第336話 方針についての雑談
コアに確認したところ、ダンジョンを経由して日本とニューワールドをまっすぐ繋げる目途も立ったし、ゴーレムコマでダンジョン内に発電所を建設した上、適当なところにケーブルだけ通るようなダンジョンの出入り口を作ることで、ダンジョン内で発電した電気を任意の場所で利用する目途も立ったような気がする。さらに言語スキルブックの使用で言葉の問題も解決できる目途も立った。
コアルームから帰って、いつものように風呂に入り、子どもたちも風呂に入った後、夕食になった。
夕食時、ダンジョンの出入り口をどこでも設置可能だということと、ゴーレムコマを使った発電機の可能性、そして今後オストランと日本の交流でネックとなるであろう言語の問題も目途が立ったということをみんなに伝えておいた。
その後、思いついたことを夕食を食べながら話し合った。話し合ったと言っても、基本は俺と華ちゃんが話をしていただけだった。
今日の夕食の献立は、タラ鍋だった。テーブルの上にはカセットコンロが二つおかれ、各々に大きな土鍋が置かれている。各自の前にはポン酢の入った小皿と茶碗と箸。それに取り皿。
最後に残った出汁にご飯と卵を入れて雑炊にするとリサが言っていたので、俺はご飯を食べず、久しぶりに缶ビールを飲むことにした。はるかさんとリサは、まだ風呂に入っていないので、酒類は控えるということで、俺だけビールだ。
「はい、岩永さん」
俺の正面の華ちゃんが、タラの白身と出汁の沁み込んだ野菜を孔の開いたお玉で掬って俺の取り皿に入れてくれた。
アキナちゃんの取り皿にも華ちゃんが鍋の具を入れてやってた。
「華ちゃん、わらわは、シイタケましましで頼むのじゃ。ニンジンはちょっとでいいのじゃ」
「はい、アキナちゃん」
「ありがとうなのじゃ。あー、ちょっとニンジンが多いのじゃ」
結局華ちゃんが自分も含めて5人分の取り皿に鍋の具を取り分けてくれた。
テーブルの反対側は、リサが4人分鍋の具を取り分けてやったようだ。
全員の取り皿に鍋の具が入れられたところで、
「「いただきます」」
足らなければまた開けるだけなので350CCの缶にしている。
プッシュー!
かなり冷たくしていたので、缶から泡がこぼれてはこなかった。
ゴクゴク。プフー。
泡がほとんどなかったので、プファーとはいかなかった。
取り皿の中のタラの身についた皮を箸で剥がしながら、
「オストランと日本を繋げる目途と電気の目途もたったから、あとはあの大空洞をうまく利用したいよな」
皮を剥がしたタラの白身をポン酢の入った小皿に移して、一口。
10数年ぶりくらい久しぶりのタラ鍋なのだが、鍋にしたタラがこんなにおいしかったということをすっかり忘れていた。
華ちゃんも下を向いて箸で取り皿の中をつつきながら、
「大地震なんかが10年以内に起こるかもしれないと言われていますから、大空洞の中のインフラがある程度整備されれば、地震に限らず大災害の避難場所に使えるかもしれませんよ」
「ただの一時的、短期間避難なら、ピラミッドの先の空洞を大空洞へ直接繋げるだけでなんとかなるから、いざという時になってからでも間に合うと思う」
はるかさんも、下を向いて取り皿の中をつつきながら、
「地震の場合、正確な予想なんてできませんから、事前の避難は難しいですよね。
必ず起こるといって大空洞に避難して1年経っても地震が起こらず帰ってきたら地震が起こりましたでは目もあてられないし」
「それでもいずれ地震はやってくるんでしょうけどね。
たとえやってきた地震が巨大地震でもピラミッドが壊れることはないと思うけど、大津波なんかで大量の海水がダンジョン内に流れ込むことはあるな。津波が押し寄せて海水がダンジョンの中になだれ込むようなら、コアが判断して入り口をとじるか」
「そういえば、SF映画で宇宙から巨大隕石が落下して、地球が壊滅するかもって映画あるじゃないですか?」
「うん。隕石を破壊して危機を脱出するものもあれば、隕石が落下して甚大な被害が起こるものもあったな」
「隕石ならかなり正確に予測できるでしょうから、避難はできますよね」
「他国にはお気の毒だが、恐竜が絶滅したくらいの隕石が落っこちてきても日本というか日本国民だけは生き残れるな」
「そうですね。そうなると各国から人が押し寄せてくるんじゃないですか?」
「隕石が地球と衝突確実と分かってから、地球に衝突するまでの時間が長いようだと、何億人も日本に押し寄せてきますよね」
「できる限り助けてやりたいけど、そんなに人が押し寄せてくると、混乱してしまって日本人全員が避難するだけでも大ごとになるんじゃないかな」
「その時、岩永さんならどうします?」
「したくはないけど、早めにダンジョンの閉鎖かな。落ちてくるのが巨大隕石なら地球壊滅だから閉鎖しなけりゃいけないわけだし。
とはいえ、インフラを整備しない限りいくら日本の広さほどある大空洞といえども、日本人1億2千万人だけでも養えないよな。日本から道路を通して、少しずつでもいいから発電所とかを作っていかないと。幸いなのは日本の泣き所のエネルギーをダンジョンで100パーセント自給できそうなところだよな」
などと、だんだんと荒唐無稽な話になってきたところで、軌道修正。
ビールをごくごくっと飲んで、豆腐を箸で砕けないように取り皿からポン酢の入った小皿に移して、再度豆腐を摘まんで口の中に。フー、フー。まだ豆腐は熱かった。
「俺とすれば、王さまにもなったことだし、日本のことよりオストランのためにダンジョンを利用したいんだがな。
オストランを豊かにしていくための施策として、当面観光業くらいしか外貨獲得は難しいと思ったんだけど、今のところ電気がないし、水道もなくて井戸水だし、スマホも使えない。そんなんじゃ、今の日本人はだれも観光に来てくれないだろ?」
「そうですね」
「スマホはともかく、電気と水道だな。ダンジョンの中に発電所を作ったとしても電線網を作らないと始まらないし。
いずれにせよ、国内のインフラ整備には金を払って日本の技術を使うことになるんだけど、ただ日本から技術者や作業員を呼んでそういったものを作っても、メンナンスも将来にわたって丸投げになってしまう。
国としてそれでいいのかというと、そういうわけにもいかない。
せっかく国の金を使う事業なんだから、それを通じて技術を学ぶ機会にしないともったいない。
幸い言葉の壁は言語のスキルブックで何とかなるけれど、限度もあるから、スキルブックを使わせるのは現場監督くらいだよな。即戦力という意味では、それだけでも十分かもしれないが、やはり多くの人間に日本語を学んでもらいたいよな。
となれば、一にも二にも、教育が必要ということになる」
「確かにそうですね」
「はるかさんの学校でも、第1期生が卒業するのが2年以上先だし、卒業時の年齢はまだ15歳だし」
「なかなか思うようにはいきませんね」
「技術の導入に先立って、まずはそれなりの人物を日本に留学させてはどうですか?」
「その方が早いかな。人数は限られているから留学生全員に日本語のスキルブックを使わせれば言葉の壁は全くないし。
日本も明治に入って官費留学とか言って西洋に人を送っていたようだし、送ってみるか」
取り皿の中身が減ったところで、華ちゃんがまた俺の取り皿に鍋の具を入れてくれた。見ていると豆腐マシマシだった。豆腐をもっと食べたいと思っていたところでこれだ。まさに一心同体だ。




