第328話 玉座2
宰相以下の大臣たちは逮捕してしまったが、前の国王はどうなったんだろう。試合場にいたのかどうかも分からないのだが。
ということで、ブラウさんに聞いてみた。
「今までのこの国の王さまはどうなったんですか?」
「形式上、陛下があの試合で勝利した時点で退位しています。
前王の隠居所などはこちらで用意しますから陛下は気になさる必要はありません」
「王族は?」
「王族としての待遇はなくなりますが、相応の年金を与えます」
「わかりました。
ところで、わたしはこれから何をすれば?」
「そのうち王として何をするべきかということが見えてきますから、最初のうちは玉座に座って、よきに計らえで十分です。
官僚たちを集めましたので、ひとことお願いします」
聞いてないよそんなこと。
俺の座った玉座の正面の大きな扉が開かれ、50人ほどのそれなりに歳をとった男女がぞろぞろと玉座の間に入ってきて俺の前で整列した。彼らの後ろには、神殿兵が数名立っている。
目の前の連中が、オストラン王国の高級官僚たちなのか。
その連中に向かって、ブラウさんが、
「陛下はエドモンド大王の定めた法に従い王となられた。
また、継世の巫女であるこのブラウが短い間ではあるが、法に従い陛下の補佐を務める。そして同じく法に従い、オストラン神殿の神官、巫女が捕縛された大臣たちに代わって政務に就くこととなる。
その方たちも異存はあるまい。異存あるものは一歩前に出て申し述べよ」
もちろん誰も前に出なかった。もしそういった者がいた場合、おそらくブラウさんによって罷免されたと思う。
「みな、異存はないようだな。よろしい。
これより陛下のお言葉がある」
腹を決めた俺は玉座から立ち上がり、目の前のおじさんおばさんに向かって、
「わたしが聖剣を石より引き抜き、成王の試合に勝利したゼンジロウ・イワナガです。
突然王さまが代わって、しかも大臣もいなくなって戸惑っているかもしれませんが今まで通り王国のため、しっかり励んでください」
思いつくことを適当に口にしたのだが、目の前の官僚たちは全く反応しなかった。
彼らは、聖剣を石から引き抜いただけ、成王の試合で勝っただけの脳筋の素人が王さまに成ったと思っているのだろう。実際、実績など何もないわけだから、それは仕方がない。
ここで、なにくそ! とか思って発奮できればそれに越したことはないのだが、発奮したくても発奮の仕方すら分からない。
俺の気持ちを察してかどうか分からないが、ブラウさんが、
「皆、陛下のお言葉通り励むよう。下がってよろしい」
ブラウさんの言葉で、官僚たちがぞろぞろと玉座の間から退出していった。
これから先が思いやられるような気がしたのは俺だけではないと思う。
官僚たちが全員玉座の間から退出し、玉座の間の扉が閉まったところで、ブラウさんが俺に、
「陛下の宮殿内の居所などは今日中に準備させますから、今日はいったん神殿に帰り、明日また入城しましょう」
「ブラウさん、それならわれわれは転移で神殿に帰りましょう。
馬車は神殿に返さなければいけないから、馬車ごと転移させた方がいいかな?」
「わたしは神殿へ戻りますが、他の者はまだ宮殿で仕事があるので馬車は王宮に置いていても大丈夫です」
ブラウさんが、控えていた神官の一人に二言三言指示を出し、その神官は残りの神官と巫女を引き連れて玉座の間を後にした。
華ちゃんたちが俺の手を取ったところで、アスカ1号と2号をアイテムボックスに収納し、
「じゃあ、ブラウさんもわたしの手を取ってくれますか?」
最後にブラウさんが俺の手を取ったところで「転移」
神殿の大ホールに俺たちは転移した。
「ここは神殿のホール。
転移は初めての経験でした。
それでは陛下、今後のことを含め簡単にご説明しましょう。
みなさんもこちらにどうぞ」
ブラウさんに案内され俺たちは会議室のような部屋に入り席に着いた。神殿側の人はブラウさんだけだった。
ブラウさんから逮捕した大臣たちについての説明で会議が始まった。
「逮捕した大臣たちですが、弑逆の罪を恐れず陛下に兵を向けたわけですから、王の交代を恐れるそれ相当の理由があったのでしょう。
