第327話 玉座1
王座をかけた『成王の試合』で、俺の如意棒が王宮側の立てた当代一の槍の使い手という触れ込みの対戦相手の喉元に。それで相手は手にしていた槍の残骸を投げ捨て降参してしまった。
詰めかけた観衆から拍手と歓声が上がる中、あまりのあっけなさに拍子抜けした俺はUターンして華ちゃんたちがいる神殿席に向かって歩いていった。
数歩歩いたところで、コツン、コツンと俺のミスリルのヘルメットや革鎧に何かが何度も当たって弾かれ地面に落ちていく。地面には長くはないがかなり太めの矢が10本ほど転がっていた。おそらくクロスボウの矢だ。
クロスボウで射かけられたのか。まかり間違えれば、神殿席にケガ人が出る。まあ、キリアもいればアスカ1号、2号もいる。クロスボウの矢など簡単に叩き落すとは思うが危ないことをするものだ。
うちの連中とブラウさんを中心とした神殿側の席の周囲で警戒する神殿兵たちがそれぞれの武器を構え試合場に入り始めた。
俺は、神殿兵たちに向かって、
「俺は大丈夫だから、ブラウさんたちを守ってくれ」
そう言ってから振り返り、クロスボウに矢をつがえようとしている十数名の兵隊に向かってゆっくり歩いていった。
兵士たちは装填の終わったクロスボウを順に発射してくる。五月雨式に飛んでくるクロスボウの矢を飛んでくる端から如意棒で叩き落としてやったら、射撃を諦めてそれ以降装填することなくクロスボウを投げ捨てて逃げていった。何もクロスボウを投げ捨てなくてもいいだろうと思ったが、かなり大きなクロスボウなので重たかったのか。
試合後の騒動で観客たちが騒然とする中、今度は20名ほどの兵隊たちが宮殿側の席の脇から剣を抜いて試合場になだれ込んきた。
俺の感覚は3倍速なのでかなりのスローモーションだ。
先ほどまで静かだった宮殿側の席から「アヤツを殺せ!」とか「ぐずぐずするな!」とか、大声が聞こえ始めた。
俺に剣を抜いて向かってくる兵隊たちを皆殺しにしても文句を言われる筋合いはないが、今の俺が人に向かって真面目に如意棒を振るってしまうと、風船が破裂するように人体が破裂するような気がしたので、兵隊たちの剣だけを叩き折ってやった。
5本ほど剣を叩き折ったところで、兵隊たちは宮殿の方にではなく、騒然とする観客を押しのけて王宮の門の方に向かって逃げていった。逃げていった兵隊たちのうち、数人の手首はあらぬ方向を向いていたが、元気に走っていった。訓練の賜物なのだろう。
俺は逃げていった兵隊たちは放っておいて、逃げ出そうとしていた『俺を殺せ!』とか叫んでいた連中を一人ずつ順に俺の目の前に転送して、如意棒を突き付けてやった。
「俺は、杖術だけじゃなくこういったこともできるんだがな。
お前たちが俺をどうしても殺したいという気持ちは理解できるが、卑怯なことをした以上覚悟はできてるんだろう?」と、すごんでやった。
誰も何も言わずに下を向いているので、俺もいい気になって、
「この試合に勝ったこの俺がこの国の王だ。そうなんだろ? 分かったら、分かりました。と、ちゃんと返事をしろ!」
「「わかりました」」と、下を向いたままのおっさん、おばさんからボソボソと低い声で答えが返ってきた。
「お前たちはそこに座っていろ!」
試合場の真ん中に王宮側のお偉方らしい連中を座らせてやった。今の俺は3倍速なので、ヘリウムガスを吸ったあとみたいな声で偉そうに命令したのかもしれない。将来的に話題になることは容易に予想できる。この状態が解除されるまで、威厳もへったくれもないな。
「お見事です!」
ブラウさんたちが俺の方にやってきた。案の定ブラウさんの声はものすごーく低くておじさんの声に聞こえた。
華ちゃんたちも周囲を警戒しながらブラウさんと一緒に俺のもとに集まってきた。
「ブラウさん、こいつら逃げ出そうとしていたので捕まえました。こいつらの命令で兵隊が試合の後仕掛けてきたんでしょう」
「ここにいるのは宰相以下の大臣たちです。
逃げ出した兵隊たちを捕らえて誰の命令によるものか確かめますが、この者たちによる命令であることが確認されれば神聖な成王の試合を穢したわけですから、死罪は免れぬでしょう」
