第350話 スペキュレーター(投機家)A1
週が明けて、俺と華ちゃんで防衛省での会議に出席した。
防衛省からは、メタルゴーレムコマを組み込んだ発電機の試作品ができたと報告を受けた。直系20センチのメタルゴーレムコマで38kWの出力があったそうで、コマの機械出力の95パーセントを電力として取り出せたとのことだった。これ一個で一家族分だな。試作にあたったメーカーの技術者は大型化すれば、おそらく97パーセントまで効率が上がると話しているということだった。
外務省関係は、エヴァが外務省側と交渉中なので、俺の方は特に報告することはなかった。
会議を終えて屋敷に帰ったら、居間には相変わらず誰もいなかった。
2階に上がったら、アスカ3号が屋根裏部屋から下りてきた。
「金銭消費貸借契約書を作りましたので、日付とマスターの名まえをお願いします。本来ハンコは必要ありませんが、印紙も貼っていますので署名の横と印紙の上に消印としてハンコをお願いします」
アスカ3号に渡された契約書にはちゃんとアキナちゃんの名まえがボールペンで書きこまれていて。名まえの横と、印紙の上にはハンコがすでに押してあった。俺も自分の名まえを書き込んでハンコを名まえの横と印紙の上に押した。
「アキナちゃんのハンコは?」
「アキナさんのハンコは三文判を購入しています」
大したものだな。
「俺が契約書を預かっておけばいいな?」
「はい。お願いします」
でき上った契約書はアイテムボックスの中に預かっておいた。
「アスカ3号、ご苦労さま。
アキナちゃんは?」
「屋根裏部屋でさっそくトレードを始めています」
「じゃあ、いってみよう」
屋根裏部屋に上がっていくと、アキナちゃんの座っている椅子の周りにエヴァたち4人が集まって、アキナちゃんの机の上のモニターを眺めている。
アキナちゃんは3つあるモニターのうち、左のモニターに株価のチャートのようなものを表示していて、右のモニターにはニュースらしきもの、正面のモニターには表のようなものを表示していた。
真面目な顔をして取り組んでいるのかと思って横顔を見たら、いつものニマニマ笑いだった。
俺が屋根裏部屋に入って来たことに気づいたエヴァたち4人が、
「「お父さんおかえりなさい」」と言って迎えてくれたが、アキナちゃんはモニターを見ながら、キーボードをパチパチパッチーンと叩いて、やっと俺の方を向いた。
「ゼンちゃんお帰りー」
「ただいま。
売ったり買ったり始めたそうだが、どうだ?」
「思った以上に儲かっておらんな。
始めて30分も経っておるのに、まだ5百万しか儲かっておらんのじゃ」
「元手が1億円で30分で5百万ならすごいじゃないか」
「もう少し相場が動かんと、儲けしろが少のうて、間尺に合わんのじゃ。
おっと、失礼」
そこでアキナちゃんはモニターを見ながらまたキーボードをパチパチパッチーンと叩いた。
「これで利益確定なのじゃ。
これでやっと1千万なのじゃ」
ビギナーズラックがあるから適当にやらせておけばいいと思っていたが、とんでもない能力がアキナちゃんにあった。というか、神さまの力を使っているんじゃないか? それって反則? ってことはないか。
しかし、株ってそんなに短時間で儲かるものなのか?
「アキナちゃんはいま何を売り買いしているんだ」
「勝負の着くのが早そうな株の先物を手始めにやっておるのじゃ。元手が1億しかなかったから、儲けもそれ相応で、富を集めているとは言えんのじゃ。午後からは国債の先物で勝負なのじゃ」
確かに1億円では少なかった。先物などで大損すると元金の何倍も損するというから限度はあるが、100億くらいはへっちゃらだろう。
「わかった。なら、もう100億アキナちゃんにお金を貸してやることにするよ」
「ほう。あな嬉しや」
「1億の契約書を作ったけど、面倒だから金額を訂正して100億にしておくな。
アスカ3号、そうすると印紙代はいくらだ?」
「契約金額が50億円以上は60万円です」
さすがアスカ3号。何でも知っているな。
「いえ、何でもは知りません、知っていることだけです」
どこかで聞いたことのあるようなアスカ3号の答えを聞いて、俺は俺のスマホをアスカ3号に渡し、
「俺の銀行口座からアキナちゃんの証券口座に99億振り込んで、それから郵便局にいって60万円分の収入印紙を買ってきて契約書を新しく作ってくれ」と、言いつけた。
「先ほどの契約書に貼った印紙は6万円で、金額訂正をしますから、差額分54万円分印紙を買ってきます」
俺はさっきの契約書とハンコをアイテムボックスから取り出してアスカ3号に渡しておいた。
30分ほどでアスカ3号が戻ってきて、ハンコと一緒に訂正された契約書を俺のところに持ってきたのでアイテムボックスにしまっておいた。
税務署が来ることはないだろうが、こういったところはちゃんとしていた方がいいからな。
それからすぐに昼食になった。アキナちゃんもちゃんとお手伝いをしたようだ。
「「いただきます」」
「アキナちゃん、どうだった?」
「結局、1千万ちょっと儲かったところで手じまったのじゃ」
「ほう」
「午後からは、100億を使って大勝負したいところなのじゃが、10億円で国債の先物を3000枚しか建てられんのじゃ。残念じゃがそれくらいで許してやるのじゃ」
アキナちゃんが何を言っているのか分からなかったが、アキナちゃんはさらに、
「たかだか3000枚でも値段が1銭動いたら3千万円の儲け《・》が出るのじゃ。10銭は取れるじゃろうから、昼からは最低3億の儲けじゃな」
俺は相変わらずアキナちゃんの言っている意味が良く分からなかったが、相当すごそうだ。しかし、思っていたのと逆に値段が動けば損が出るのではないだろうか? ただ、相手はアキナちゃんだ。アキナちゃんが損することなど俺には想像できない。
「アキナちゃんは株はしないのかい?」
「株の先物は同じ10億で600枚しか建たんのじゃ。10円の値動きで600万円の益しか出んのじゃ」
「ふーん。
為替は?」
「わらわは24時間戦えないのじゃ」
「なるほど。
面白そうだから午後から俺も後ろからアキナちゃんを応援するよ」
「神のトレードをよーくその目に焼き付けてておくのじゃ。フッ、ファッファッファッファ」
……。
昼食のデザートはプリンにしておいた。後片付けを手伝ったアキナちゃんはすぐに上に上がっていったので、俺も一緒に屋根裏部屋に移動した。
アキナちゃん以外の子どもたちは午後からそれぞれパソコン以外の用事をしているみたいで、午後からの屋根裏部屋はアキナちゃんと俺だけだった。この週末にはピアノコンクールの全国大会なので華ちゃんはオリヴィアについているのだろうし、キリアは素振り、イオナは絵画部屋、エヴァはマンションにいってメールか電話で打ち合わせでもしているのだろう。
屋根裏部屋には暖房器具を置いていないので、少し肌寒い。一心同体の4人はあまり気にならないだろうが、他の連中には肌寒いでは済まないだろう。暖房といっても屋根裏部屋はだだっ広い上に仕切りもないのでなかなか難しい。ストーブの類を入れるしかないな。
実際の先物取引での建玉上限は証券会社によって異なりますが、この10分の1以下と思います。




