第357話 ミニ発電所。スペキュレーターA3。
防衛省での会議を終えて俺は華ちゃんを連れて屋敷に帰った。
華ちゃんは普段着に着替えると言って2階に上がっていった。俺は余所行きの上着をその場で脱いでアイテムボックスに収納して、代わりに普段着にしている上着を取り出し着ておいた。
それから俺は、アスカ2号を屋敷の中で探したところ、アスカズの部屋の中で、どこで購入したのか分からないがスチール製の棚を組み立てていた。
「おっ! アスカ2号、棚が欲しかったのか?」
「はい、電気工事用の資材を整理しておく専用棚を用意しました」
「なかなかいいぞ。
ところで、アスカ2号、電気工事関係はだいぶ勉強が進んだか?」
「まだ完全ではありません」
それはそうだ。現実の電気関係の課題を何度もこなして、その都度必要な知識なり技術をネットや本で探して習得していかないと身に付くハズないものな。ということで課題をさっそく与えるとしよう。
「アスカ2号、発電機を貰ってきたから、設置を任せる。置く場所はコアルームの隣りだ。
これから、コアルームに一緒にいこう」
「はい」
アスカ2号を連れてコアルームに跳んだ俺は、コアに、
「コアルームの隅に作った連絡用の部屋で、残った壁の1面に扉を作ってその先に廊下を作ってくれ。その後、廊下の右側でも左側でもいいから10メートル四方、高さ4メートルくらいの部屋を作ってくれ。もちろん廊下から出入りできる扉もな。それでその一帯はコアルームの延長ということで、どこからでもコアに指示が出せるように頼む」
「了解しました。
完成しました」
「サンキュー」
「どういたしまして」
俺はアスカ2号を連れて、いつもの連絡通路の小部屋に跳び、そこに新しくできた扉を開けた。
俺は何も言わなかったが、その先の通路は、幅は4メートル、高さも4メートル、長さは50メートルほどあった。通路を5メートルほど進んだ右の壁に扉が付いていた。
扉を開けると、ちゃんと指示した通りの部屋ができていた。いつもの石造りのダンジョンの部屋と同じ大きさなのだが、部屋が金張りなので趣は全く異なる。
その部屋の隅に俺はメタルゴーレムコマを組み込んだ発電機が梱包された荷物を下ろした。
発電機の梱包だけをアイテムボックスに収納してやったら、発電機の上に説明書が置いてあった。なければ大変だったが、発電機はメーカーに作らせたはずなので、その辺りに抜かりはないようだ。
発電機に組み込まれているのは直径30センチのメタルゴーレム。30センチものの出力は130kWなので、屋敷の電力という意味では1台あれば十分なのだが、場所も空いているので、コピーしてもう3台部屋の中に置いておいた。これで520kW。同期させて運転とかいろいろ難しい点もあるのだろうが、アスカ2号に任せておけば大丈夫のハズだ。
「アスカ2号、この説明書を読んでこの発電機4台が使えるようにしてくれ」
「はい」
「この部屋からもコアに頼めるから、必要なものや、やってもらいたいことがあればコアに頼んでくれ。コアで作れないものとかは適当に外部に注文してな。
コア。そういうことだから、アスカ2号の依頼を聞いてやってくれ」
『はい、マスター』
コアの声が天井から聞こえてきた。
「アスカ2号、発電機が動くようになったら、ケーブルを屋敷の発電小屋に繋げてくれ」
「はい」
「コア。この部屋と発電小屋にケーブル用のゆらぎと黒板付きの小孔が必要になるからそこもよろしくな」
『はい、マスター』
「それじゃあアスカ2号、コア、頼んだ」
「はい」「はい、マスター」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
アスカ2号とコアに発電機のことは任せておいて大丈夫だろう。配電盤なんかも必要になるのだろうから発注することになるのだろうが、いずれにせよ今年中にはいい線いくと思う。
アスカ2号をコアルームの隣りに作った発電所に残して、俺は屋敷の居間に直接跳んで帰った。居間では、オリヴィアがキリアにピアノを教えていた。趣味としてキリアがピアノを弾くのはいいことだ。本人にその気さえあれば、今はネットで色々調べられるから他の楽器でもいいんだがな。例えばギターなんかもいいと思うのだが。
しばらくコタツに座ってキリアのピアノを聞いていたら、二人が昼食の手伝いをすると言って居間を出ていった。
それから10分も経たず昼食の準備ができたとエヴァが知らせてくれたので、食堂の席に着いた。
「「いただきます」」
食堂では、俺の右前のお誕生日席がアキナちゃんの席なのだが、そのアキナちゃんがかなり機嫌の良さそうな顔をして俺の方を見ている。
