第355話 週明けの会議
オリヴィアのピアノコンクールも無事終わった。結果発表まで1週間もあるのでそれまで少し落ち着かない。
アスカ3号には、ピアノコンクールの主催者から電話連絡があるかもしれないと言っている。
ピアノコンクールの翌日の週末。王宮への出勤日だ。
まず護衛のアスカ2号を連れてオストラン神殿の大ホールに跳んで、ローゼットさんに中華街で買ったお土産の10個入り月餅を10箱渡した。
大型の月餅100個分なので結構重たい。そんなものを持って歩くわけにもいかないので、ローゼットさんは侍女を呼び、荷物を手渡した。
そのあとローゼットさんを加えて王宮に出勤した。跳んだ先は、俺の執務室。
アスカ2号は俺の横で立ったまま警護しているが、ローゼットさんには部屋の入り口に机を与えている。部屋の扉は常時開放しているため寒いかもしれないと思い、合間に一跳びして使い捨てカイロをスーパーで購入して与えている。俺自身はそんなに寒くはない。もちろん使い捨てカイロはコピーしているのでいくらでも増やすことはできる。
「陛下、おはようございます」
その日は早い時間でハンコ仕事が終わった。ローゼットさんが侍女にお茶の用意をさせるため呼び鈴を鳴らしたところで、ブラウさんが執務室にやってきた。ブラウさんに遠慮して侍女は執務室に入ってこなかったのだがブラウさんが気付いて招き入れた。
お茶の用意をするようローゼットさんに言われた侍女は一礼して部屋を出ていった。
「陛下、視察団の人選を終えました。
これが、リストです。
視察ですので、実務者ではなく官僚が主体となっています。後日、留学生を日本に派遣するにあたり、どの分野に派遣するべきかよく視察するよう指示しておきます。
ご確認いただき、エヴァ王女にお伝えください」
エヴァのことを王女さまと呼ばれてちょっとびっくりしたが、王女さまなのは事実だしな。
受け取った視察団の人選リストを見ると、官僚9名にエヴァを加えての10名。男女別ではエヴァを含め女性6名、男性4名である。エヴァを除く9名用に日本語スキルブックを忘れずに用意しないとな。
人についてはブラウさんに一任のつもりだったので、問題なし。
「いいんじゃないですか。視察団の9人には日本語のスキルブックを用意します。リストはこのままエヴァに渡しておきますから、日本政府にも伝わります」
「お願いします」
「了解しました。エヴァに伝えておきます。日本側も、その辺りを考慮して視察のコースを組んでくれると思います」
「よろしくお願いします。
それで、陛下にお願いがあるのですが」
「なんですか?」
「わが国にも大学はあり、それなりの専門教育を行なっていますが、公のものではありません。今後、日本からも学者を招聘して専門教育を授けるため、王都オストランに公の大学を作りたいのですがいかがでしょう? 分野的には理学、農学、工学、法学、軍学を考えています」
「それは素晴らしいことです。どんどん進めてください」
「ありがとうございます」
オストラン王国大学か。都のオストランを皮切りに王国の主要都市に大学を作っていけば、この国の近代化に必ず役立つ。オストランの次はバレンに大学を作ってバレン王国大学でもいいかもな。こうなってくると明治維新後の明治政府だな。周辺国はおとなしいそうだし、内乱もないわけだから、明治日本に比べればこっちの方が断然条件はいい。
「予算的な問題は大丈夫ですか?」
「幹線道の整備が完了しますので来春からはこういった方面への『投資』も可能と考えています」
「それならよかった」
はるかさんの学校を全国的に展開してもいいな。そのうち高等学校化して付属高校にしたりしてな。
「陛下にもう一点お願いがあります。
エドモンドⅠ世の即位100周年記念式典ですが、陛下が聖剣を石より引き抜き成王の試合に勝利して新たな王になったことを正式に国民に布告するわけですから、式典では陛下にも国民に向かってひとことお願いします」
これは断れないな。
「簡単でいいなら」
「よろしくお願いします。
それでは失礼いたします」
そう言ってブラウさんは安心したような顔をして俺の執務室から出ていった。
ひとことは、ひとことでいいのだろうが、俺は式の当日どこにいればいいんだろうか? 全く打ち合わせしていないのだが。
「ローゼットさん」
「はい」
「記念式典の日、わたしがひとこと言うのはいいんですが、いつ頃どこにいればいいんでしょうか?」
「申し訳ありません。お伝えしていませんでした。
陛下のお言葉は午前9時ころを予定していますので、当日8時ころに、控室にお入りください。
