第360話 送り届ける。
楽園から、300階段を下りた先は大空洞だった。
大空洞をゴーレム白馬とゴーレム列車の先頭車両からなる白馬の騎兵隊となった俺たちは、コアに向かって飛んでいるはずのピョンちゃんの後を追って進んでいったところ、地獄めぐりに出くわしてしまった。
「将来的には、この辺りに温泉旅館を建ててやりたいな」
「このダンジョンでこういった場所があったってことは、Zダンジョンでも岩永さんがその気になれば大空洞の中にこういった場所を作れるんじゃないですか?」
「俺はZダンジョンのダンジョンマスターだものな。このダンジョンの利用法を考えても仕方なかった。
今回は、ちょっと中途半端だが、そろそろ屋敷に帰ろう」
その日の探索はそこまでにして、ゴーレムたちをしまって屋敷に帰った。
その日は屋敷に帰って、いつものように風呂に入り、夕食を食べ久しぶりに金の錬成をした。金の錬成はあまりしていないのだがそれでもだいぶ溜まっていた。今さら金を売ることはないので、素材ボックスに突っ込んでおき、気持ちよく眠った。
翌日の昼食後。
俺はアキナちゃんを連れてアキナ神殿の大ホールに跳んだ。そこから神殿の侍女に案内されて表に出たら、馬車が2台並んでいて、大神官の爺さん他、神官と巫女が5、6人馬車の前に立っていた。
「ゼンジロウさま」
「さま?」
あれ? 俺はゼンジロウ殿と呼ばれていたのだが、バレンの街にも俺がこの国の王さまに成ったことが伝わってきてたか。
「ゼンジロウという名の人物が聖剣を石より引き抜き、成王の試合に見事勝利してオストランの王となったという知らせを今朝受けました。
成王の試合に勝つ人物、しかも名まえがゼンジロウとなると、ゼンジロウさましかおりませぬからな」
「そういえば、爺にはゼンちゃんがこの国の王さまに成ったことは伝えておらんかった。試合はあっけなかったぞ」
「ゼンジロウさまが、人と戦えばそうなるでしょうな。
陛下にこんなことをしていただいてよろしいのか分かりませんが、ゼンジロウさま、よろしくお願いします」
「気にしないでください。
じゃあみんな、馬車に乗ってください」
神殿の連中が馬車に乗り込み、大神官も馬車に乗ろうとしたところで、アキナちゃんは馬車に向かわず俺の隣りで突っ立っていた。
「アキナさま、いかがしました?」
「わらわは式の前日ゼンちゃんに送ってもらって爺たちと合流するつもりじゃ。爺たちは先に宿に入ってわらわを待っておれ」
「分かりました。
それでは、ゼンジロウさま、お願いします」
大神官が馬車に乗り込み扉を閉めたところで、
「それじゃあ、1台ずつ転移」
馬車1台に2頭の馬が繋がれているのだが、いちおう繋がった1セットと認識できて都の手前の草地に転送できた。
2台目も同じように転送して、最後に俺はアキナちゃんを連れて馬車の隣に転移した。
草地の上だったが馬車の車輪が埋まることもなく、馬車は草地から街道に出ることができた。
そこで、大神官が馬車から降りてきて、
「ゼンジロウさま。わたしたちの宿は、このまま都に入り、王宮に向かって30分ほど進んで通りの左側に面した『黄鶴亭』という名です。オストラン神殿の少し先ですからすぐわかると思います。アキナさまをよろしくお願いします」
「了解。前日の夕方までにはアキナちゃんを連れていきます」
「よろしくお願いします。
それではアキナさま、3日後に」
「じゃあな」
大神官が馬車に乗り込んで、2台の馬車は都の門に向かって動き出した。
「それじゃあ、帰ろうか」
「ゼンちゃん、今日は済まなかったな。
王さまを足に使うとは、爺たちも偉くなったものじゃ、ヒャッヒャッヒャ」
アキナちゃんを連れて屋敷に帰ったところ、ちょうどツインテールで作業用のツナギを着たアスカ2号?が玄関ホールに入ってきたところだった。もちろん作業用のツナギは俺が買い与えたものではないので、アスカ3号がネットで買ったか、ワーク〇ンに出向いて買った物だろう。ツインテールにしているのはアスカ1号もそうだが、アスカ1号はダンジョンスーツをいつも着ているので目の前のアスカはアスカ2号のハズだ。
そのアスカ2号は道具箱のようなものを手に下げていた。
「マスター、アキナさん、お帰りなさい」
「ただいま」「ただいまなのじゃ」
「マスター、コアルームの発電所は無事稼働し、先ほどケーブルをこちらの発電小屋の配電盤に繋げました。5分ほど屋敷の電気を落としましたが、屋敷内の電気が落ちることを周知させるためアスカ1号に屋敷の中を回らせていますので、問題は発生していないと思います」
「できたか。
じゃあ、エンジン発電機は予備ということになるな」
「発電所の4台の発電機は自動同期投入装置を取り付けましたので1台ずつでも、2台並列、3台並列、4台並列どういった組み合わせでも運転できるようになっています。現在は1号機だけの運転で、しかもかなり低負荷な運転で間に合っていますので、エンジン発電機は停止しました」
アスカたちは相当な作業をしたようだが大したものだな。
「それでいいか。
何であれエアコンを各部屋に取り付けられるな」
「はい」
「そしたら、アスカ3号に言ってエアコンを購入し、各人の部屋からこの前取り付けた石油ファンヒーターをエアコンと取り換えてくれ」
「はい」
「設置は1号、3号にも手伝ってもらえばいいからな」
「はい」
アスカたちは本当に有能だな。
待てよ。この調子ならこの屋敷のリフォームもいけるんじゃないか? いやいや、コアルームの脇にどんどん部屋を作っていけば、窓と太陽の光はないが立派な部屋だし、エアコンは不要だし、そっちの方がいいか。
それにワイファイの電波が届くよう中継器を置くなり、LANケーブルを這わすなりすれば、パソコンも使えるからな。ただ、素人の俺が考えるより、こういったことがしたいとアスカズに頼めば、適当な方法で実現してくれるだろうから、これからはそうしていこう。
旅館名は、崔顥の『黄鶴楼』からとりました。
李白の『黄鶴楼にて孟浩然の広陵に之くを送る』という漢詩もありますが、わたしは崔顥の『黄鶴楼』の方が好みです。




