第367話 エドモンドⅠ世即位100周年記念式典2
神殿の控室の中でローゼットさんとまったりお茶を飲んでいたら、神殿の中というか、神殿の大ホールから大勢の人の気配が伝わってきた。
「何人くらい大ホールに入るんですか?」
「大ホールに席は1500ほど用意されています。そのなかで招待客は1200名、当神殿の関係者が300名ほどです。
その他に、神殿まえの大通りは式典の間通行止めになっています。多くの国民が集まっていることでしょう」
今頃はアキナちゃんはじめアキナ神殿の連中も招待客としてホールの中にいるのだろう。先日引見した各国の大使たちもいるに違いない。
そして、神殿の鐘楼の鐘が鳴り始めた。しばらく感じられたざわめきがおさまり、静かになった。
式典が始まったようだ。ブラウさんが式を取り仕切っているのだろうから、この部屋だと声は聞こえないが、最初のあいさつでもしているのだろう。
俺は控室にいる関係で、どういった式典なのかは想像することしかできないのだが、アキナちゃんに後で聞けばいいだろう。
「陛下、そろそろです」
立ち上がったローゼットさんが入って来た時とは違う扉を開け、彼女に先導されて俺とアスカ1号は大ホールに入っていった。
俺たちが入っていったのは大ホールの一番奥に設えられたステージの袖だ。ステージの真ん中に演台が置いてありブラウさんが立っていた。
「それでは新国王、ゼンジロウ陛下よりお言葉があります」
俺はこれからそこで一席ぶたなければならない。
ブラウさんが演台から俺の立つステージの袖にやってきて、
「陛下よろしくお願いします」と、頭を下げた。
俺は演台に進み出た。演台越しに大ホールの中を見渡すと、不思議なことにすぐにアキナちゃんを見つけることができた。みんな真面目な顔で椅子に座っているのに、あからさまにニヨニヨ笑いをしているので、周囲からは分からなくても正面から見ればすごく目立つんだよな。
アキナちゃんはそういった意味ですごく目立っているのだが、俺の後ろには、鎧姿の謎の美少女アスカ1号が目立たないようにかなり目立って立っている。
それでは、覚悟を決めて、気張って大声を出すとしよう。
「ゼンジロウです。
ご存じの通り、エドモンドⅠ世がオストラン国王になってから奇しくも100年、エドモンドⅠ世と同じように聖剣を石から引き抜き、成王の試合に勝利して、国王になった男です。
御覧の通り取り柄があるのかないのか分からない男ですが、この国を国民にとっていい国にしていこうと思っています。
話は少し変わりますが、努力するしないは個人の自由ですし、努力したからといってそれが報われるかと言えば確実に報われるとは言えないでしょう。それでも努力を続けていくことができれば報われる可能性は高まります。ここまでは個人の問題ですし、国がとやかく言うことはできません。ただ言えることは、努力は必ず報われるとは言えないが、総じて報われることの方が多いでしょう。
ですが、努力したくとも努力できない。そもそも努力の仕方も分からない。そういった国民を減らしていき、全ての国民が努力できる。わたしはこの国をそういった国にしていこうと思っています。
そういった国は、やる気のある国民にとってはいい国と言えるでしょうし、やる気のある国民が増えていけばこの国は必ず栄えます。この国をこの世界で最も『いい国』にしていこうじゃありませんか?」
最後のくだり、どっかで聞いたことがあるような言い回しになってしまった。
最初、大ホールの中から拍手がパラパラと聞こえそれがだんだんと大きくなり、割れんばかりとは言えないがホールの中にいた招待客たち全員が拍手してくれた。
なんか、気持ちいいじゃないか。演説が癖になるかも?
俺は、演台から、ステージの袖にさがった。
ステージの袖にはローゼットさんの他ブラウさんもいた。
「陛下ご苦労さまでした」
「あんなのでよかったですか?」
「素晴らしかったです」
まあ、期待はしていなかったものがちょっとでも出来が良ければ素晴らしいに格上げされるからな。
「これで、わたしの出番はおしまいでいいですか?」
「はい。
ここから先は、各国の代表の祝辞、引き続き来賓の祝辞があり、わたしが最後に謝意を述べて記念式典は終了します」
そういうことだったので、俺はローゼットさんとアスカ1号を引き連れ控室にいったん戻った。
「この調子だと昼前にも式典は終わりそうですね」
「各国の代表の方々の他、祝辞をお願いしています来賓の方は20名を超えますので、1時ころまでかかるかもしれません」
演説が癖になっている人とか演説することに快感を覚える人が中に一人でもいると大変なことになってしまいそうだ。
「わたしは、これで帰ってもいいかな?」
「はい」
「じゃあ」
アキナちゃんの演説は聞きたかったが、俺はアスカ1号を連れて屋敷に帰った。
「ただいま」
居間に顔を出すと、式典に出ているアキナちゃん以外みんな揃っていた。
「「お帰りなさい」」
「もう式典が終わってしまったわけではないでしょうから、勝手に帰ってきたんですか?」と、華ちゃんに言われてしまった。
「いやいや、さすがにそれはできないだろ。ちゃんとあいさつしてきたよ」
「岩永さんならそれくらいしかねないと思いましたが、岩永さんでもそれはなかったんですね」
普段どう思われているのか疑問だ。
「お父さん、アキナちゃんはどうでした?」と、今度はエヴァ。この状況を繕おうとしてくれたのか。
「アキナちゃんの話は聞いてこなかった。各国の代表の言葉の後に来賓の祝辞が20人くらい続くそうだったんで帰ってきたんだ」
「アキナちゃんがどんな話をするのか、ちょっと聞きたかったな」
「日本だったら、テレビ中継があって居ながらにして様子が分かったのに残念でしたね」と、華ちゃん。
「もう1年今回の式典が遅かったら日本からテレビクルーがやってきたかもしれませんね?」とはるかさん。
「確かに。
そういう意味ではいい観光資源だったのに惜しかったなー。でも、その気になれば、お祭りでも式典でも適当にでっちあげればいいから、村興しならぬ国輿しができそうですよね」
「それ、面白そうですね」
「広告代理店とかに丸投げして企画させてもいいんでしょうが、こういった物を企画するのも面白いですからね」
しばらくコタツに入っていたら昼食に呼ばれた。今日の昼食のメニューは玉子サンドとハムサンドと野菜サンドそれにスープの昼食だった。ちょっと前までは、丸パンをスライスしたものに具を挟んでいたのだが、先日2斤用のホームベーカリーを2台購入して以来、食パンに具を挟むようになった。初めてホームベーカリーで焼いたパンを食べた時にはそのおいしさに驚いた。
最近リサは、食材などマンションの近くの大型スーパーで購入しているそうだ。先日食べたタラ鍋のタラなども、そこで購入したものだ。最初ははるかさんに連れていってもらい、勝手を知ったようだ。何でも慣れだよな。
昼食あとのデザートは台湾産のパイナップルだった。甘いじゃん。これも、スーパーで仕入れたらしい。
オストランの伝統料理とかオストラン食というものがあるのか分からないが、将来オストラン全体が豊かになったら、日本食を始め、地球食にとってかわられるかもしれない。ちょっと心配ではある。




