第366話 エドモンドⅠ世即位100周年記念式典1
「アキナちゃん、それはそうと、今日は暗くなる前に向こうの宿に着いた方がいいだろうから、午後4時前には出よう」
「よろしく頼むのじゃ」
「任せてくれ」
昼食を終えてデザートのフルーツパフェをみんなに配った後、忘れないうちにコアのところに跳んで、ゼンジロウ1号のレベルアップを行なった。
レベルアップは10分ほどで完了した。
「コア、ゼンジロウ1号が食べたものはどうなる?」
「嘔吐させる方が簡単でしたが、人間と同じように排泄する仕組みに改造しました」
「嘔吐じゃかわいそうだものな」
「そうそう、コアに聞き忘れてた。
ゼンジロウ1号は用事のないときには俺のアイテムボックスの中で眠っているわけなんだが、眠っている間に俺が見聞きした記憶って、ゼンジロウ1号に送れるんだよな?」
「この部屋に来ていただければ可能です」
「その逆っていうのはどうだ? ゼンジロウ1号の見聞きしたものを後から俺の記憶に移せるのかという意味だが」
「もちろん可能です」
よしよし、これなら宮中晩さん会は完全クリアだな。後から晩さん会の話題を誰かに聞かれてもちゃんと答えられる。
「もう一点。俺の記憶力って上げられないか?」
「強制的に知識などを書き込むことはできますが、記憶力を上げることはできません」
残念だ。
「なら仕方ない。
じゃあ、ゼンジロウ1号、アイテムボックスに収納するからな」
「はい」
ゼンジロウ1号を収納した俺は屋敷に帰り、すぐに風呂に入った。引き続き子どもたちも風呂に入り、アキナちゃんは華ちゃんに髪の毛を乾かしてもらったら、部屋に戻って余所行きに着替えてきた。
俺は余所行きのような、普段着のような中途半端な格好の上にジャンパーを着て少し早かったがアキナちゃんを連れて都のオストラン神殿の前の通りに跳んだ。
大通りに面して左右に並んだ建物の2階からは旗竿が道に向けて真横に延ばされていて、その旗竿に橙色の地に赤字でアルファベットの『O』にそっくりな記号の書かれた旗が垂れていた。その文字はこの国のアルファベットに当たる文字で発音も『O』と同じだ。だいたい表音文字は口の形と舌の動きから発展したものと俺は思っているので異世界であろうが人間が発音する時『オ』を表す表音文字は『O』に近い形になると勝手に思っている。
式典の前日の午後遅くだから準備も完了しているのは当たり前なのかもしれないが大したものだ。
それはそれとして、ここから少し王宮の方に向かって進めば宿が左手にあるはずだ。というか、今俺たちのいるところからすぐ先にそれらしい建物が見えた。
「アキナちゃん、あそこに見えるのがアキナ神殿の連中が泊っている宿じゃないか?」
道を渡って100メートルも歩かず『黄鶴亭』の玄関前についた。
アキナちゃんを連れて宿の玄関に入ったら、アキナ神殿の神官服を着たおっさんが立っていた。
「ゼンジロウさま、アキナさまを送り届けていただきありがとうございます」
「うん。じゃあ、後は頼んだ。
アキナちゃん、それじゃあな。
そういえば明日の式が終わった後のことを忘れてたけど、どうする?」
「ゼンちゃん、明日の式が終わったら、わらわはこのホテルのロビーにいるのじゃ。式が終わったらなるべく早く来てくれるとありがたいのじゃ。爺たちは馬車でゆっくりバレンに帰るというておったから、放っておいても大丈夫じゃ。
そうじゃったよな?」
「はい。アキナさま」と、アキナちゃんを迎えに来た神官。
「了解。
式典が長引くことはないと思うけど、もし長引くようなら、ゼンジロウ1号と交代するから大丈夫だ」
「あなうれしや」
「それじゃあ」
アキナちゃんをアキナ神殿の神官にあずけて、俺は屋敷に帰った。
俺の部屋は前からエアコンが付いていたが、その日アスカたちのおかげでほとんどの部屋にエアコンが設置された。
そして翌日。
朝食を済ませた俺は、他所行きっぽい服に着替え約束の8時の10分前にオストラン神殿の裏庭に跳んだ。今日はアスカ1号を護衛として連れてきている。アスカ1号の今日の格好は、いつもと変わらず、真っ黒なダンジョンスーツの上に赤茶けた革の防具を着けたものだ。護衛護衛したアスカ1号を連れ歩くと、ちょっとだけ箔が付くと思ったからだ。
今日はアスカ1号には武器として、アイテムボックスの中に入っていたメイスを渡している。俺たちのダレン南ダンジョンで見つけたものなので、おそらくマジックアイテムと思うが、どういった魔法効果があるのかは使ったことがないので全く分からない。呪いがかかっていたらアスカ1号に何が起こるか分からないと思い、エリクシールを1滴垂らしたのだが、これといった変化はなかったので、呪いの類はかかっていなかったようだ。
アスカ1号から見ればメイスなど邪魔なだけだろうが、丸腰だと威圧効果が全くないので、抑止力にならないから仕方ない。
跳んだ先には、ローゼットさんと侍女が2名ほど俺を待っていてくれた。他に神殿兵たちが3人一組になって何組かそこらを巡回していた。
「おはよう」
「「おはようございます」」
「それでは陛下、控室はこちらです」
ローゼットさんたちに先導される形で神殿の中に入り、おそらく大ホールに続く部屋に通された。俺の後ろにはアスカ1号が付き従っている。アスカ1号もアスカ2号と同じように俺の後ろを歩きながら左右90度顔を動かしていた。屋敷の中を巡回する時はそんなことをしていないのだが、謎である。別の意味で威圧感が出ているのでいいだろう。もしかしたらそれを狙ってのパフォーマンスなのかもしれない。
部屋に到着する前に侍女たちは「失礼します」と言ってどこかに行ってしまった。
部屋の中には丸テーブルが一つと、その周りに椅子が3つ置かれていた。
ローゼットさんに椅子を勧められたので、座っていたら、先ほど別れた侍女たちがワゴンを押して部屋の中にやってきてお茶の準備をしてくれた。
「どうぞ」
「ありがとう。そこに立っているわたしの護衛は飲食できないので」
「「は、はい」」
「今日のアスカさんは鎧姿ですし、ちょっと雰囲気が違いますね」と、ローゼットさん。
「いつも連れていたのはアスカ2号で、今日のアスカはアスカ1号といってアレとは違うんです。顔かたちは全く同じなんですけどね」
「双子ですか?」
「もう一体アスカ3号もいるので、三つ子なんです」
「そ、そうなんですね」
「アスカたちは今のところ飲食できないんですが、改造すれば飲食できるんです。こうして一人だけお茶も飲めずにいるのはかわいそうでもあるので、飲食機能を付けてやってもいいんですが、急ぐほどのことでもないから、そのうちかな」
「改造?」
「改造できるんですよ。ゴーレムですから。
ただのゴーレムなら、改造とか面倒なことをせず新しく作るんですが、アスカたちは超高性能ゴーレムですから」
「な、なるほど」
ローゼットさんに、ゴーレム使いの機微が分かってもらえたかどうかは分からないが、いずれ彼女も俺の言葉の意味を知ることになるだろう。んなことはないか。




