第364話 ゼンジロウ1号1
クリスマス・イブが終わり今日はクリスマス。クリスマスだからといってそこらの日本人同様うちでは特に行事を予定しているわけではない。夕方までにアキナちゃんを都の『黄鶴亭』とかいう宿に送り届けるだけだ。
本当は都の見物をしようと思っていたのだが、後ろに美人美少女を8人だか9人ぞろぞろ従えて、さらにお上りさんよろしく街中をキョロキョロしながら王さまが歩いていては、後日妙な噂が立ってしまいそうなので、見物は諦めることにした。王さまになってしまった以上やむを得ないのかもしれない。これから先、都に限らずバレンでもうかつにフラフラと歩き回れなくなってしまったことは誤算だった。
俺は王さまなんだし、王さまに似た人が街を歩いていても、知らないふりをするようにお触れを出してやろうか。
それがだめなら、貧乏貴族の三男坊、その名も『ゼンさん』だと、しらを切ってやるか。
あっ! 思い出したけど、日本からの視察団を引見する時は誤魔化せるかもしれないが、春には国賓として日本に招かれる。そうしたらテレビにも映るだろうし俺のことがオストラン王国の王さまだということが日本国中に知れ渡ることになる。
そうしたら、うかつに隣町のデパートなんかで、おばさんたちに交じって北海道物産展の弁当なんぞ買えやしないぞ。セレブの気持ちが少しだけ分かったような。
オストランから送る視察団は日本人から見れば外国人なのに、俺はどこからどう見ても日本人だ。ゼンジロウという名前は世界中で日本くらいにしかない名まえだろうし、今の日本じゃそんなに多い名まえじゃないから、D関連局をはじめ自衛隊の人は間違いなく俺だと気付くよな。しらを切り通す自信はさすがにないぞ。
俺がコタツに入って、ミカンを食べながらぼんやりそんなことを考えていたら、アスカ3号がやってきた。
「マスター、注文していたエアコンが届きましたので、1階の応接室と絵画室。2階の各部屋、屋根裏部屋に順に設置していきます」
1階の応接室と絵画室のことは失念していたのだが、ちゃんと考えていてくれたようだ。
アスカたちが取り付け作業もできるので、エアコンは一つ買えばあとはコピーで済ませられたのだが、マンションに物品を届けてもらえるようになった関係で、必要数量購入している。大きなものなら俺がアイテムボックスに入れて運んだ方が早いし簡単だが、今回のエアコン程度ならアスカたちで運べるはずだ。
「よろしくな」
「はい」
応接室と絵画室のエアコン用の孔空けだけ手伝ってやれば、エアコンの設置はアスカたちに任せておけば大丈夫だ。能力的には俺も含めてそこらのおっさん以上なことは確かだ。
超高性能ゴーレムアスカをコアに創らせたのは大正解だった。見た目は全くの人間でしかも有能だ。
うん? 待てよ。全くの人間ということは通常では人間そのものと区別できないわけで、これは人間だと言ってしまえば人間だ。一歩進めて、誰かにそっくりなゴーレムを作ってしまえばそいつは完璧とは限らないが、十分ちゃんとしたコピーだ。
自分のコピーを勝手に作られたら本人はビックリするし怒るだろうが、本人が納得していればコピーが何体いてもいいものな。
素晴らしいことを思いついてしまった。コタツから出て靴を履き、応接室と絵画室のエアコン用の孔だけ空けてやって、さっそくコアルームに跳んだ。
「コア、頼みたいことがある」
「マスター、何でしょうか?」
「俺そっくりなゴーレムを作ってもらいたいんだ」
「マスターのスキルをマネすることはできませんので見た目だけ似せればいいですか?」
「スキルはいいけど、日本語とニューワールドの言葉が話せて、声は俺と同じにしてくれ。それと、俺が今持っている知識をそのまま持たせてほしいんだ。できるかな?」
「可能です」
「身体能力はいかがしましょう?」
「戦うことはないはずだから、アスカほど高い必要はない」
「了解しました。
マスターの知識を精確に読み取りますから、わたしの上に片手でいいので手のひらを置いてください」
コアの上に右手を乗せたところで、
