第325話 成王2、試合前夜
オストラン大神殿で聖剣を引っこ抜いてしまった俺は、一週間後、王さまの代理人と真剣勝負を行なうことになった。当然都見物どころではない。
真剣勝負の前日の夕方に神殿入りする。と、オストラン神殿の大神官に当たる継世の巫女、ブラウさんに約束して、俺たちはオストラン神殿から屋敷に戻った。
真剣勝負の話に最初は動転したが、何とかなるだろうという気になってきたのも事実だ。
とはいえ、暢気に構えているわけにもいかないし、最近如意棒を真面目に振り回していないので、少し体を動かすことにした。
上着を脱いで裏庭に出た俺は、如意棒でエアー対戦相手と戦っていたら、キリアも裏庭で素振りを始めた。
対戦形式でキリアと訓練してもいいかもしれないが、どちらも一振り一振りが必殺の域に達しているはずなので、それは止めておいた。
王さまの代理人と戦って勝つと、王さまに成るという状況から現実逃避して、いい気になって如意棒を10分ほど振り回していたのだが、屋敷を見回りしていたアスカ1号がちょうどやってきた。アスカ1号ならちょうどいい。
「アスカ1号、ちょっと俺の素振りの相手をしてくれ。俺がこの棒を振り回すからちゃんと避けるんだぞ」
「はい」
アスカ1号を相手に如意棒を振り回してみた。最初アスカに当てては大変だと思って手加減して如意棒を振り回していたのだが、手加減などしなくても俺の如意棒が当たる心配などなさそうな動きでアスカは如意棒をかわしていく。地面さえしっかりしていれば、俺の杖術ではアスカにかなわないかもしれない。それくらいアスカの動きは良かった。
そうやってアスカ1号としばらく訓練していたら、アキナちゃんがやってきた。
「ゼンちゃんも、王さまに成る気満々じゃな」
とか言われてしまい、現実に引き戻されてしまった。
「なるようになると思うけど、王さまって何するんだろう?」
「それは、国を守り、国を富ませるのが仕事じゃろ? 家来に仕事をいいつけて、いい仕事なら褒めてやり、そうでなければ叱る。信賞必罰を徹底しさえすれば、自ずと国は良くなり栄えていくのじゃ」
アキナちゃんの本当の意味での年齢は12、3歳のはずなのだが、ちゃんとした国家観を持っているようだ。神殿で英才教育を受けていた可能性が高いな。
アスカ1号を相手に1時間ほどほとんど休まず如意棒を振り回して、体を動かしたが、汗などかかなかった。俺の体はそうとう丈夫になっている。
そろそろ風呂の時間だと思って、
「キリア、俺はそろそろ風呂に入ってくるから。キリアはまだ続けるのか?」
「はい。もう少し続けます」
「それじゃあ、アスカを相手に訓練すればいい」
「はい」
「アスカ、さっきのようにキリアの動きに合わせて剣を避けるんだ」
「はい」
今度はキリアがアスカ1号を相手に素振りを始めた。タダの素振りよりよほど効果があると思う。
翌日。俺は華ちゃんを連れて防衛省との会議に日本に跳んだ。
会議では、防衛省側から、俺が提供したダンジョン・アニマルのサンプルを分析した結果、全て可食であり、完全栄養食であることが確認されたという話と、全32個のダンジョンの出入り口が幅5メートル、高さ3.5メートルとなったと報告があった。
さらに、各階層の階段を繋ぐ本道でスライムや大コウモリがこれまで出現していたが、それらの出現が一度も確認されなかったという報告があった。
本道にモンスターが出現しなくなったか、たまたまなのかはもう少し時間を置いて判断するという話だった。モンスターが本道に出現しないと判断できれば、本道内に無線基地局を設置するそうだ。思惑通りで大変よろしい。
俺の方は、真剣勝負して勝てば向こうの国の王さまに成ってしまうとはさすがに言っていない。
それから5日経ちオストラン大神殿に戻る日がやってきた。その間、都から馬車で2週間もかかるバレンまで刺客が現れることはなかった。
たった5、6日特訓しただけだったが、なんとなく体が引き締まってきた気がする。真剣勝負の前にそれほど緊張しないのは、これも、マックスの杖術スキルのおかげだろう。
向こうでは、試合の前後、何が起こるか分からないので、一心同体の3人だけ連れて都に向かうことにした。華ちゃんにはヘイストなどのバフ魔法をかけてもらうため、アキナちゃんには5割増し効果に加えて祝福してもらうため、そして、キリアは華ちゃんとアキナちゃんの護衛のためだ。これで万全だ。
