第373話 年末温泉旅行3、山口某と大浴場。
親父の地元の県立美術館にイオナの美術コンクールでの大臣賞受賞作を飾ることになった。これで親父は同級生に対して少しは面目を施すことができるかも知れない。
早めに風呂に入っても良かったのだが、早く入館した関係で、まだ大浴場が開いていない時間だった。かなり久しぶりになるが、テレビをつけてみることにした。
番組はニュースショウで、ちょうどダンジョンに関する特集のようなことをやっていた。番組の中で、コメンテーターとしてダンジョン評論家という山口某が出ていた。もちろん知らないおっさんだったが、こういった番組に出ているところを見ると、それなりの人物なのか、テレビ局受けするコメントを出しているのか、どっちかだろう。たぶん後者だと思う。
MCが山口某に、
『……。
山口さん、外務省と防衛省共同で年末重大な発表があるとのお話でしたが、どういった内容なのか予想されていますか?』
『正確に言うと、外務省はアジア大洋州局、防衛省はD関連局、その2局が合同で重大発表を行なうという話です。ここから考えられることはただ一つ。ダンジョンの先に異世界が発見され、わが国と異世界に存在する国との国交が開かれるということでしょう』
俺はそれを聞いて、あぶなく飲んでいたお茶を吹き出すところだった。華ちゃんも目を丸くしている。
もしや、あの会議が盗聴されていた?
さすがに防衛省内での盗聴は無理だろうから、おそらく外務省か防衛省から、この山口某氏に事前リークがなされたと考えるのが妥当だろう。となると、テレビに映ったこの風采の上がらない山口某氏は、実はかなりの実力者の可能性がある。人を見た目で判断してはならないといういい例だな。
『異世界ですか? われわれからすれば荒唐無稽なお話に感じられますが、一部の界隈では異世界の存在は常識だとかうかがっています』
『失踪者の中の何人かは、何らかの方法でこの世界から異世界に迷い込んでしまっているというのは、今や常識ですからねー』
『常識だったんですか?』
『そう。常識です。
警察庁に勤めるわたしの知人が言っていましたが、今現在確認されているだけで6名異世界に行き、そのうち4名が日本に帰還しているそうです』
『本当ですか?』
『警察庁が発表しない限り証明できないことですから、信じる信じないはご勝手に。ですが、異世界に行ったあなた』
ここで、山口某氏がテレビを見ている俺に人差し指を向け、
『あなたなら、わたしが真実を語っているとおわかりですよね』
再度俺はドキッ! と、してしまった。
そこでコマーシャルが入った。
「岩永さん。この人、勘や当てずっぽうで話しているんでしょうか?」
華ちゃんが驚いて俺に聞いてきた。
「さすがに、勘ではこれほどのことは言えないだろう。
それこそこの山口某は政府や警察に太いパイプを持っているんじゃないか? いずれ選挙にでも打って出るかもな」
「この人、目つきがちょっと危なくないですか?」
「たしかに、選挙に出ても女性票は無理そうだな」
「ですよねー」
「おっと、そろそろいい時間だから、風呂に入ろうか。
親父一緒にいこう」
「そうだな。温泉は久しぶりだけん楽しみだ」
「それじゃあ、わたしたちも」
女子たちもみんな風呂に入るというので、結局みんな揃って大浴場に向かった。俺以外着替えを持っている。俺がみんなの荷物を預かってもいいのだが、大浴場まで距離も短い上に、着替えなので下着も入っているから、預かろうか? とか怖くて言えなかった。
水色の地に白い温泉マークの暖簾のかかった男湯に親父と一緒に入っていった。もちろん女子たちはピンクの地に白い温泉マークの暖簾のかかった女湯だ。
脱衣所の中には先客が2名ほどいた。その2人が、浴場に入っていき、俺と親父もカゴの中に脱いだものを入れて真っ裸になった。カゴは例のごとく脱衣所の隅で、親父のカゴと並んで置いている。システム手帳にメモしておけば忘れないが、親父もいるから俺が万一置き場所を忘れてしまっても大丈夫だろう。
半分認知症になった爺さんが息子に頼るようなことを考えてしまった。
