第331話 公務2
午前中の仕事らしきものは終わったようなので、ローゼットさんに案内してもらって宮殿内を見て回ることにした。
ローゼットさん、俺、アスカ2号の順に廊下を歩いているのだが、俺の後ろのアスカ2号は首を左右に動かしながら周囲を警戒してくれている。それはいいのだが、首を左右に90度ずつ動かしながら歩いているので、見た目は相当おかしいというか異様だ。ちゃんと警戒してくれているのは確かなので、何も言わなかった。
廊下で立ち止まって俺たちに道を空けてくれる人に、どこぞの重役よろしく軽く手を挙げてやったりしながら宮殿内を回っていった。
何回か廊下を折れて歩いていたら、廊下に面して整然と扉が並ぶ一画に出た。ローゼットさんが言うには、大臣たちの執務室が並ぶ一画なのだそうだ。一番手前の部屋がブラウさんの執務室ということだった。真面目に仕事をしているところを邪魔しては悪いので、顔は出さずに素通りした。
官僚たちの部屋は王宮内ではあるが、宮殿とは別の棟にあるそうだ。それとは別に軍関係者の入っている棟も王宮内に建っているそうだ。
そんな感じで宮殿内を一通り見て回った俺たちは、執務室に戻った。
椅子に座って一息入れていたら、俺専用食堂に昼食の用意ができたと侍女の人に知らされた。
知らせてくれた侍女の人に連れられてローゼットさんとアスカ2号を連れて食堂に入ると、テーブルの上には野菜サラダと、丸パンとバター、それに、空の深皿と水の入ったグラスが一人分並べられていた。
「ローゼットさんは?」
「わたしはもう少し後で、職員用の食堂で食事します」とのことだった。
「2人分の用意はできるのかな?」と侍女の人に聞いたら、もちろんです。と言われたので、
「ローゼットさん、よかったら一緒にどう?」
「はい。ありがとうございます」
侍女の人が一度部屋を出て、お盆の上に一人分の食器とサラダなどを運んできてローゼットさんの前に並べてくれ、最後に深皿にシチューをよそってくれた。
侍女の人はそのあと、アスカ2号と並んで扉の前に立って控えてくれている。
微動だにせずひとことも口をきいていないアスカ2号のことを彼女はどう思っているのか分からないが、説明するのも面倒なので放っておいた。
食事の用意ができたところで、
「いただきます」
「?」
「これは、食事する前のあいさつだな。食事できることを感謝する意味があるんだけど、誰かと一緒に食べる時に『これから一緒に食べますよ』って合図の意味が大きいな」
「それでは、わたしも『いただきます』」
これで、いただきます教の信者が一人増えた。
サラダを食べた後、湯気の立つクリームシチューをスプーンですくって口に入れた。ちょっと味が薄めかと思ったが、結構おいしい。
「おいしい」
丸パンも焼きたてらしくまだ温かく柔らかかった。
「食べ終わったら、『ごちそうさまでした』。これも感謝の言葉だな」
「「ごちそうさまでした」」
俺たちが食べ終えたところで侍女の人はテーブルの上の物をワゴンに片付け、お茶をお持ちしますと言って食堂から出ていった。
3分ほどでお茶の用意を乗せたワゴンと共に彼女が帰ってきて、紅茶を用意してくれた。
「「ありがとう」」
お茶をおいしいと表現するのがいいのか分からないが、いいお茶ということはなんとなくわかる。リサの淹れてくれる屋敷のお茶もいいお茶と思うが種類は違うようだ。
ローゼットさんとお茶を飲んでいたら、先ほど書類を運んでくれた神官のおじさんがやってきた。
「陛下、各国大使を引見するお時間です。玉座の間へお越しください」
マップスキルのおかげで、玉座の間の場所は覚えているのだが、迎えに来た神官のおじさんとローゼットさんの後について王さまらしく玉座の間に向かった。アスカ2号は相変わらず首を左右に90度動かしながら俺の後ろに付いてきている。
玉座の間では、ブラウさんは俺の玉座のすぐ左に控えていて、さらにその左にローゼットさん。アスカ2号は俺の右。残りの左右には神殿の神官や巫女たちが控えていた。
一国の王さまなのだから、王冠とか王笏といったラシイ小物があってもいいと思うのだが、誰も何も言ってくれないので、そんなものはないようだ。俺のミスリルのヘルメットでは受けはするだろうが、王権が失墜する可能性も無きにしも非ず。
今日の俺はお出かけ用の服として、グレイの無地のジャケットに、厚手のフランネルシャツ。下は黒のスラックスをはいているのだが、どう見ても陛下のお召し物に見えないような気がする。靴は茶色のキャンパススニーカーだし。
俺が自分の出で立ちを多少気にしながら玉座に座っていたら、係の人?が大きな声で、
「ノルダユスパノ帝国、大使閣下」と告げた。
その声と同時に玉座の間の扉が開かれ、立派なひげを蓄えた大柄なおじさんが入ってきて、5メートルほど離れたところから、俺に向かって、
「陛下のご即位を心からお祝い申し上げます。陛下のもとで、オストラン王国がますますのご発展を、ノルダユスパノ帝国皇帝および帝国臣民に代わりお祈り申し上げます」
そう言って、おじさんは俺に深々と頭を下げた。
「大使殿、こちらこそよろしく頼む」
俺も王さまに成った経験はないし、西洋風時代劇などあまり見た記憶はなかったので、当たり障りなく答えておいた。
おじさんは「ははぁー」といって退出していった。
「陛下、今の感じでよろしくお願いします」と、ブラウさんに小声で言われた。合格だったようだ。
そのあと、各国の大使が順番に玉座の間に登場し、最初の大使と似たようなあいさつを交わした。
「陛下、各国大使の引見は終わりました。お疲れさまでした」
ブラウさんに終了宣言をしてもらった。
「今日はこんなものでいいんですね?」
「はい。ありがとうございます」
これで俺の今日一日の仕事は終了した。
ブラウさんによれば、玉座の間に入室した順にいわゆる大国だったそうだ。
確か、最初がノルダユスパノ帝国、次がアルテメ王国、3番目がノルトナ共和国だったハズ。
何か具体的な事件なりが起こればそういった国々のことも覚えることができるだろうが、俺には明日になれば国名などすっかり忘れる自信がある。




