第385話 幕間
善次郎たちが平和な元旦を迎え初詣にでかけていたころ。
日本政府によるニューワールドの公表を受け、某国は年が明け早々日本の単独ダンジョン利用を強く非難し、さらに全ダンジョンの国連移管とニューワールドについての機会均等を主張する声明を発表した。
ダンジョンの出入り口が全て日本に存在する以上、他国がどうこうできるわけではないため、これまで某国でさえそういった主張を控えていた。しかし、ニューワールドという新たな利権が見えてきた以上、日本だけにニューワールドという甘い蜜を吸わせたくないという主張だ。
一度ニューワールドに食い込んでしまえばアフリカ諸国に対して行っていたのと同様に近代化をエサにあらかたの利権を獲得する腹積もりである。それには日本によるダンジョンの単独使用をどうしても放棄させ、ダンジョンを公海同様の扱いにしなければならない。
さらに、他国に対して強い態度で臨めば、国内の不満を逸らすことができるうえ、全ダンジョンを放棄させることは望めぬまでも、これまでのように日本政府はなんらかの譲歩するものと考えていた。
某国による他国の主権を侵害するような主張に対し、主要国はもちろん反対したが、明らかに消極的であり口先だけのものだった。
某国によるこういった動きを日本政府ではある程度予測していた。日本の最大の懸案であるエネルギー問題をダンジョンにより解決できる目途が立ったこともあり、強い言葉で某国を非難し、一切の要求を拒否した。同時に同国国籍の冒険者の冒険者免許を停止した。某国はこれに対し、日本人に対するビザの発給を停止した。
こういった両国関係の緊張に一部与党議員と野党各党は一斉に政府を批判し、ダンジョンの国連への譲渡を求めたが、国内世論を味方にそういった要求を政府は退けた。
これを機に某国へ生産基盤を有していた企業の国内回帰が加速していくことになる。
防衛省でも不測の事態に備えるべく警戒を強める中、D関連局でもダンジョン内の警備の強化をダンジョン協会に指示し、国内の公安組織は某国に関係の深い国内過激派に対して警戒を強めると同時に同国の出先機関の動静の監視を強めた。
こういった国内外の情勢の中、某国の東京都内にある大使館の裏門から外交官ナンバーを付けた2台のSUVが道路に乗り出して、大使館から去っていった。そしてその後を公安の覆面パトカーが追っていった。
その後時間を置いて3台の軽自動車が大使館から走り去っていった。軽自動車のナンバーは品川ナンバーで、外交官ナンバーではない。また、日本国内6カ所にある某国領事館でも同じような情景が見られた。
そういった中で、某国の一領事館から走り出た1台の軽自動車が第9ピラミッド=ダンジョンに向かっていた。
第9ピラミッド=ダンジョン近くの一般駐車場に停車した軽自動車の中から現れたのは小柄な3人の男だった。3人の国籍は日本でありダンジョン免許証も取得している。
車から降り立った3人は3人とも大きな手提げかばんを持って駐車場の近くのマンションのエントランスに入っていった。
マンションの一室でダンジョン用の装備に着替えた3人は、第9ピラミッドに向かい、そのまま入り口の改札を抜けてゆらぎの中に入っていった。荷物は手提げかばんだけで、武器受渡し所に立ち寄っていないことから、ダンジョン用の武器を所持していないと思われる。
彼らの持つ手提げかばんの中に入っているのは爆薬だったがいわゆる軍用の高性能爆薬ではない。点火装置もハンドメイドに毛が生えたようなものだ。あくまで国内過激派による犯行を装うためだ。
彼らの任務は、ダンジョン内の適当な通路を破壊することで、一応冒険者の殺傷は目的ではない。ダンジョンがテロの標的になり得ることを日本国民に教え、日本国内のダンジョンへの批判を後押しすることが目的である。
この日国内でオープンしている全ダンジョンに対して某国工作員による破壊工作が試みられたが、ダンジョンに侵入できたのは第9ダンジョンに向かった3名のみだった。残りの工作員たちは某国の出先機関を監視カメラで監視していた公安より連絡を受けた警察官によりダンジョン近くで職務質問を受け、所持していた爆発物を押収され爆発物取締罰則違反で緊急逮捕されている。
不審な3人組がダンジョンに侵入する可能性があると公安より連絡を受けた第9ダンジョンでは、ピラミッド前の監視カメラに映った武器も持たず手提げかばんだけを持った3人組を護衛員が捜索した。連絡を受けて30分後、警護員の1グループが第1階層の枝道で爆発物を設置中の3人を発見し、身柄を拘束した。その後、3人は爆発物とともにダンジョン前に駆け付けた警察に引き渡されている。
このような形で、ダンジョン同時多発テロは未然に防がれたが、政府による公の発表はなかった。もちろん過激派は沈黙を守ったままである。
ダンジョンに対するテロは未然に防げたものの、D関連局では、ダンジョン出入口での持ち物検査実施に踏み切ろうとした。しかし武器を携える冒険者に対して実効性が乏しい上、冒険者の利便性を考慮した結果、持ち物検査の実施は見送った。
某国では以前よりダンジョン協会のデータベースに対してクラッキングなどでデータの取得を試みてはいるが成功していない。また、ダンジョン協会の役員、従業員に対しての各種のトラップを仕掛けてはいるものの成果は上がっていない。さすがの某国も防衛省に対する直接的クラッキングは控えている。