2人でタオルを1本ずつ持って浴場に入っていき、浴場の入り口で掛け湯をして中に入っていった。浴場正面のガラス張りの向こうの露天風呂の先に青い海と熱海の街並みが見える。
「温泉だな。それに景色もええ」
「山の中腹にある温泉だから、風呂からでも見晴らしはいいよな」
俺と親父は天然石でできた一番大きな大浴槽の中に入って、並んで座って足を伸ばした。
しばらくお湯に肩まで浸かり、
「親父、この前みたいに背中を流してやろう」
「おお、あらぁ気持ちよかったのー」
二人して浴槽から上がって洗い場に移動した。
アカスリ用のナイロンタオルをアイテムボックスから取り出した俺は、そのタオルに備え付けのボディーソープを垂らして親父の背中をごしごしこすってやった。
「ほうー、気持ちええー」
親父の背中と肩から腕にかけて洗ってやった。俺も親父に新しいナイロンタオルを渡して背中を洗ってもらった。
親父とお互い背中を流し合った後、手足と頭を洗って、シャワーで流してから、ちょっと熱い浴槽に二人して浸かった。
「儂は、ちょこっとサウナに入ってくーけん」
親父は浴槽から上がってサウナの方に歩いていった。
そういえば、先に入った2人が見えないことに気づいた。サウナに入っているのだろう。時間的には浴槽に浸からず、そのままサウナに入ったとしか考えられないな。そういえばこの前来た時、サウナで伸びてしまったおじさんたちに、さっきちらっと見たおじさんたちが似ていたような。
サウナで伸びてしまった2人は女将が気にするような客だったわけだから、常連だったに違いない。現在進行形でサウナに入っているらしい2人があの2人であることも十分あり得る。
俺と親父が浴場に入ってもう10分は経っている。
また伸びてるかもしれないな。
そう思ってサウナの方を見たら、親父がちょうどサウナに入るところだった。扉を開けてサウナに入ったと思ったら、親父が飛び出てきた。
「善次郎、人が伸びちょー」
風呂場の中で走るのは危険なので俺は親父の手前に転移してやった。
「うおっ!」
俺に驚いた親父は放っておいて、サウナの扉を開けて中に入ったら、親父の言った通り、おっさんが2人一段高いところで、体をもたれ合うような形で伸びていた。
これじゃあ、前回と同じだよ。試しにおっさん二人を収納しようとしたが収納できなかったところも前回と同じだ。
親父がサウナに入ってきたので、おっさんを一人ずつ二人して抱え上げて、サウナの外に運び出した。
「善次郎、どうすー? マウスツーマウスすーのか?」
「それは、極力避けたい。
まずは、ポーションを口に突っ込んで、それで飲んでくれれば何とかなるだろう」
仰向けに寝ているおっさんたちの口にヒールポーションの瓶の口を突っ込んでやった。前回は半分くらいしかポーションが口の中に入っていかなかったが、今回は全部口の中に入っていった。
ゴホッ、ゴホッ とか2人が咳き込み出して口に突っ込んでいたヒールポーションの瓶が落っこちたので瓶を回収しておいた。
俺と親父が見守る中、2人とも目を覚まし、寝っ転がったまま周りを見回して、俺たちに気づき、上半身だけ起き上がった。絵面はスゴク悪いと思う。
「ほっ、これは? ああ、お二人にご迷惑をおかけしたようで、申し訳ありません」
「本当に申し訳ありません。また女将にまで迷惑をかけるところでした」
ここの女将さんに以前迷惑をかけたことがあるというと、前回俺が助けたおっさんたちに該当するような気が、ものすごくする。
「大事にならなくてよかったです」
「後で、お礼にうかがいますので、お名まえと部屋番号を教えていただけますか?」
面倒なことは嫌なのでどうしようかと考えていたら、親父が、
「XXXX号室の岩永です」と、先に答えてしまった。
「XXXX号室の岩永さんですね。部屋に帰って少し落ち着いたらお礼に伺います」
そう言って二人は浴場から出ていった。
「大ごとにならんでよかったな」
「まあな」
「親父、サウナはどうする?」
「止めちょけーかの」
「だな」
俺たちはおとなしく露天風呂の方に移動して、そこの打たせ湯で肩をマッサージしたりした。そのあと露天から館内に戻って湯舟に入り、しばらく肩まで浸かって、それから浴場から出て脱衣所に向かった。