考えられる理由として、まず宰相ですが、前国王をないがしろにして国政を壟断し専横していたことは周知の事実です。それだけで断罪することはできませんが、おそらく王国印を私物化していたと考えられます。
国王が代わればこのことは必ず表に現れ、死罪となるわけですから、成王の試合終了後にもかかわらず、陛下に対して兵を向けたのでしょう。
逮捕したそのほかの大臣たちですが、これから不正を行なっていなかったか調査します。彼らの下で直接働いていた官僚に対して免罪を条件に話を聞けば簡単でしょう。どこの国の大臣も多かれ少なかれ不正ないしは不正に近いことをしているものですが、度を越していれば、大逆罪による処刑と一族誅滅を恩赦で許したとしても、私財を没収の上、獄に繋ぐ必要があるでしょう」
かなり厳しいことになるようだ。
「次に、国政についてですが、最も大切なことは財政です。
精査しなければ正確なところは分かりませんが、国庫は裕福とは言えないはずです。最悪国庫は空で商人たちから借金している可能性もあります」
バレンから都までの街道があれほど整備されていたから、そうとう富んだ国かと思っていたのだがそうでもないらしい。
「ですので国の収入を増やしていく必要があります。
もちろん税を上げれば国庫は回復しますが、長い目で見れば国の産業が衰え、国民も活力を失いますのでお勧めできません」
「それなら、どうすれば?」
「この国が借金したところで、10年やそこらで破産するわけではありませんから、じっくりと産業を育て、国を富ましていくことが肝要でしょう」
ブラウさんは神殿の経営者だけに、そういった経済に造詣が深いようだ。日本ではないが、国民に蓄えがあるようなら、国債を発行してもいいしな。
「この国の産業というと?」
「農林業、漁業、鉱工業、そしてダンジョンになります。そしてそれらに付随して商業、運送業があります」
「なるほど」
「次に、軍事についてです。
幸いなことに、現在この国と周辺国との間には紛争など起きていません。
従って、軍の維持だけは必要ですが、軍を動かす必要がないため、不測の出費はありません」
「ちなみに、この国の軍隊っていくらくらいいるんですか?」
「国内各地に駐屯していますが、陸に8万、海に2万、合わせて10万人と聞いています」
多いのか少ないのかは分からないが、この国は結構広いから、それほど多いわけではないのかもしれない。そのうち地図を見せてもらわないとな。
「何にせよ、先立つものが必要ということじゃな」
「アキナさまのお言葉通り、政治とは、いかに金を集め、いかに使うかということに尽きると思います」
そういったところは日本と変わらないのかもしれない。
「国の経営についてはそれほど急ぐ必要はありません。今まで通りやっていき、改善できるところは少しずつ改善していけばいいでしょう。
ちょうど年末の休み前、エドモンドⅠ世の即位100周年記念式典がこの神殿で開かれますから、そこで正式に新王の誕生を国民に知らせましょう。記念式典には各国の大使が参加しますので、その時に、陛下の戴冠式の日程を知らせればよいでしょう。
戴冠式は年が明けて、三月末か四月初か。その辺りで調整します。陛下よろしいですね?」
「はい。お任せします」
ブラウさんは宰相にうってつけに思えてきた。俺が聖剣を引っこ抜いて王さまに成ったんだから、もう継世の巫女の仕事はなくなったはずだ。神殿のことは部下に任せても何とかなるんじゃないか?
「ブラウさん、いいですか?」
「はい、何でしょう?」
「ブラウさん、さっきは短い間わたしの補佐をしてくれるって話だったけど、わたしが王さまに成ったことで、ブラウさんの生涯の仕事は実質完了しちゃったわけですよね?」
「確かに。わたしの本当の意味での仕事は終わってしまったんですね」
「でしょ。だったら、短い間の補佐ではなく、ちゃんとした宰相になってくれませんか?」
「えっ!? わたしがですか?」
「神殿の経営なら部下に任せることもできるんじゃないかと思って。
どうしてもいやなら、仕方ないですけど」
「陛下のみ心のままに」
「ブラウさんへの注文はただ一つ。
わたしのことは2の次、3の次で構いませんから、この国を発展させることだけを考えてください」
「分かりました」