俺たち一心同体は玄関ホールに集まり、屋敷に残る5人に見送られて転移した。俺だけ防具を着ての完全武装だ。華ちゃんたちの武器や防具、一泊分の着替えなどは俺がアイテムボックスに預かっている。今回はアスカ1号、2号もアイテムボックスの中だ。
転移した先はオストラン大神殿の正面。
俺が先頭に立って神殿の大ホールの中に入ると、青い巫女服を着たブラウさんたちが俺たちを待っていた。
「おう、何と凛々しい。
あれっ? ゼンジロウ殿、聖剣はお差しにならないのですか?」
「いちおう、わたしの武器はこの棒ですので」
そう言って、アイテムボックスから如意棒を取り出してブラウさんに見せた。
「これはまた。すさまじいばかりの棍ですね」
「はい。ところで対戦相手のことで何か分かったことはありませんか?」
「王宮側は発表していませんが、先日、当代一の槍の使い手といわれる、イシューン・トレゾーが王宮入りしたと聞いています」
相手が槍ということは、俺の如意棒の間合いの有利さは望めなくなったということか。
おそらく敵は戦慣れした海千山千の手練れだろうし、卑怯な手を使ってくる可能性もないわけではない。どんな手を使ってでも俺を殺せば王宮側の戦略的勝利だ。
といっても、俺には華ちゃんたちという強い味方がいる。今回はアスカ1号、2号も、もしもに備えて華ちゃんたちに預けるつもりだ。1号も2号も同じ戦闘服姿でアイテムボックスの中に入れて連れてきている。まっ、何とかなるだろう。
今回の試合での負けは死ぬことと同義なので、試合に勝って成りたくもない王さまになる道しか俺には残されていない。
俺たちはブラウさんたちに案内されて、前回と同じ部屋に案内された。
「あと30分ほどで、晩餐の準備が整います。お呼びしますので、それまでお部屋でおくつろぎください」
ブラウさんがお付きの巫女さんたちを連れて帰っていった。
4人で部屋のソファーに座ったところで、
「ゼンちゃん、明日が待ち遠しいの」と、ニマニマ笑いながらアキナちゃん。
アキナちゃんのニマニマ笑いって、世の中をアキナちゃんの都合のいいように動かす力があるような気が何となくするんだよな。
しかもアキナちゃんの都合には俺たちみんなの幸せのようなものまで入っている。俺が一度死んで蘇ったことはまさしく神の奇跡だったが、アキナちゃんのこのニマニマ笑いもある種の奇跡なのではないだろうか。
「早くケリをつけたいことは確かだけどな」
「岩永さん、明日は真剣勝負ですから、やはり相手を斃しますか?」
「相手が俺を殺しにくるのだろうから、その気でいくつもりだ。試合相手に恨みはないが、俺からすればモンスターと変わらないからな。もちろん、相手が降参すればそこまでだ」
「手加減しないと聞いて安心しました」
アキナちゃんとキリアも頷いていた。
「それでも、誰から見ても俺が勝ったと認めさせなくちゃいけないから、一応は杖術だけで勝負するつもりだ。
明日俺が勝てば、最悪、王宮の兵隊たちに襲われる可能性もあるから、みんなも周囲の警戒はくれぐれもな」
「「はい」」「もちろんじゃ」
「華ちゃん、明日はアスカ1号、2号も念のため出しておくから、もしもの時は命令してやってくれ」
「はい」
そんな話をしていたら、扉がノックされ、晩餐の用意ができたのでお越しください。と、告げられた。
案内された部屋は、大きなシャンデリアがぶら下がったかなり広い部屋で、俺たちが部屋に入ったところで、テーブルの向こう側に座っていたブラウさんが立ち上がって迎えてくれた。
「どうぞおかけください」
ブラウさんの正面に俺、俺の左に華ちゃん、右にアキナちゃんとキリアの順で席に着いた。
すぐに料理が運ばれ、食事が始まった。
前回と同じく、豪華な食事を堪能しながら、明日の試合について話を聞いた。
試合の場所は、王宮内に設けられた試合場。試合開始は午前9時。勝敗は一方の選手が動けなくなるか、降参した場合、相手方が勝利する。降参の仕方は武器から手を離し、大声で『降参』と宣言する。
「真剣勝負ですから、動けなくなるということは、そういうことでしょう」と、あっさりブラウさんに言われてしまった。
分かっていても、口ではっきり言われるとくるものがある。




