定らしい。
「金田さん。税理士のお仕事をされていて、どうしてわが社の求人に応募されたのですか?」
「朝から晩までわけわかんないジジババの世話するのが嫌になったから。ここなら暇そうだし」
単刀直入というか、思ったことを口にするというか、ここまでくるとむしろすがすがしい。ってわけはなく。社会人としてやっていけないんじゃないだろうか?
「2月中に退職予定とのことですがここで採用されなければどうされます?」
「ふつうに今の事務所にいるよ」
退職届を出していないのか? あれって、辞める1カ月くらい前に出すものじゃないのか? 本人の勝手だがそこらへんはキッチリしていないとトラブルの元だと思うのだが。仕方なかったとはいえアルバイトを無断欠勤で首になった俺が言えた話ではなかったな。
「金田さんを採用した場合、管理職待遇で雇用することになりますが、お任せする部下などいないので実務を1から10までこなしていただくことになりますけど大丈夫ですか?」
「この会社じゃ大した仕事をしているようには見えないから、大丈夫だろ」
確かに。はるかさんの友達を雇ったとしても役員2人に社員は3人。労務関連の仕事は結構忙しそうだが、経理関連はそこまで忙しくはないだろう。しかし、この金田さん。歯に衣着せぬのはいいこととは限らないと思うのだけど、これまでよく社会人を勤めてきたな。それでもフリーターだった俺から比べれば格段に優秀なのだろう。
「ところで、面接室に子どもが二人いるが、この会社大丈夫なのか? 採用面接というのは会社にとってある意味最も大切な業務と思うんだが」
正論を言われてしまった。
「金田さんから見て左に座っているのがこの会社の社長の岩永エヴァ。真ん中が正式ではありませんが顧問といったところの岩永アキナ。そしてわたしがこの会社の会長の岩永善次郎です」
「15歳以上なら取締役に成れるとは言え、いくら同族会社でも子どもまで取締役にするってあんまり聞いたことないぞ。資本金だけ異常に大きな会社ってところも相当おかしいけど、これってどうよ?」
またまた鋭いご意見を賜ってしまった。『どうよ?』と言われても答えようがないよな。
しかしこの話し方で、頭の悪いジジババ応対が本当にできたのだろうか?
「会社の経営は年ではなく能力なのじゃが、若いころは特に年齢と能力は比例するゆえ、そのように考えるのも無理はない。じゃが逆に、年に似合わぬ突出した能力が有るゆえ取締役になっておると考えられぬか?
わらわはこの会社の顧問なのだそうじゃが、去年の暮れから稼ぎ始めてから2カ月ほどですでに200億は稼いでおる。もちろん自分で稼いだ金じゃ。社長の岩永エヴァは日本円ではないが相当の資産を持っておる。これも自分で稼いだ金じゃ。そして会長の岩永善次郎は、数千億の現金を持っておる。これも自分で稼いだ金じゃ。
この会社の100億は会長の岩永善次郎がポケットマネーで出したものじゃ。
世の中には自分の能力だけでなり上がっていく者もいるのじゃ。
もちろん回りの人間もその者に協力するが、周りに協力させるのもその者の能力じゃろ?
わらわの見立てでは、おぬし自身にはそれなりの能力はあるようじゃ。じゃが、おぬしに協力しようというものはあまりいないのではないか?
先ほどわらわが2カ月で200億自分で稼いだと言うたが、あれは嘘じゃ。
ここにおる者たちや他の者たちの助けを借りて初めて稼ぐことができたのじゃ」
金田さんはアキナちゃんの言葉を聞き終わって黙って席を立って部屋を出ていった。
「さっきの男じゃが、かわいそうに。その前の応募者の時祓ってそのままそこらに漂っておった貧乏神をくっつけて帰りおったのじゃ。どうなることやら」
そういうこともあるだろう。敵役キャラの末路は往々にして悲惨なものになるしな。
全員の面接が終わり、
「採用は足立さんと火野さんということでいいのかな?」
「わらわはそれでいいと思う」
「わたしもあの二人でいいと思います」
昼過ぎに、アスカ3号が足立、火野の二人に採用連絡を電話で行なった。出社は早ければ早い方がいいと伝えたところ、両名とも月初の明日から出勤できるとの返事があった。
不採用の二人にも不採用の電話をしている。不採用通知の例文はネットにひな形があったのでそれを少し変えて電話したそうだ。