神殿の正面からは入りにくいでしょうから、どういたしましょうか?」
「それなら、8時に裏庭の石のある場所の近くに現れます」
「かしこまりました。そのころそこでお待ちしています」
これで仕事も終わり聞きたいことも聞いたから、俺はローゼットさんに告げて屋敷に帰ることにした。
屋敷に帰った俺は、エヴァを見つけて、オストランの視察団の視察希望先として、教育、土木関係、冶金、機械、電気、法律分野ということを日本側に伝えてくれるよう言ったところ、エヴァはさっそく外務省の世良事務官にメールしたようだ。
これで、日本側はこちらの希望する視察場所で適当なところを選定して視察団を案内してくれるだろう。
明日は防衛省との会議だが、発電機を所望してみよう。アスカ2号はもう十分電気工事士としての知識は持っているはずだから、電気工事に必要なものをホームセンターなりネットで揃えれば、何でもできるぞ。
そんなことを考えていたのだが、そこで俺はすごいことを思いついてしまった。
屋敷の中は、冬は寒いし夏は暑い。発電能力の関係で全部の部屋にエアコンは付けられない。今回は灯油のファンヒーターを導入したのだが、そもそも、ダンジョンの中にいればいつも快適な気温だ。俺が頼めば防衛省は発電機くらい譲ってくれるだろう。となれば、俺たちの生活の中心をダンジョンに移してもいいんじゃないか? 電気を使ったダンジョンの現代化だ。
今2メートル四方の連絡用の小部屋がコアルームにくっ付いているが、そこを起点に部屋を作っていけばいいだけだ。コアに頼めば部屋くらい作るのは簡単だ。
翌日。
週が明けて俺と華ちゃんは防衛省との今年最後の会議に臨んだ。今日は外務省の世良事務官が出席していた。
まず、防衛省からゴーレム発電機の量産目途が立ったということで、フィギュア状態のメタルゴーレムコマを直径10センチを1000個、20センチを500個、30センチを200個そして60センチのものを10個受注した。
「単価はそれぞれ、100万、800万、2700万、2億1600万。総額で100×1000+800×500+2700×200+21600×10=125億6000万。
いかがでしょうか?」
「もちろんそれでけっこうです。
その程度の数量なら、フィギュアゴーレム1000体よりよほど簡単なので、ポーションとフィギュアモンスターを卸すとき一緒に下に卸しておきます」
「はあ、それでお願いします」
直径30センチまでのものはダンジョン内で稼働する電気機械に直結して使用することを考えているそうだ。
直径60センチのもので電気出力1000kWを見込んでいるという話で、売電価格をkWhあたり10円としても単純計算で1時間当り1万円。単価2億1600万=21600時間=900日=約2年半フル稼働すればメタルゴーレムの元が取れる。
ダンジョン協会ではテスト的に60センチのものを2台直列にして発電機に繋げたものを5機並列にしてダンジョン内で稼働させて、ケーブルで外部に送電し売電する計画なそうだ。これがうまくいけば、さらに大型のメタルゴーレムコマを組み込んだ発電機を使い本格的な発電所を作るらしい。
防衛省からの説明の後、
「直径30センチのメタルゴーレムコマを組み込んだ発電機を1つ、譲っていただけませんか? もちろん有償で」
「そうおっしゃるだろうと思い、10センチ(4.5kW)、20センチ(36kW)、30センチ(130kW)のメタルゴーレムコマを組み込んだ発電機を下の駐車場の特設テント前に置いていますので、ポーションなどを納品されたら持っていっていただいて結構です。試作品をテストするという名目にしていますので、無償で結構です。発電機の据え付けや配線もこちらの技術者を派遣しますが?」
「ありがとうございます。
据え付け、配線などは、当方で何とかしてみます。もしダメなら、その時はお手伝いお願いします」
「ということは、電気技術者をお雇いになった?」
「雇ったわけじゃないんですが、身内で」
「ほう」
「ダンジョン内限定でも発電機ができることですし、向こうのダンジョンでも電気が使えると便利かなーと思いそういったことが器用にこなせる者が身内にいたもので、急遽勉強させました」
「なるほどと言っていいのか分かりませんが、すごいですね」
「はい。とても有能なんです。まっ、そういうことです。
こちらとして報告することは今のところそれくらいです」
俺の説明を理解できたのは隣りに座っている華ちゃんだけと思うが、この世にたった一人だけでも俺を理解している人がいるって、幸せだなー。




