第375話 年末温泉旅行5、おじさんズ
俺と親父とで適当に説明を挟みながら、越後のちりめん問屋のジジイが大活躍する時代劇をみんなで最後まで見たところで、
『失礼します。女将でございます』
と、声がした。
「どうぞ」
「失礼します」
女将の後から、サウナおじさん二人組が入ってきて部屋の畳の上に正座した。女将は二人の後ろで正座した。
「岩永さん、前回もわれわれを助けていただいていたそうで、本当にありがとうございます」
「ありがとうございます」
二人は俺に向かって頭を下げた。
「当然のことをしただけだし、無事でよかったですよ。
前回、お二人を助けたお礼にと、女将から宿泊券までいただいて、こうしてまたこの旅館にきているわけですから」
「とにかくありがとうございました。
岩永さん、もしもお困りのことでもございましたら、私のところにご連絡ください。
たいていのことは致しますので」
「いえいえ、私のところにご連絡ください。何とでも致します」
二人で争うように俺に名刺を渡してくれた。俺は両手で一枚ずつ名刺を受け取った。どちらの名刺も同じ大きさだったが、普通の名刺よりだいぶ大きな気がする。
順に名刺をみたところ、
最初の一枚には、
岩崎グループ 岩崎弥一
とだけ印刷されて、手書きのインクで電話番号が書いてあった。裏は白紙だった。
もう一枚には、
松坂グループ 松坂利高
とだけ印刷されて、同じく電話番号が手書きのインクで書かれていて、こちらも裏は白紙だった。
岩崎グループと松坂グループといえば俺でも知っているというか日本人なら誰でも知っている日本を代表するような旧財閥系企業グループだ。役職も何もなしで、グループ名と同じ苗字ということは、グループのトップ!? なのか?
俺が驚いていたら、二人でどうしてあんなことになったのか説明し始めた。
大学時代の同級生でもありクラブの同僚かつライバルだった二人は、お互いが休みの日には、秘書などを連れずこの旅館に泊り旧交を温めていたそうだ。それが、サウナなどに入ってしまうとつい学生時代のライバル意識が出てしまい意地になってしまうのだそうだ。
おじさんたちがそういった話をしていたら、いきなりアキナちゃんが、
「あっ! この二人は、美術館でイオナの絵を見ていたおじさん二人組なのじゃ!」
そういえばイオナの絵を見ながら講釈を垂れていたおじさん二人組が美術館にいたな。
「イオナの絵を見ていた? イオナ? 岩永? あっ! 天才美少女画家、岩永イオナ!」と、岩崎氏。
「養子なんですが。そっちの子がイオナです」
「なんと。すごい才能をお持ちの娘さんで羨ましい」
うちの子のことを褒められた俺は、つい自慢したくなり、
「こっちがオリヴィアです。オリヴィアもピアノの才能があるんですよ」
「オリヴィア? 岩永オリヴィア? あっ! 天才美少女ピアニスト、岩永オリヴィア!」と、松坂氏。
オリヴィアのことまで知っていたのか。ピアノコンクールの方は新聞などに大々的には出ていなかったはずだが、どこかで有名になっていたのかな?
「なんと」「驚きです」
「岩永イオナです」「岩永オリヴィアです」
二人が名乗っておじさんたちに頭を下げた。
「この二人には美術と音楽の才能があったんですが、他の子も才能あるんですよ」
ついでにみんな紹介することにした。
「こっちのエヴァは、商才かな。
そして、こっちのキリアは武術の才能だな。二人ともすごいんですよ」
「岩永エヴァです」「岩永キリアです」
二人もおじさんたちに頭を下げた。
「そして、リサ。紹介した4名ほどわたしと歳は離れていませんが、一応わたしの養子で、料理の才能があるんです」
「岩永リサです」
リサが軽く頭を下げたところで、満を持していたのかどうかわからないが、アキナちゃん。
「わらわは、岩永アキナじゃ、わらわの才能はさてなんじゃろう?」
「アキナちゃんは才能など超越しているからな」
「そうじゃろう」
二人のおじさんは、これを流して、
「残りの方々は?」
「そして、縁があって同居している、木内はるかさんと三千院華さん」
「木内はるかです」「三千院華です」
「そして、俺の親父の」
「岩永善吉だ」
「どうもみなさん。
あらためて、ありがとうございました」「ありがとうございました」
「「それでは、そろそろ失礼いたします」」
おじさんズと女将がもう一度頭を下げて部屋を出ていった。
「今のはびっくりしたなー」
はるかさんがスマホをいじって、
「あった! 岩崎弥一って岩崎グループ総帥って出てます。
えーと、松坂利高、……。松坂さんは松坂グループ総帥って出ています」
「やっぱりあのおじさんたちただ者じゃなかったんだ。
経済界の大物となると、将来エヴァがこっちの世界に進出した時便宜を図ってくれるかもしれないな。
情けは人の為ならず。そのうちいいことがあるんじゃないか?」
「おそらく、お二人が名刺だけ岩永さんに渡したということは、本当の意味で力になってやろうということじゃないでしょうか」
「本当の意味で力になるとは?」
「岩永さんが窮地に陥る未来は全く想像できませんが、そういった時に親身になって助けてくれる。そんな感じだと思います」
「わらわの加護まで持つゼンちゃんが危ういことに陥ることなどゆめゆめないと思うが、わらわもはるかちゃんのいう通りと思うのじゃ」
「そこまで感謝されたとなると、狙っていたわけじゃないが助けてよかったと思えるよな」




