第344話 視察団担当2
昼食が終わり、デザートの今川焼きを食べてから、しばらくしてエヴァが余所行きを着て居間に下りてきたので、エヴァを連れて宮殿の玄関ホールに跳んだ。玄関の前には衛兵が立っているのだが、玄関ホールの内側には誰もいなかった。
そのまま俺はブラウさんの執務室にエヴァを連れて歩いていき「ゼンジロウです」と言って部屋の扉をノックした。
部屋の中から、いつも俺の執務室に書類を届けてくれている神官のおじさんの声で、
「どうぞ」という声と同時に扉が開かれた。
部屋の奥の執務机から立ち上がってブラウさんが、
「陛下、急にお越しになり、いかがしましたか?」
急に王さまが現れたら、危急の用件かも知れないと思って驚くよな。
「驚かせてすみません。危急、緊急の用件というわけじゃないんですが、早めにブラウさんに知らせておこうと思って」
俺はそこで日本政府にオストランから視察団を派遣する了承を得たことと、日本政府の担当者と打ち合わせをするため、こちらの担当者として、俺の娘のエヴァを充てることをブラウさんに知らせておいた。
先日の祝宴で顔を合わせたと思うが、正式には紹介していなかったハズなので、
「娘のエヴァ・イワナガです」
「エヴァ・イワナガです。よろしくお願いします」
「陛下のもとで宰相を務めさせていただいているブラウです。こちらこそ」
「視察団の派遣は年が明けてになりますが、視察先の要望と10名ほどの人選を早めにお願いします。
10名には日本語スキルのスキルブックを使わせますから言葉については心配ありません」
「了解しました」
「そうそう、この関係でエヴァとブラウさんとの間で連絡を取り合う必要があるでしょうから、手紙はわたしが運びますから。
エヴァもそういうことだから」
「恐縮です」「はい」
ブラウさんには用事が終わったのでバレンに帰ると告げて部屋を出たのだが、せっかくなのでエヴァを俺のプライベートルームに連れていった。
「ここが王さまの執務室なんですね。すごいなー」
「部屋は立派だけど、やってることはハンコを押しているだけだ」
「王さまの仕事は、それでいいと思います」
「そうなんだろうな。
これからこの国と日本は結びついていくだろう。
その中でのエヴァの役割はすごく大きいと思うんだ。
思ったことがあればどんどんやっていってくれ。全面的に応援するからな」
「お父さん、ありがとう。
わたしも大きくなったらこんな部屋で仕事したいなー」
「マンションには机とパソコンを用意したから、パソコンに慣れさえすればきっとマンションで仕事した方がはかどると思うぞ。明日防衛省で顔合わせが終わったら、マンションに跳んでパソコンを見てみよう。午前中に回線もつながると思うから、そうしたらパソコンが使えるはずだ。もっとも、セットアップしないといけないんだが、そこはアスカがやってくれるだろう」
「アスカがマンションにもいるんでしたね」
「アスカ3号だ。
エヴァも向こうに行って用事があるなら、アスカ3号に頼んでいいんだからな」
「はい」
そんなところで、俺たちは屋敷に帰っていった。
翌日の防衛省の会議。
視察団の担当者ということで、エヴァも連れて会議に臨んだ。
「おはようございます。
視察団のオストラン側の担当者ということで、この岩永エヴァを連れてきました」
「岩永エヴァです。よろしくお願いします。
野辺次長さん、先日はわたしたちの帰化の手続きなどありがとうございました」
「いえいえ、どういたしまして」
「外務省の担当は、わたくし、世良が担当させていただきます。エヴァさん、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「電話連絡できた方がいいでしょうから、わたくしに直通のスマホを用意しましたので、お使いください。画面の上にアヒルさんマークがありますから、そこをタップしていただくと電話が繋がります」
世良事務官が、エヴァにスマホを渡した。エヴァはスマホは使ったことはないだろうが、エヴァなら5分もあれば使えるようになるだろう。固定電話は無駄になるかもしれないが、何かの役には立つだろう。
俺の方は、先週コアに用意させた異世界言語のスキルブック5つを世良事務官に渡しておいた。
「これが、スキルブック」
「視察団は4名ということでしたが、5つ用意しました。一つはサービスですから、世良さんが使ってみてください。壊せば異世界語が使えるようになりますから遠慮せず壊してみてください」
「分かりました。やってみます」
「両手で持って力を込めれば簡単に割れますから」
世良事務官はスキルブックを両手で持って力を込めたら、スキルブックは板チョコのようにぽきりと割れて、やがて砂のように崩れて消えてしまった。
念のため人物鑑定したら、異世界言語のスキルはちゃんと付いていた。
そこで俺は、世良事務官に向かって向こうの言葉で話しかけてみた。
「どうです? 視察団の人もそのスキルブックを使えば簡単に異世界言語が使えるようになって、向こうの世界の人と情報のやり取りもスムーズになり、視察も捗るでしょう」
「そ、そうですね。いま岩永さんの使った言葉は異世界語でしたよね?」と、世良事務官も向こうの言葉を使って返した。
「その通りです。これで大丈夫ですね」
川辺局長以下防衛省の面々はいきなり、聞きなれない言葉を、世良事務官が喋ったので驚いたようだ。
「木内さんの時も驚きましたが、スキルブックの効果は分かってはいても、不思議なものですな。
これで英語のスキルブックがあればわたしも欲しいところですが、防衛省では買ってくれないでしょうな」
英語のスキルブックが作れるものかコアに聞いてみて作れるようなら作ってもらってもいいな。外国人も日本のダンジョンに冒険者としてかなりの数潜っているようなので、外国語のスキルブックも作れそうな気がしないでもない。もしできたら、付け届けで送るのもアリだな。なにせ使えばその場で消えてなくなるわけだから、贈収賄的な問題は何もないはず。