「死罪は重くありませんか?」
「国法によれば、ゼンジロウ殿が試合に勝った段階で、ゼンジロウ殿はこの国の王となっています。
彼らは、王に向かって武器を向けるよう兵隊たちに命じたとなると大逆罪が適用されます。
先ほどのクロスボウなどゼンジロウ殿でなければハリネズミになっていたわけですから減刑の余地などどこにもありません」
そう言ったあと、ブラウさんは、大きな声で試合場の外に向かい、
「王宮の兵たちよ、よく聞け。神聖なる成王の試合が穢された。だが試合の勝者はこの通り健在じゃ。
われ継世の巫女、ブラウが宣する。オストランの真の王はこのゼンジロウ・イワナガじゃ。不服のある者は覚悟して申しでよ!」
しばらく辺りが静かになった後、どこからともなく「ゼンジロウ王万歳!」の声がした。そしてその声がだんだん大きくなり、王宮中から「ゼンジロウ王万歳」の声が轟いた。
その間に大臣たちは神殿兵たちによって縛り上げられて引っ立てられていった。神殿兵たちは手回しよく、ロープなども用意していたようだ。
試合の興奮とその後の混乱の中、俺もその気になってしまい気付けば玉座に座っていた。ヘルメットと手袋を取っただけの姿なのだが、漆黒のエナメル風革鎧が逆に威厳をかもしだしている。かも? 華ちゃんに頼んで、ヘイストだけは解除してもらった。アキナちゃんの祝福は解除不能だそうで、現在は、通常の2倍速モードになっている。もはや手遅れかもしれないが、威厳を保つためには極力低い声をこころがけるしかない。
宰相以下この国の主要な大臣たちを試合後の混乱の中で逮捕してしまったので、大臣不在なんだけど、今となっては俺の国、これでいいのか?
玉座に向かって右手に華ちゃん、左手にアキナちゃんとキリア。華ちゃんの右にブラウさん。そして、俺の後ろにアスカ1号と2号。俺たちを中心に、オストラン大神殿の神官や巫女が左右にいながれている。
華ちゃんとキリアは緊張しているようで真面目な顔をして立っているのだが、予想通りアキナちゃんはニマニマしていた。女神さまが緊張したらおかしいものな。
俺の座っている玉座は、見事な彫り物が施された黒檀だか紫檀だかそういった感じの硬い木でできた背もたれだけ異常に大きな椅子なのだが、見た目が立派なだけで、座り心地はいまひとつどころかいまみっつだ。それでも俺は背筋を伸ばして、少しでも偉そうに見えるように座っている。
「ブラウさん、兵隊たちが向かってきたのはやっぱり大臣たちの命令だったんですか?」
「捕らえた兵隊たちは宰相以下の命令で陛下に向かったと証言しました」
「ブラウさん、大臣はいなくなったし、わたしが王さまでこの国の経営は丈夫なんですか?」
「大臣がいなくてもちゃんと官僚たちがしっかり国を回していきますから大丈夫です。
官僚たちの中から有能な者を陛下の名まえで取り立ててやれば、今まで以上に働くでしょう」
「逮捕した大臣たちはどうなるんですか?」
「彼らは、成王の試合に勝利して陛下が正当な国王となったのち、陛下を弑そうとしたわけですから、大逆の大罪人です。国法に従えば、私財を没収の上、一族誅滅となりますが、陛下に忠誠を誓うなら、陛下の即位での恩赦として許すこともできます。陛下に忠誠を誓わないというなら、法を厳格に適用することになりますが、彼らもそこまでバカではないでしょう。
とはいえ、他国にでも逃げられては面倒ですので、現在、各大臣の家人を捕縛するため彼らの屋敷に兵を差し向けています」
いやに手回しがいいが、もちろんこうなることはブラウさんはわかっていたのだろう。
「官僚の上に大臣がいなくて大丈夫なんですか?」
「当面は、神殿の神官と巫女が大臣を務めます。この日のために神殿ではそれなりの教育を行なっているので間違いはありません。国が落ち着けば、新たな大臣を陛下が任命してください。
試合後の大臣たちの捕縛も含め、こういったことは全てエドモンドⅠ世時代に定められた法に基づいていますから国民も納得します。ご安心ください」