これは、何かいいことがあったのか? 何かを聞いてもらいたいんだなと気付いた俺は、素直にアキナちゃんに声をかけた。
「アキナちゃん、何かいいことがあったのか?」
「ゼンちゃん、よくぞ聞いてくれたのじゃ。
休み前に仕込んでおった株のオプションがハネたのじゃ」
「どういうこと?」
「休み前に、買えるだけ株のコールオプションを買ったのじゃ。オプションの買いには制限がないからの。朝からそのコールを売っておった。さっきようやく手仕舞い終わって、50億ほど儲けが出たのじゃ」
アキナちゃんの言っていることは、最後の『50億儲かった』だけ理解できた。これでアキナちゃんはトレードを始めて100億は稼いだんじゃないか? 富を集めるとか言っていたが、冗談事じゃなくなってきた。
「そういえば、ゼンちゃん」
「なに?」
「わらわ宛にヘッジファンド数社からメールが届いておった」
「ヘッジファンド?」
「わらわと同じように株や債券、為替、何でもいいから売り買いして儲けようとする連中じゃ」
「ふーん、それで?」
「そこからヘッジファンドのトレーダーにならないかと誘いがきたのじゃ。どうやら、誰かがわらわの個人情報を界隈に漏らしたらしい。漏らしたのは、わらわが使っておる証券会社の社員じゃろうな」
「それでどうした?」
「もちろん誘いは全部断った」
「いいのかい?」
「いいも何も、成功報酬で10パー、20パーとか言っておったが、わらわが自分の資金で儲ければ100パーわらわのものじゃ。赤の他人のために頑張ることなど、バカ臭いじゃろ?」
「確かに」
「とはいうものの、ヘッジファンドの発注に対して証券会社の設けておる発注制限や建玉制限はわらわのような個人に設けておる制限と比べかなり緩いのも確かなのじゃ。
なので、わらわも証券会社と交渉して発注制限や建玉制限を緩和させようと思うておる」
「そんなことができるのか?」
「できるじゃろ。交渉はエヴァに任せておるから今週中には結論が出るじゃろ。なにせ、相手は顧客情報を外部にリークしたわけじゃから、断り切れんじゃろ?
年が明ければ、大々的にトレード可能じゃ」
そう言ってアキナちゃんはニマニマではなく、ニヤリと笑った。なんとなく仕掛けが分かったような。
「お父さん、午前中その証券会社と交渉した感じだと売買量と建玉の上限はかなり広げられそうです。
それと、その証券会社にアキナちゃん専用の発注用パソコンをマンションに置かせて、専用回線も引かせるよう交渉してます」
エヴァが証券会社との交渉について説明してくれた。
証券会社から見て、一顧客が極端なリスクを取ることにおっかなびっくりかもしれないが、アキナちゃんが負けるはずはない。結局、証券会社は痛い目を見ることなく手数料で大儲けできる。1カ月もすれば分かってくるだろう。
「いろんな意味ですごいな」
みんなで協力してどんどん先に進んでいく。すごいな。
これは俺も父親としてうかうかしてられないぞ。と、思ったのだが、マズいことに俺自身うかうかしているのかどうかさえも分からないという。
「話は変わるけど、ここのところダンジョンに潜っていないから、明日は久しぶりにダレン北ダンジョンに潜って下層を目指してみるか?」
「はい!」と勢いよくキリアが返事した。キリアもアスカ1号相手の素振りばかりだったからヒマで、ピアノを弾いていたのかもしれないな。
「アキナちゃんは明日都合がつくのかい?」
「もちろんじゃ」
「華ちゃんは?」
「大丈夫です。
下を目指すとなるとピョンちゃんを連れていった方がいいですね」
「11階層や12階層なら階段を目指して本道を進む冒険者もいないわけじゃないと思うが、多くないと思うから連れていこう」
「はい。
やっぱりダレン北のダンジョンも20階層は大空洞でしょうか?」
「ダレン北ダンジョンなら20階層まで探索した冒険者はいそうだけど、そういった話はないんじゃないか?
誰か聞いたことあるかな?」
「わたしも聞いたことはありません」とはるかさん。
「ピョンちゃんの鼻がこっちのダンジョンでも利くなら1日あれば20階層までいけるんじゃないか」
「それもそうですね。
そう考えると、ダレン南でも階段を見つけられたのかも?」
「そういえばそうだな。それなら、先に俺たちのダンジョンを攻略した方がいいものな」
「ですよね」
ということで、明日はピョンちゃんを連れて俺たちのダンジョンを本格的に攻略することになった。もしピョンちゃんの鼻が利かないようなら、ダレン北に移動して、ピョンちゃんの鼻とは関係なく、そっちの攻略を目指してもいい。
明後日は、アキナ神殿の連中を都に運ぶ日だ。昼過ぎに迎えに行くと大神官の爺さんには言ってあるので、忘れないようにしないと。




