第341話 オストラン陸海軍。ニューワールド担当課
ブラウさんとローゼットさんを神殿に送り返した俺は屋敷の居間に戻った。
そこで、先ほどの話を一緒に聞いていたエヴァに、
「国の代表としてそのうち視察団を日本に送ろうと考えているわけだけど、日程は2週間くらいで日本側と調整するから、もし、エヴァが2週間くらい今の仕事から離れていいなら、視察団にくっ付いて、日本の中を見て回ればいいかもしれない。おそらくいろんな工場とか、港や空港といった施設を見せてくれると思うから将来何かの役に立つんじゃないか?」
「お父さん、ぜひお願いします」
「うん。任せてくれ」
その週、親父からイオナの絵が美術館から返送されてきたと連絡があった。俺は絵を受け取りに親父のもとに訪れている。親父はまだ受賞作を見ていないのでその場で梱包を解いて見せてやった。
「ほう。見事なもんじゃな。
こっちの風景画はわかーが、こっちの男の絵は何なんじゃ? どっかで見たことがあーようななえような」
「それは、俺が15歳くらいだったらどんなんだろうって、イオナが想像して描いた絵なんだ」
「ああ、そう言われら、中学だか高校の時のわれだわ」
「親父、この2枚のレプリカあるけど、欲しいならどうだ?」
「そりゃあーもちろん欲しえぞ」
イオナに言わずに、こんなことやっていいのか不明だったが、立派な額に入った受賞作2つをアイテムボックスにしまって、コピーを作って、額縁の掛具と一緒にコピーを親父に渡してやった。
「すまんな」
親父がニヤニヤ笑って絵を眺めていたので、
「じゃあ、親父」
「ああ」
俺は屋敷に戻って、とりあえず2枚の受賞作はイオナにことわって、どちらも応接室の壁に飾っておいた。受賞作のコピーを親父にわたしたこともイオナにことわっておいた。
そんなことがあって、週末になり、ローゼットさんを引き連れてご出勤した俺は、オストラン王国陸海軍の司令官とその副官たちと面談した。ブラウさんによると神殿の神官にも適任者がいなかったので現在軍務大臣は空席のままだ。いちおう、ブラウさんから陸海軍の司令官の人柄などの説明を事前に受けていたうえでの面談である。
最初に、成王の試合後、俺を襲撃した兵隊たちについて説明が陸軍の司令官からあった。
「王宮警備隊の兵士40名を拘束し、取り調べを行ないました。指揮した者2名はどちらも前宰相の係累で前宰相より直接指示されていたようです。軍法により処断はまぬがれませんが、取り調べを継続しています。
指揮した者2名は直属の上官および残りの38名については降格の上、地方に異動させています。
最終的責任者の私は本日辞表を持参しております」
陸軍司令官が差し出した封筒はローゼットさんが受け取った。
「辞表については預からせていただきます」
そのあと、陸海軍の現状について説明を受けた。
陸兵8万に海兵2万、合計10万人がオストラン王国の全兵力だそうだ。陸兵のうち3千が王宮警備と都の防衛、3万が国内各都市の警備、2万が国境警備、残りが訓練部隊だそうで、訓練部隊と実働部隊はローテーションしているという話だった。
自衛隊などでは災害派遣などがあるが、オストラン王国では災害がめったに起こらない関係でそういった出動はほとんどないらしい。
海兵2万のうち1万2千が周辺航路の 警戒に出払っており、残りの8千が訓練と待機で都と数カ所の港に駐屯しているという話だった。
陸軍の主力は歩兵で、主力の武器は槍とクロスボウ。騎兵はいるが伝令や索敵に使用する補助戦力ということだった。
海軍の主力はガレー船ということだった。ガレー船では遠洋航海に適さないが、主な交易相手国がこの大陸の沿岸国だけなので、それでも十分だということだった。将来的には帆船も欲しいが一気に動力船も欲しいところだ。しかし、大型帆船が発達していないということはまだこの世界は大航海時代を迎えていないのかもしれない。
俺は部屋から退出しようとしていた陸軍の司令官を呼び止め、
「先ほどいただいた辞表ですが、受理するまでは今の職を後進に譲り、軍務大臣として励んでください」
「わ、私がですか?」
「そう。頑張ってください」
「はい!」
そのあと、ローゼットさんに、いまのことを正式に手続きするよう指示しておいた。
そういえば、この国の地図や大陸の地図を見せてもらうのを忘れていた。
軍からの説明を受けた後、いつものように書類にハンコを押してその日の仕事は終了し、昼食をローゼットさんと食べて早退した。
いずれにせよ、軍からも視察団に参加させた方がいいだろう。
そして、翌日。
華ちゃんを連れて防衛省の会議に臨んだ。
その席で、防衛省側にいつもの4人の他に、私服を着た女性が一人座っていた。
「先週の岩永さんのお話を受けて副大臣ともども外務省と掛け合い、対応していただけることになりました。
こちらが外務省の世良事務官です」
「外務省の世良です。防衛省からの打診を受け、アジア大洋州局内にニューワールド担当課が設けられる運びとなり、その課長に就く予定です。よろしくお願いします」
D関連室の時も国の対応は素早かったが、ニューワールド担当課か。なんだか外務省もやる気を出したのか?
