第362話 善次郎のクリスマスイブ1
みんなにクリスマスプレゼントを用意しよう。と、思いたって隣町のデパート横の道に跳び、そこから出入り口のある表に回った。
俺らしく急に思い立ったのでクリスマスプレゼントに何がいいのかもちろんノーアイディアだ。小さな子どもなら銀色の長靴に入ったお菓子でいいんだろうが、まさかうちのみんなにそれを渡すわけにもいかないし、どうしたものか? デパートの中を見て回ればそれらしいものが見つかるだろう。
デパートの店内からクリスマスソングが通りに流れ出て、店の内外は赤と白と金と銀で飾りつけられハデハデになっている。かなり混み合った店内に入っていくと妙に場違いな自分を意識してしまった。
良ーく考えたら、俺って、日本に32個あると思われているダンジョン全てのオーナーなわけで、しかも一国の王さまだ。超VIPではあるが、超場違い人間だ。
その超場違い人間がクリスマスイブのデパートの人混みの中で、女子に渡すクリスマスプレゼントを何にしようかとたった一人で考えながらうろうろしているシチュエーション。実にシュールだ。
しかも俺の着ている服は屋敷で着ていた普段着のままで季節的にもちょっとズレた軽装だ。店内が暖房されていようと、見た目はけっこう寒々しい。ここが都心のデパートではないにせよ場違い感が半端ない。今はギガからテラの時代なので、テラ場違いだ。
善次郎、ここは逆に考えるんだ。俺が場違いなわけではなく、このデパートと客が場違いなんだ。
何をどう考えようがこの状況がどうなるわけでもなく、俺は逃げるようにしてなんとかエスカレーターにたどり着き上の階に上っていった。
下りエスカレーターに乗って下りてくる人がみんな俺を見ているような気がする。俺ってこれほど自意識過剰だったのか?
エスカレーターの降り口の天井からぶら下がったその階の商品の説明を見上げて読みながらエスカレーターを乗り継いで上の階に上っていったら、とうとう最上階のレストラン街に着いてしまった。
レストランを見て回っても仕方ないので、1階分下に下りて、そこでやっていた北海道物産展の中に入って何となく見て回っていたら、駅弁大会と称して駅弁を十数種類売っていた。おばさんたちが大勢売り場を囲んでいたし、駅弁の数も少なくなっていた。
気づいたときには『いかめし弁当』を人数分両手に抱えていた。
恋人からクリスマスプレゼントとして『いかめし弁当』を渡されれば、ドン引きというか関係解消だろうが、俺がプレゼントを渡す相手は一応みんな家族だし、クリスマスプレゼントをあげた、貰ったという実績にはなる。ハズだ。
今回生まれて初めて支払いにクレジットカードを使ったのだが、案外便利だった。
俺のクレジットカードはプラチナカードでそれほど珍しくはないのだろうが、数年後、最上位カードが手に入ったら、そこらのお店の店員は驚くかもしれない。とか、庶民感覚丸出しのことを考えてしまった。ただ、この調子で年間1、2億使えるかというとはなはだ疑問だ。
駅弁を買った後、地下までエスカレーターで下がってみたがこれといったものはやはり見つからなかった。再度エスカレーターに乗って上の各階を見て回ったのだがどうもピンとこない。
結局、デパートの中を上から下まで3往復してしまった。往復するたびに北海道物産展で駅弁を買ってしまい、結局弁当を買っただけで俺はデパートの階段の踊り場から屋敷に帰った。
ちなみに追加で買った駅弁は『かにめし弁当』と『身欠きにしん弁当』だ。
「ただいま」
「お帰りなさい、マスター」
俺が現れた玄関ホールにはちょうどアスカ3号がいた。
知らぬ間にかなりの時間デパートにいたようだ。そういえば昼食を食べることもすっかり忘れていた。不思議と腹は減っていなかったので、俺はそのまま風呂に入ることにした。
俺が風呂から出たあと、みんなが順次風呂に入った。華ちゃんたちも今日は食事の前に風呂に入った。今日の夕食後、居間のコタツの上にアスカたちがデコレーションケーキを用意するということだったので、俺は邪魔にならないように自分の部屋に引っ込んでおいた。
エヴァが6時過ぎに部屋にやってきて、夕食の準備ができたので食堂に下りてくるよう呼んでくれた。
「エヴァ、サンキュウ」
俺はエヴァに礼を言って1階に下り、洗面所で手を洗って居間に入ると、みんな揃って座っていた。
「みんな、遅くなって悪かった」
「みんなが早く席に着いただけなので、岩永さんが遅れたわけじゃないから安心してください」と、華ちゃん。
席に着いた俺は、
「それじゃあ、さっそく、い……」
「岩永さん、『いただきます』の前に。
メリークリスマス」
「メリークリスマスなのじゃ」
「「メリークリスマス!」」
「そうだった、メリークリスマス」
俺がメリークリスマスと言うか言わないかで、なぜかみんなが立ちあがって、俺の座っている席にやってきた。
「岩永さん、もう一度メリークリスマス。どうぞ」
華ちゃんは手に持った小箱を俺に差し出した。
俺は椅子から慌てて立ち上がってその小箱を受け取った。
「ここで開けていいのかな?」
「もちろんです。月並みですが」
ピンクのリボンのついた包装を開けて小箱を取り出し、箱の蓋を開けたら、中から万年筆が出てきた。
「王さまだから、サインすることも多くなるかなーって」
オストランはハンコ文化だったのでサインの機会はそこまで多くないかもしれないが、筆記用具はボールペンと鉛筆しか持っていなかったのでありがたい。万年筆を箱と一緒にアイテムボックスにしまって、
「華ちゃん、ありがとう」
プレゼントを貰って嬉しいのだが、この調子だと全員が俺にクリスマスプレゼントをくれそうだ。




