第378話 年末温泉旅行8、2日目
サウナから出た俺と親父は、掛水は遠慮して普通に掛湯してもう一度岩風呂に入り、肩まで浸かってから湯舟から上がって、そのまま脱衣室に戻った。
脱いだ服をどこのカゴに入れたのか俺はすっかり忘れていたのだが、親父が覚えていてくれた。
「親父、覚えいいなー」
「われにもらーた水薬を飲んでから頭の調子も良んなって、物忘れしぇんやんなったんだ」
「おかしいなー、俺なんか親父に渡したポーションよりよく効くはずのポーションを飲んでいるのに頭の調子は今まで通りだ。
そういえば、親父の髪の毛白髪も多いけど、年の割に濃くないか?」
「そうかもしれんな」
「俺は死んだお袋似なのか?」
「さあ」
「まあいいや」
浴衣に半纏を着た俺たちは男湯から出てそのまま部屋に帰っていった。
「マズい! 鍵を持ってくるのを忘れた。
跳んで帰ればいいだけだから、どうってことなかった。親父、俺の手を取ってくれ」
親父が俺の手を取ったところで、部屋の玄関に跳んでいった。
「だどもわれのソレ、便利だなー」
「これのおかげで、あの世界から、こっちに戻ってこられたんだけどな」
「そげなのはむやみやたらと使わん方がええんじゃなえのか?」
「今さらだし、不思議なことに転移で現れても他の人間はほとんど気付かないんだよ」
「ふーん」
その後二人で歯を磨いて、部屋に入ったら、子どもたちはみんな寝ていた。寝つきのいいことはいいことだ。部屋の照明を豆にして、親父も俺も布団に入っておとなしくその日は眠った。風呂上がりだけあって体がポカポカして暑いくらいだったがすぐに寝つけたようだ。
翌朝。
昨夜早くから寝たせいか暗いうちから目が覚めた。親父はまだ寝ていた。昨日はそんなに歩いたわけではないので移動で疲れたわけではないだろうが、それなりに疲れていたのだろう。
俺は音を立てないように起き上がり、朝の支度を始めた。
俺が支度を終えたころ、親父も起きてきて支度を始め、そのうち子どもたちも起きてきた。
顔を洗って歯を磨き終えた子どもたち5人は部屋の中で浴衣から普段着に着替え始めたので、
「おはよう。
おまえたち、隣の部屋で着替えてこい」
「「おはようございます。
はい」」
着替えを持って5人が隣のはるかさんたちの部屋に移っていった。
その間に俺は、布団を片付けてくれるよう電話しておいた。
支度の終わった華ちゃんたちと一緒に子どもたちが戻ってきた時には布団も片付けられて、部屋の中に座卓が並べられていた。
「おはよう」
「「おはようございます」」
朝食まで少し時間があったので、テレビを付けたら、ダンジョン協会のCMが流れていた。
「おおっ! ダンジョンガールズがパフュ〇ムと一緒に出てる!」
頭にピラミッドを乗せた銀色のフィギュアがパフュ〇ムの三人の踊りに合わせて踊っていた。ピラミッドの色はもともと銀色だったが、画像処理したようで金色に輝いていた。
「少し前から、ネットに上がっていました」と、華ちゃんに教えられた。
「この宣伝なら、わしも見たことあーぞ」
「「見たことあるー」」
どうやら初めて見たのは俺だけだったようだ。
「わらわも初めてじゃ」。仲間が一人いた。
「ゼンちゃん、あの銀色の人形はゼンちゃんが作ったフィギュアなんじゃろ?」
「うん」
「わらわにもあれを作ってくれんかの? できれば101個」
「ダンジョンガールズは3人組だから33セットで99個にするか? 防衛省のキャラを勝手に増やすとマズいからちょっと加工してみた方がいいな」
「ゼンちゃん。ゼンちゃんが加工すると何か別の物ができそうじゃから、イオナに頼んでそれっぽい絵を描いてもろうて、それを元にして作ればどうじゃろう?」
俺の造形力をアキナちゃんは把握していたようだ。確かにイオナに絵を描いてもらってそれを元にコアにゴーレムを創らせれば一利というか十利くらいあるいい案だ。
「イオナ、さっきテレビに出て踊っておった人形を見たじゃろ?」
「うん。見た」
「屋敷に帰ったらあれの顔をちょっと変えて、もっとカッコいい絵を描いてくれんかの? あれの頭の金色の三角は要らんから」
「わかった。帰ったらね」
「よろしく、頼むのじゃ」
イオナが描いた絵となると、著作権はイオナのものだから、売り出すことも可能? 将来的にはオストランの土産物とするのもアリか?
一通りCMが終わってニュース番組が始まった。何となくニュースを見ていたら、朝食の準備に仲居さんが2人やってきて、朝食を座卓の上に並べていった。
おひつの中のご飯を茶碗によそって「おひつのごはんで足りないときは、お知らせください」と、言って二人は部屋を出ていった。
「「いただきます」」
カマスの干物、温泉玉子、切り干し大根、厚焼き玉子、長芋の千切り、ひじきの煮物、シジミの味噌汁。海苔、香の物、野菜サラダ。カゴの中に生玉子。
純日本風の朝食だったが、シンプルながらも味が良い。不思議なものだ。リサは味を確かめるように食べている。レパートリーがまた増えそうだな。
みんなご飯をおかわりしたので、おひつが空になり、新しく持ってきてもらった。
お茶の準備はちゃぶ台の上に置かれていたので、リサがお茶を淹れてくれた。
「「ごちそうさま」」
「ふー。食ったー」
「「おいしかったー」」
「これだけたくさん食ーたのは何年ぶりだらー。っと、思い出えた。しんなに昔じゃのうて、昨日の晩食ーたの思い出えた。ハハハハ」
親父はやっぱり俺の親父だった。
座卓の上を片付けるように電話して、
「何も考えていなかったけど、今日は何をしようか?」
「わらわは船に乗ってみたいのじゃ?」
「船となると、どこかに遊覧船があったかな?」
はるかさんがスマホを操作して、
「熱海港の近くから遊覧船が出ているようです。最初の出航は10時みたいです」
「じゃあ、そこにいってみるか」
「この前いった海岸から結構あるかな?」
「そんなに遠くはないようです。歩いて5分くらいかな」
「それなら、あの海岸まで跳んでいって、そこから歩いていこう。ちょっと早いかもしれないけど30分前に出発しよう。
みんなはそのつもりでいてくれ。遊覧船だから寒いかもしれないので、使い捨てカイロはあるけど寒くないような恰好をした方がいいぞ」
「「はい」」「楽しみなのじゃ」
9時半までだとゲームをするにも時間が中途半端だったので、結局またテレビを点けてしまった。
テレビでは朝のニュースショウをやっていた。
また、山口某がテレビに出てコメントしていた。山口某はweb作家のハズだが、真面目に創作活動しているのだろうか?
山口某は今日の番組でも、昨日言っていたようなことをしゃべっていた。
防衛省とか外務省からお金でも出てるんじゃないか?
俺がテレビを見ていたらみんな出かける服装に着替えたようだ。親父がプレゼントした髪飾りやネックレスを着けていた。子どもたちのは髪飾りで、華ちゃん以上には、プチネックレスだった。いくらくらいする物なのか俺では見当もつかないが、安物ではなさそうだった。
親父にこういった特技があったとは知らなかったが、少なくともお袋と結婚していたわけだからそういった経験もあったということだろう。