「名刺は今までのものですが、電話番号とメールアドレスは変わりません」
そう言って世良事務官が俺と華ちゃんの前にやってきて名刺を差し出したので、俺たちも慌てて立ち上がり、名刺を受け取った。
もちろん俺たちには名刺などないので、そのまま、
「岩永です。よろしくお願いします」「三千院です。よろしくお願いします」と、軽く頭を下げておいた。
もし俺が名刺を作ったとすると、オストラン王国国王、Zダンジョンダンジョンマスター、AAランク冒険者、岩永善次郎となるのか? ちょっと作ってみるか? なんだか、子ども銀行の100万円札並みに安っぽいな。
ニューワールドの存在自体はまだ公表されていないので、ニューワールド担当課がスタートする時には、当然公表されるはずだ。現状の行き来は俺を介すしかないので、その辺りをどう公表するのか興味はある。往来については全く公表しないのか、ダンジョンの先にあったと適当に誤魔化すのか?
世良さんも、はるかさんのレポートは読んでいるのだろうから、ニューワールドの文化について大抵のことは分かっているはずだ。
「両国の交流を図るうえで、オストラン王国では視察団を派遣したいと言っているんですが、いかがでしょう」
「ニューワールド担当課はまだ正式には発足していませんが、今週、今日から業務を開始しています。
もちろん受け入れさせていただきますが、担当者同士で詳細を詰めさせていただきたいので、そのように先方にお伝え願えませんか?」
「了解しました。担当者をアサインするよう伝えておきます」
まてよ、これはエヴァが日本デビューするいい機会になるのでは? エヴァが忙しければ無理だが、話だけはしておこう。マンションに固定電話を付けた方がいいな。固定電話と一緒にパソコン用のデータ回線の契約もしておくか。アスカ3号が常駐しているから、いつでも電話工事にきてもらえる。アスカたち実に役に立つ。
「オストラン側の担当者は来週この会議に連れてきます」
「了解しました。よろしくお願いします」
「何分、オストラン側には日本の文化に詳しいものはいませんので、こちらのご担当と会話がかみ合わないことがあるかもしれませんが、大目に見てください」
「もちろんです」
「そう言えば、外務省でも、何人かニューワールドの言葉が話せた方がいいですよね?」
「もちろんそうですが、そちらにいらっしゃる木内はるかさんにお願いして、テキストのようなものを作っていただけないでしょうか?」
「いま、木内さんは鋭意作成中ですのでしばらくお待ちください」
「そうだったんですね。よろしくお願いします」
「その前に、わたしの方で異世界語のスキルブックを何個か用意しましょう」
「そんなことができるんですか?」
「なんとか5個ぐらいなら用意できると思います」
「ありがとうございます。
正式にニューワールド担当課がスタートした時点で代金を支払わせていただきます。
スキルブックの買い取り価格はいかほどでしたか?」
「スキルブックについては1億円としています」と、田中事務官が答えた。
「了解しました」
スキルブック結構な値段で売れるんだ。そしたら10個くらいと言っておけばよかったかな。
コアにランダムで1000個もスキルブックを作らせれば、華ちゃん用の魔術のスキルブックも何個か手に入るだろうし、キリア用の剣術のスキルも手に入るだろう。うまくすればアイテムボックスも。いっちょう、やったるか! 残ったら防衛省に売ればいいし。そこまで予算がないかな?