「それでは、製作開始します。10分ほどで完了します」
録音した自分の声を聞くとこれが自分の声と思うとさみしい思いをするのだが、でき上った俺のコピーの顔を見て声を聞くともっとさみしい気持ちになるんだろうなと思ってしまった。とはいえ、華ちゃんたちは年がら年中俺のこの顔を見て、俺の声を聞いているわけだから今さらだ。と、思うしかない。
そろそろ10分かな、と思ったところでいきなり俺の目の前に地味な服を着たおっさんが立っていた。着ている服は俺と全く同じだ。おそらく下着も同じなのだろう。
見た目は鏡に映った俺なのだが、3D化してしまうと鏡の中の俺とは雰囲気が全く違う。しかも、ゴーレム善次郎の目は元気ないというか、死んだ魚のようだ。アスカがあれほどカッコよかったのにこの差はなんでだ? 土台が悪すぎたということなのか? 冷静に考えればそう考えるしかないんだろうな。
「お前はゼンジロウ1号だ」
取りあえずゴーレム善次郎に名まえを付けておいた。
「はい。マスター」
ゼンジロウ1号をフィギュア化したら相当エグイものができ上がるような気がふとしたのだが、さすがの俺もその冒険はしないでおこうと心に決めた。
「ゼンジロウ1号、アイテムボックスに収納するからな」
「はい」
ゼンジロウ1号を収納した俺は直接屋敷の俺の部屋に跳んだ。ゼンジロウ1号の性能試験をするためだ。
まずは、うちの連中がゼンジロウ1号をゴーレムだと見破るかだ。
ゼンジロウ1号をアイテムボックスから出して俺の正面に立たせ、
「ゼンジロウ1号、屋敷の中を回って誰でもいいから声をかけて、この部屋に連れてきてくれるか?」
バーン。
俺が話している間に、部屋で突っ立っていたゼンジロウ1号が何も言わないまま、大きな音を立てて床にうつ伏せになって倒れてしまった。そのまま微動だにしない。
しまったー! ゼンジロウ1号はアスカたちと違い廉価版のゴーレムだから、ダンジョンの外では活動できないんだ。鼻を打ったかもしれない。
創り直しだ。
俺は床に伸びてしまったゼンジロウ1号をアイテムボックスにしまってコアルームに跳び、ゼンジロウ1号がダンジョン外でも活動できるよう高性能化を頼んだ。
「完成するまで1時間かかります」
ダンジョンの中なのでゼンジロウ1号も意識があるのだろうが、俺が収納して排出した時のままコアルームの床の上に寝っ転がって床を見ている。自分にうり二つのものをこうして改造するのは精神衛生上よろしくないような。
1時間もゼンジロウ1号を見ていても仕方がないので、
「1時間したらゼンジロウ1号を受け取りにくる」
そうコアに言って、俺は屋敷に戻った。
先ほどは、性能試験のためゼンジロウを屋敷の中に放とうとしたのだが、よく考えてみたら、超高性能アスカたちならゼンジロウ1号が俺の偽物だと簡単に見破ってしまいそうだし、不審者として取り押さえられるか、まかり間違えれば破壊されてしまうところだった。
時間つぶしに敷地の中を巡ってプロパンガスのボンベにガスを補充してやった。いらなくなった灯油タンクからは灯油を抜いておいた。
敷地の点検を終えて玄関ホールに入ったところで、ちょうどアスカたちがゆらぎの中からエアコンの箱を抱えてでてきた。
「俺そっくりのゴーレムを今コアに創らせているから、もし俺そっくりのゴーレムがそこらを歩いていても、不審者と思って捕縛したり壊したりしないようにな」
「了解です」「はい」「はい、マスター」
アスカたちには不審者を見つけたら可能なら捕縛するように言っているけど、華ちゃんたちには何も言っていない。そう考えるとアスカたちよりよほどあの二人の方が危険だ。
キリアは屋敷では裏で剣の素振りをするときくらいしか剣を手にしてないけど、華ちゃんはどんなときでも見敵必殺と考えると、うちでの危険度ナンバーワンだ。さすがに怪しいからと言って出合い頭に吹っ飛ばしたりはしないと思うが、さっきみたいに俺そっくりのゴーレムを創ったとちゃんと教えておかないとな。
そういう意味での性能試験は諦めて、昼食時にみんなに話しておこう。




